クッキング1
本作は、
料理が力となる世界を舞台にした学園ファンタジーです。
才能、家柄、過去の実績――
すべてが皿の上で裁かれる夜月学園。
冴えない少年・暁月大我は、
退学寸前という崖っぷちに立たされています。
第2話では、
“神の舌”を持つ少女・早乙女梓が登場し、
彼の料理に潜む違和感が、初めて言葉になります。
どうぞ最後まで、お付き合いください。
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第1話 クッキング1
この世界では、料理がすべてを決める。
剣の腕よりも、魔法の才よりも、
正確な包丁さばきと火加減が、人の価値を示した。
暁月大我は、夜明け前の市場で立ち止まった。
手にした籠の中には、安価な肉と、癖の強い魔力草。
どれも一流とは言えない素材だ。
「……これでいい」
自分に言い聞かせるように呟き、学園へ向かう。
夜月学園。
魔法料理士を育てるためだけに存在する、過酷な学び舎だ。
門の前には、名家の紋章を下げた受験生たちが並んでいる。
簡素な服の大我は、明らかに浮いていた。
「入学実技試験を始める」
試験官の声が、張りつめた空気を切り裂く。
「指定された食材で、一品作れ。制限時間は一時間」
ざわめきの中、受験生たちは次々と詠唱を始めた。
魔法で火を操り、香りを増幅し、見た目を整える。
だが――大我は違った。
包丁を取り、深く息を吸う。
魔法は使わない。
「料理は……まず、切るところからだ」
刃が走る。
肉の筋を正確に断ち、魔力草の毒気を逃がす。
魔力の流れを、調理そのもので整えていく。
火にかけた瞬間、鍋が低く唸った。
「なに……?」
試験官の一人が、思わず身を乗り出す。
立ち上る香りは派手ではない。
だが、確かに“力”を宿していた。
完成した皿は、地味だった。
一口食べた試験官は、黙り込む。
「……未完成だ」
その言葉に、周囲がざわつく。
大我の胸が、きしむ。
だが、次の言葉が続いた。
「だが、間違ってはいない」
鋭い視線が、大我に向けられる。
「合格だ」
その瞬間、世界がほんの少しだけ動いた。
暁月大我は、まだ知らない。
自分の料理が“完成しない理由”も、
それが夜月学園そのものを揺るがす存在になることも。
――物語は、ここから始まる。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
夜月学園では、
入学希望者およそ一万人のうち、
一年後に残れるのはほんの一握りです。
暁月大我は、
才能に恵まれた天才ではありません。
努力家でも、要領がいいわけでもない。
それでも――
彼の料理には、確かに「何か」があります。
次話では、
早乙女梓の“神の舌”がさらに深く踏み込み、
大我自身も、自分の立ち位置と向き合うことになります。
冴えない男は、
この学園で生き残れるのか。
よろしければ、続きをお楽しみください。




