第1話
新作短篇小説、初日の本日は時間ずらして3本立てです!
明日から夕方に1日1本ずつ上げます。
第1話
人生、二度目なんてあるわけない――と、思っていた。
「……あ、これ知ってるやつだ」
目の前に広がるのは、見覚えのない石造りの天井。
なのに、頭の中には“別の人生”の記憶がしっかりと残っている。
日本という国での、満員電車。終わらない残業。上司の理不尽。
そして――気付いたら、机に突っ伏したまま意識が途切れた。
「うん、過労死だねこれ」
冷静に分析しているけど、まあショックはある。たぶん。
けれど問題はそこじゃない。
「で、なんで赤ちゃんやり直してるの?」
そう。
私は今、別の世界で“第二の人生”を始めていた。
――というのが、十七年前の話である。
現在。
「よし、完成っ!」
私は工具を掲げて、満足げに笑った。
胸元まで伸びたミルクティー色の髪は、作業の邪魔にならないよう無造作にまとめている。
それでもこぼれた毛先が、頬のあたりでふわりと揺れた。
大きな蜂蜜色の瞳が、きらきらと輝く。
ここは王城の地下深く。誰にも見つからない、私だけの工房。
そして私は――ニーナ・アルシェル。とある国の第四王女、十七歳。
くるりと回る。とても着心地が良い服だ。
本来なら華やかなドレスであるはずの服は、すっかり作業用に改造されていた。
動きやすいように裾は短く、袖も調整済み。
そして腰にはもちろん。
じゃらり、と、工具ベルトが軽やかな音を立てる。
そこには、ハンマーやレンチ、見慣れない部品までぎっしりと詰め込まれていた。
「王女なのに地下に引きこもってるってどうなのって話だけど、仕方ないよね!」
だって。
「発明スキルなんてものに目覚めちゃったんだから!」
そう、これ。これが全ての元凶。
幼い頃、前世の記憶と一緒に目覚めたこのスキルは――とにかく便利で、そして厄介だった。
頭の中に、構造が浮かぶ。仕組みがわかる。作り方がわかる。
「要するに、作れちゃうんだよね。いろいろ」
結果。
地下に潜った。
王女らしい教育?ほどほどにやった。舞踏会?最低限は出た。
でも本音を言えば、
「そんなのより発明の方が何百倍も楽しいんだよね!」
気付けば、ここでの生活が当たり前になっていた。
その間に作ったものは数知れず。
魔力を使わない照明、一定温度を保つ箱、ボタン一つでお湯が出る装置――。
「前世の文明、万歳!!」
思わず叫んだその瞬間、ガタンッ。
今まで聞いた事の無い不吉な音がした。
「……ん?」
天井から、ぱらりと砂が落ちてきた。
「え、ちょっと待って。ここって、そういえば崩れたら終わりな造りだったよね!?」
慌てて周囲を見回す。壁にヒビ。床が微妙に傾いている気がする。
「いやいやいや、さすがに崩壊は――」
言いかけて、止まる。
……静かすぎる。
「……あれ?」
いつもなら、遠くからでも聞こえるはずの物音。人の気配。城のざわめき。
それが、まったく、ない。
「……え、何この静けさ」
嫌な予感が、背筋をなぞる。
ニーナはゆっくりと、地下工房の扉に手をかけた。
「……ちょっと、外見てくる」
誰に聞かせるでも無く呟いて、扉を開ける。
階段を上がる。一歩、また一歩。
そして――地上への扉を押し開けた、その瞬間。
ニーナは、言葉を失った。
「……え?」
そこにあったのは。
人の気配が消えた城と。
崩れた壁と、荒れ果てた庭。
「……は?」
理解が追いつかない。
「え、ちょっと待って。なにこれ」
風が吹く。誰もいない廊下に、乾いた音が響く。
そして、ようやく。
「……いやいやいやいやいや!?」
ニーナは叫んだ。
「えぇえ!?国、滅びた!?!?」
つづく
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