第4話
第4話
「……それは何だ」
魔王の興味が工具ベルトへ移った。
(……今だ!ここで食いつかせないと終わる!)
ニーナは工具ベルトからレンチを取り出した。
「これは!私の宝物……工具ベルトと、レンチです!」
場の空気が、凍りつく。
「……は?」
誰かの呆然とした声が、やけに響いた。
当然である。
魔王の御前で、謎の人間が工具を掲げているのだから。
(やばい)
遅れて、現実が追いついてきた。
(これ、完全にやらかしてる)
目の前には魔王。周りには魔族。逃げ場なし。
(処刑だこれ!!!)
脳内で警鐘が鳴り響く。
しかし――ここで終わるわけにはいかない。
「ま、待ってください!!」
勢いよく叫ぶ。
びくりと何人かの魔族が反応した。
「なんだ」
低い声。完全に裁判モードである。
ヒィいいいいこわい。
でも、でも!!!まだ死にたくないもん!!!
仕方がない、命には変えられない!!
「まだ、まだあります!!」
私は必死に鞄を漁った。
「これ!開発メモです!!」
分厚いノートを取り出して掲げる。
「発明家の命なんです!!これがないと何も作れません!!」
だから命だけは見逃してほしいという全力アピールである。
沈黙。
……反応がない。
(だめだ、全然刺さってない)
そりゃそうだ。魔王だもん。
発明家の命とか知らないよね。
「えっと、それからそれから……!」
焦りで手が震える。
次に掴んだのは、金属製の筒状の装置だった。
「あっ!」
私は顔を上げる。
「これ!これです!!」
思わず声が弾む。
「取っておきの自信作!!」
場の空気など完全に忘れていた。
「自動茶沸かし器です!!」
シーン……。
沈黙からの、低い声。
「……は?」
再び、誰かが呟いた。
「お湯を沸かすのに魔力いりません!!しかも温度一定!スイッチ一つで起動します!!」
ニーナは早口でまくしたてる。
この自動茶沸かし器は、小型の蓄電筒――つまり手作り電池で動く。
金属と薬液から起こした力を溜めて、熱に変換する仕組みだ。
魔力がなくても、お湯が沸く。
かなり画期的なのである!
「そこの人!茶葉と水下さい!」
「……は?」
指されたのは、給仕服を纏った女性の魔族だった。
小さく巻いた羊の角と、柔らかそうな耳が黒髪から覗く。
魔王もそうだが、人型を持つ魔族は黒髪の人物ばかりだ。
一瞬戸惑いを見せたが。
「……こちらで、よろしいでしょうか」
水と茶葉を、差し出してくる。
「あっ、ありがとう!」
そしてニーナも普通に受け取る。
その魔族は給仕という仕事柄か、丁寧にお辞儀をして下がっていった。
めっちゃいい人だ。彼女はニーナの中で即良い人に認定された。
「ほらここに入れて――」
慣れた手つきで水を注ぎ、茶葉をセットする。
「ここ押すと――」
カチッ。
スイッチを押した。
ぶぅん、と低い音が鳴る。
次の瞬間、しゅうううう……と、白い湯気がゆっくりと立ち上った。
「――ほら!」
ドヤ顔で周囲を見回す。
カップに注げば、湯気とともに香りが広がる。
完全におもてなしである。
「はい、お茶どうぞ!」
しん、と。
広間が、静まり返る。
魔族たちは固まったまま動かない。
魔王も、動かない。
(あれ?)
さすがに不安になる。
(これ、やっぱりダメなやつ?)
ごくり、と唾を飲み込んだ、その時。
「……それは」
魔王が、ゆっくりと口を開いた。
重々しく、静かに。
「……どういう原理だ」
「え?」
予想外の問いに、間の抜けた声が出る。
「魔力を使わずに、熱を発生させているのか」
視線が、装置に向けられている。
明らかに、興味がある顔だった。
「え、あ、はい!そうです!」
食いついた。
私は反射的に答える。
「内部構造で熱を生み出してて――あ、図解あります!!」
即座にノートを開く。
ぱらぱらとページをめくり、
「ここです!ここ!」
床に広げて説明し始めた。
完全にプレゼンモードである。
「この部分でエネルギー変換して――」
語りながら、はっとする。
(あれ?)
顔を上げる。
魔王と、目が合う。
(……これ、もしかして)
恐る恐る確認する。
「……処刑、じゃないんですか?」
一瞬、空気が止まった。
「……」
沈黙の後、魔王は、ほんのわずかに目を細めた。
その赤い瞳の奥は、少しだけ柔らかさを帯びている。
「……続きを話せ」
その一言で、この場の“処刑”は“評価”に変わった。
「はい!!」
即答だった。
つづく
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