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料理学園  作者: マーたん


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クッキング5

夜月学園では、

料理は技術であり、理論であり、

そして――立場を決める武器だ。


完成度の高い料理は、安全だ。

再現性があり、誰にも否定されにくい。

だが、その皿は本当に、

料理人自身を前に進めているのだろうか。


第5話では、

正解を極めた中等部首席と、

退学寸前から這い上がろうとする男が、

同じ食材を前に向き合う。


そして、その勝敗を決めるのは、

すべてを感じ取ってしまう“神の舌”。


これは、

完成度が初めて揺らぎ、

踏み込みが評価される瞬間を描いた回である。

第5話 クッキング5


夜月学園の中等部は、別格だ。


幼い頃から料理理論と魔力制御を叩き込まれ、

「失敗」を想定しない環境で育てられた者たち。

高等部に進学しても、その肩書きは消えない。


「聞いたぞ。外部組に、面白いのがいるらしいな」


調理実習室に、静かな圧が走った。


声の主は――

中等部首席、鷹宮 葵蘭タカミヤ・キララ


端正な顔立ち。

無駄のない所作。

包丁を手に取っただけで、空気が整えられる。


「退学寸前から、神の舌に目を付けられた男、か」


視線が、暁月大我に突き刺さる。


「……俺です」


葵蘭は、わずかに口角を上げた。


「安心しろ。今日は試験じゃない」

「公開料理対決だ」


教師が一歩前に出る。


「中等部と高等部、代表一名ずつ」

「評価は――早乙女梓が行う」


ざわめきが広がった。


梓は、胸の奥に嫌な感覚を覚える。


(……情報量が、多すぎる)


中等部の完成度。

高等部の焦り。

観衆の期待と、悪意。


神の舌は、すべてを拾ってしまう。


対決のテーマは、

同一食材による再構築。


同じ肉、同じ野菜、同じ香辛料。

差が出るのは――料理人だけ。


葵蘭の調理は、完璧だった。


温度管理、魔力制御、盛り付け。

教科書に載せられる理想形。


誰が食べても、「正解」と言える一皿。


一方、大我は派手な動きをしない。


下処理に時間をかけ、

火を入れる瞬間を、じっと待つ。


「遅いな」


葵蘭が、静かに言う。


「料理は、速さも才能だ」


「……そうですね」


大我は否定しなかった。


ただ、

火を止める――一瞬、遅らせて。


完成。


最初に運ばれたのは、葵蘭の料理。


梓は、一口で理解した。


完璧。

非の打ち所がない。


だが――


(多い……)


情報が重なりすぎている。

正しさが飽和し、味の輪郭が溶けていく。


次に、大我の皿。


箸を伸ばした瞬間、

視界が揺れた。


熱。

香り。

未完成だったはずの流れが、

一気に開く。


「っ……!」


頭痛。


神の舌が、暴走する。


「梓!?」


教師の声は、遠い。


味が、叫んでいる。

踏み込んだ瞬間の、怖さと覚悟。


梓は深く息を吸い、目を閉じた。


「……評価します」


沈黙の中、声を張る。


「鷹宮さんの料理は、完成度が高い」

「誰が作っても、正解に近づく味です」


葵蘭の眉が、わずかに動いた。


「ですが」


梓は、大我を見る。


「暁月くんの料理は、踏み込んだ結果の味です」


ざわめき。


「危うい。失敗すれば、すべて壊れる」

「でも――だから、強い」


頭痛は、まだ消えない。


それでも、言い切る。


「勝者は……暁月大我」


静寂。


葵蘭は、しばらく黙り、

小さく息を吐いた。


「なるほど」


そして、微笑む。


「お前……」

「神の舌を、信用しすぎてないな」


その言葉で、

梓は自分の弱点を理解した。


分かりすぎるがゆえに、

安全な味に逃げていたことを。


大我は、包丁を置く。


手は、まだ震えている。


だが――退かなかった。


冴えない男はこの日、

鷹宮葵蘭タカミヤ・キララという壁と、

神の舌の限界を、同時に越えた。


夜月学園は、

もう彼を無視できない。

鷹宮葵蘭タカミヤ・キララは、負けた。


だがそれは、

彼(彼女)の価値が否定されたわけではない。


正解を極めること。

失敗を排し、再現性を追求すること。

それは料理において、

間違いなく“強さ”である。


しかし、

踏み込まなければ辿り着けない味が、

確かに存在する。


暁月大我の皿は、

危うく、未完成で、

神の舌すら悲鳴を上げさせた。


それでも選ばれたのは、

覚悟の重さだった。


早乙女梓は、この回で初めて、

自分の舌が「安全な評価」に

逃げていたことを知る。


鷹宮葵蘭は、

正解だけでは測れない相手と出会った。


そして暁月大我は、

退かずに火を止めた。


夜月学園の歯車は、

この一皿を境に、

確実に噛み合わなくなっていく。


物語は、

ここからさらに危険になる。

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