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昔、昔のお話です  作者: アサカ・ジン・レーモンド
2/2

1番目ー2

「……う……さ……き…………最…拾った子って言ったよな」

「そうよ。今更なに?」

なかなか寝付けず水を飲みに降りた階段下近くの部屋で、昨日泊まりに来た商人と魔女が話していた。まさかこんな時間まで起きていると思っていなかったから、咄嗟に扉の影に隠れた。酒でも注いで飲んでいるようだ。

「何か気になったことはねぇか?」

「気になったことねぇ…………」

魔女が考え込む気配がする。

「身なりに反して聡明な子なのが気になったかしら。色々教えてくれる物好きでも近くに居たのだろうかと思ったわ。私にとってのあなたみたいな」

お互いに昔話はしないから商人との関係を知らなかった。そうだったんだ。そして姐さんのことに勘づいていたのか。

「そうかい」

もう一杯、と商人は器を魔女に差し出す。

「そう言うあなたはどうなのかしら」

ワインでも入れて飲んでいるようだ。

「ちょっと前まで世の中を騒がせていたガキとそっくりだったが、それにしちゃぁ綺麗な顔だったことが気になってな」

それは、俺だ。まさか、あったことがあるのだろうか。無いと思うが覚えていないだけかもしれない。魔女はそれを知ったら失望するかもしれない。

「まさか本人、ってことはねぇだろうな?」

ここまで信頼された、安心できたところは無いんだ。幻滅されたくない、嫌われたくない。


「まさか」


「私が拾ったのは捨てられたただの子供よ」

魔女からの信頼が、今まで出会ってきた人のどれよりも厚かった。そのことが何よりも嬉しかった。

「ならいい」

そう言って商人は出された盃を一息に飲み干した音がしたのを階段を上がりながら聞いた。



俺はずっとヒトリだと思っていた。

どうやら違ったらしい。

「坊や。随分と大きくなったのね」

ちょうど魔女の背と同じぐらいになったことを伝えたらそう言われた。

「そりゃあ、大きくだってなりますよ。成長期なので」

魔女の弟子のように見えるようになるべく丁寧な言葉遣いを心がけている。

「そう」

魔女は頬に手を当てながら一つため息をついた。

「昔はこんなに小さかったのにねぇ」

「そこまで小さくねぇよ」

腰下ぐらいの高さでこんなにと言う。そこまでじゃないと思う。



『ゴーーーーーーン!! ゴーーーーーーン!!!』



突如として鐘が鳴り響いた。

空が、地面が割れて周囲が白いモヤに変わって消えていく。

そして魔女が少しずつ灰に変わっていく。

「おい! どうしたんだよ!」

バランスが取れず倒れた魔女を抱き抱える。自分の持てるだけの力を持って阻止しようとするが手からこぼれ落ちる砂のように溢れ落ちていく。

「そうね。一度しか言わないからよく聞きなさい」

はっきりと聞こえる声で言われる。

「アレは「終焉の鐘」とでも呼ばれるものよ。正教会教本に書いてあったかしら。つまりは世界の終わりとでも言えるわね」

「そんなことはどうでもいいんだよ!!!」

ああ、悔しくて、自分の弱さが不甲斐ない。

「なんで、なんで、」

消えなければいけないんだ。

「それが定めだから」

覚悟が決まった、決まってしまった顔で魔女は言う。

「ずっと前から決まっていた不変の制約とも言えるわね。私はそれを知っていた。知っていた上で何もできなかった。だからこの終わりでいいの」

「なあ、そんなこと言わないでくれよ!!」


「………………………………消ぇないで……くれよ……」

魔女の足が灰となって消えていく。俺がやくさいの子だからか? 俺はこれからどうすれば良い?

「これは決して坊やのせいじゃないわ」

魔女の残った右腕が俺の頬を撫でる。

「最後に」


「愛しい我が子よ。さよならだ」


そう言って気高く、魔女は灰となって消えていった。


「あ、」


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


手が、足が、体が、灰となって消えていく。骨さえも残らず。


あまりのことに放心している間に、白いモヤに取り込まれた。体の境界がバラバラに壊れていく。


どうして、


どうして、


どうして、消えなければならない?



体の感覚が薄くなってただのかたまりとしてでしか存在できなくなってきた。取り込まれてからどれだけ経ったのかすらわからなくなった。霧のようになった体でなんとか存在し続けようとしていると人型のモノが近づいてきた。

「なンデこウなったンだ」

「すまない」

ああ、カタコトになっているから聞き取りにくいのか?

「こンなコトになる必要ハあっタのか?」

「すまない」

なんですまない、だけで何も言おうとしない!

「どうシて!」


「……………………………………どウして、消エなけれバならなかッたンだ」

やるせない気持ちが未だに残っている。それだけで消え去ろうとする体を必死に戻している。

「それが、定めだったからだ」

魔女も同じことを言っていた。ただの人間には何もわからないとでも言うのか。

『…………………………………………許さなイ、絶対ニ許してやるものか』

怒り、憎しみ、恨みの黒い感情が腹の中で入り混じる。ああ、この目の前の男の形をしたモノが憎らしい。それでも、気づかなかった自分も、何も言わなかった魔女も、全てが、すべてが、すべてガ、憎い。嫌いだ。

「それで構わない。私にはそれを戒めることはできないからな」

人型のモノはそれっきり俺の目の前に現れることは無かった。



『そうして彼は全てを恨む存在となってしまいました。』




これでおしまい」


話は終わったらしい。

「さて、これを聞いて一つ質問、賢いお前はどう思った?」

「……………………………実話ですか?」

見てきたように、いや、実際見てきたのだろうが、創作物の中でもあり得る話だった。それでも、現実で起こったことのように感じる。

「さー、どうだろうな」

答えをはぐらかされた。

「せいぜい悩みたまえ。その眼と頭は飾りか?」

挑発するように言われた。きっと答えてはくれないのだろう。

「わかりましたよ。せいぜいわかる範囲で頑張ってみます」

そんな先生の態度は分かりきっていたから流すように返事をした。

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