クッキング2
料理は、感覚の世界です。
同じ食材、同じ火力、同じ手順でも、
切り方ひとつ、火にかける一瞬の差で、味はまったく別のものになります。
本作の舞台・夜月学園では、
その「わずかな差」が才能として評価され、
時に人生そのものを分けていきます。
冴えない少年・暁月大我は、
決して派手な技も、天賦の才も持っていません。
ただ、料理の基本を信じているだけです。
包丁の入れ方、下処理、火を止める判断。
当たり前すぎて見落とされがちな部分に、
彼の料理は立っています。
この物語は、
料理が力となる世界で、
「未完成」と呼ばれた一皿が評価されるまでの話です。
どうぞ、お付き合いください。
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第2話 クッキング2
夜月学園に入学できる者は、毎年およそ一万人。
だが――一年後に残っているのは、その一割にも満たない。
中等部から進学してきた者でさえ、容赦なくふるい落とされる。
料理がすべてを決めるこの学園に、情けは存在しない。
暁月大我は、その“残れなかった側”に近い場所にいた。
成績は下位。
実技は平均以下。
理論は理解しているのに、皿にすると結果が出ない。
「またか……」
掲示板に貼り出された順位表。
大我の名前は、いつも下の方にあった。
退学まで、あと二段階。
次の試験で結果を出せなければ、後はない。
そんな彼に、誰も期待していない。
クラスでも、空気のような存在だった。
「冴えない男だな」
誰かの呟きが、耳に刺さる。
――だが、その評価を覆す存在がいる。
早乙女梓。
夜月学園が誇る特待生。
“神の舌”と呼ばれる味覚を持つ美女。
一口で、嘘も才能も見抜く。
彼女の評価は、時に教師以上の影響力を持っていた。
その梓が、ある日――
大我の皿を前に、動きを止めた。
「……おかしい」
彼女は、静かにそう言った。
周囲がざわつく。
「失敗、ですよね?」
教師の問いに、梓は首を振る。
「失敗じゃない。
でも、完成でもない」
大我の喉が鳴る。
「この料理……
本来、もっと強くなるはずの味です」
神の舌が、そう告げた瞬間。
冴えない男・暁月大我の運命は、
確かに動き始めていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
料理の世界では、
「失敗」と「未完成」は、まったく別のものです。
火を入れすぎた肉は戻りませんが、
火を止めるのが早かった料理は、
もう一度手を加える余地が残っています。
暁月大我の料理は、まさに後者です。
味が弱いのではなく、
本来引き出せる旨味に、まだ手が届いていない。
“神の舌”を持つ早乙女梓は、
その違和感を、味として感じ取ります。
次話では、
なぜ大我の料理が完成しないのか、
そして、それが才能なのか欠陥なのかが、
少しずつ明らかになっていきます。
料理でしか評価されない学園で、
冴えない男は生き残れるのか。
よろしければ、続きをお楽しみください。




