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料理学園  作者: マーたん


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クッキング3

暁月大我という男


暁月大我は、冴えない。


背が高いわけでもなく、

要領がいいわけでもなく、

料理学園に集まる天才たちの中では、

どう見ても埋もれる側の人間です。


彼は、賭けに出ない料理をします。

焦がさない。

攻めすぎない。

失敗しない代わりに、評価もされない。


理由は単純で、

後がないから。


家柄も、後ろ盾もなく、

この学園を追い出されたら、

料理で生きる道は閉ざされる。


それでも大我は、

包丁の持ち方を雑にしません。

下処理を省きません。

火を止める判断を、感覚ではなく理由で行います。


派手さはない。

けれど、基礎を裏切らない。


暁月大我は、

天才ではありません。


ただ、

「料理が、どうして美味くなるのか」を

考え続ける男です。


この物語は、

そんな冴えない男が、

料理でしか上に行けない世界で、

一皿ずつ立ち位置を変えていく話です。



第3話 クッキング3


 夜月学園では、三度の試験が運命を分ける。


 一度目は入学実技。

 二度目は基礎定着試験。

 そして三度目――進級判定試験。


 ここで落ちた者は、理由を問わず学園を去る。


 暁月大我の名は、

 その危険域の、最下段にあった。


「……やっぱり、ここか」


 掲示板の前で立ち止まり、息を吐く。

 順位は下から三番目。

 次を落とせば、退学確定。


 中等部上がりの生徒たちが、

 余裕の表情で通り過ぎていく。


「外部組は、やっぱ違うな」

「基礎が甘いんだよ」


 聞こえている。

 だが、反論する材料がなかった。


 進級判定試験の課題は、単純にして残酷だった。


「指定食材で、最も安定した一皿を提出せよ」


 派手さはいらない。

 魔力出力も評価対象外。

 必要なのは、再現性。


 つまり――

 料理人として、生き残れるかどうか。


 大我の手に渡されたのは、

 脂の少ない肉と、硬い根菜。

 扱いを誤れば、味は一気に落ちる。


「詰んだな……」


 周囲では、すでに魔法詠唱が始まっていた。

 温度制御、香り付け、魔力補正。


 だが、大我は包丁を置いたまま、

 食材をじっと見つめていた。


 ――なぜ、俺の料理は完成しない?


 頭に浮かぶのは、これまでの失敗。

 火を入れすぎたわけでも、味付けを誤ったわけでもない。


 旨味が、途中で止まる。


「……そうか」


 気づいた瞬間、背筋が冷えた。


 大我は、安全圏で止めていた。


 焦げないように。

 失敗しないように。

 評価を落とさないように。


 だが料理は、

 一歩踏み込まなければ、味が開かない。


 大我は、鍋に火を入れた。

 いつもより、わずかに強く。


「おい、火、強すぎじゃ――」


 誰かの声を無視し、

 肉を入れる。


 音が変わる。

 脂が溶け、香りが立つ直前。


 ――ここだ。


 火を止め、根菜を入れ、蓋をする。

 余熱で、火を通す。


 理論で攻めた一皿だった。


 完成した料理は、見た目は地味。

 だが、香りが違う。


 試食に立ち会っていた早乙女梓が、

 静かに目を見開いた。


「……来た」


 一口。


 次の瞬間、彼女ははっきりと言った。


「これは、未完成じゃない」


 周囲がざわつく。


「危ういけど、

 ちゃんと踏み込んでる味です」


 試験官たちが顔を見合わせる。


「評価は?」


「……合格圏です」


 その言葉に、

 大我の膝から、力が抜けた。


 退学は、免れた。


 だが――

 梓の視線は、まだ皿から離れていなかった。


「次は、

 もっと奥まで行けますよ、暁月くん」


 冴えない男の料理は、

 ようやく一歩、危険な場所へ踏み出した。


 夜月学園で生き残るための、

 本当の勝負は――ここからだった。

早乙女梓という女性


早乙女梓は、特別です。


夜月学園において、

彼女の味覚は「才能」ではなく、

もはや現象として扱われています。


一口で、嘘が分かる。

一口で、手抜きが分かる。

一口で、料理人の覚悟まで、透けて見える。


けれど梓は、

誰かを貶すために、その舌を使いません。


彼女が口にするのは、

「美味しい」か「不味い」ではなく、

「まだ届いていない」かどうか。


完成していない料理に対しても、

彼女は目を逸らさない。

なぜなら、未完成の中にこそ、

伸び代と、覚悟が残っていることを知っているからです。


暁月大我の皿に、

彼女が立ち止まった理由も、そこにあります。


彼の料理は、

安全で、地味で、評価されにくい。

それでも――

踏み出そうとする一歩の匂いが、確かにあった。


早乙女梓は、

天才料理人ではありません。


天才が生まれる瞬間を、味で見逃さない女性です。


次話では、

彼女自身がその舌とどう向き合っているのか、

そして、その力がもたらす代償も、

少しずつ描かれていきます。


よろしければ、

冴えない男と神の舌の行方を、

引き続き見届けてください。

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