表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
“Effects of selfishness/利己主義の影響”(Another story of Civil war)  作者: 河崎浩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/13

利己主義の影響(6)

(テキサス)

(帰郷)

(テキサス)

ダラス迄は、日本からの直行便があったが、義父の居るサンアントニオ迄は、車だとノンストップでも六時間以上必要だった。

しかし今回は、諸々の事情から、車を使用し実家に戻る事を決めていた。

只、途中、何かあるといけないので、何某(なにがし)かの最低限の携行武器の携帯は、必要と、山本は考えていた。

キャサリンは、サンアントニオの北方キーリンは、自身が最初に所属された陸軍の航空基地が有るからと気楽に考えていたが、山本は、其処が、テキサス州でも、最も治安が悪い地域でもある事を知っていた。

ただ、城(息子)を今回、日本に置いて(社長宅に預けて)来ていたのは、少しだけ安心材料でもあった。

田中は、まさか此処で、違法な武器を元上官が調達しようなどと考えている事は、想像すらしていなかった。

ただ車で、半日近くかけて、このカップルの実家へ行けば、何某かの武器が、其処に在り、自身も武装する必要性は、有るのかも知れない?程度の認識であった。

此処では、ひたすら、彼等の連れのツーリスト然として、過ごす事を心掛けていた。

彼等は、ファーストだったが、自分は、エコノミーであった、しかし、流石にこの時期、アメリカに向かう旅行客は、アメリカに帰るアメリカの裕福な階層エグゼクティブクラス位なもので、貧乏な学生は、LCCを使う。

一般のエコノミー客は少なく、真ん中の五列全てを彼は、占拠でき、体を伸ばして、此処迄来られたので、全く疲れては、いなかった。

が、流石、米国系の航空会社。LCCではないエコノミーでも、しっかり差別は、されていて、出て来るミールの質も悪く、量も少なく、CAの数も少ないので、お代わりも頼めずで、流石に空腹感は覚えていた。

彼の腹の音は、山本夫妻にも聞こえたので、空港近所のファーストフード店に、先ず、彼等のレンタルしたピックアップは、向かった。

流石に国際空港近所だったので、左程殺伐とした空気感は、未だ、無かったし、政府が四分五裂した環境下でも、USドルの威光は、未だ強く、且つ、日本のクレジットは、通用できる様だった。

しかし、この様な店でも、セキュリティーだけではなく、止めてある地元の車が、ほぼ、何らかの武装をしている事だけは判った。

此処は、アメリカ。しかもテキサス。自分の身は、自分で守るのが、基本であった。

山本は、仕方が無いので、空港近所にある、レンジが有る、キャサリンが知っている、銃砲店を覗く事とした。

スリングショットや、サバイバルナイフは、未だ在庫していたが、ショットガンやライフル、ハンドガンは、価格の安い物から、ほぼ、ソールドアウト状態であった。

又、弾も、38、9ミリ、45や、12番のダブルOやスラグのショットシェルを中心に、選択肢が無くなっていた。

6000ドル以上の高級ハンドガンや、一万ドル以上のショットガンやライフルは、未だ若干数は残っていた。

顔見知りのオヤジ(店主)が、キャサリンに

「戻って来たのかい、此の物騒な時代に」

と軽口を叩いた。彼女は、地元では、有名人でもあったし、彼女の旦那も、日本陸軍の特殊部隊の将校である事は、この近辺の業界人ならば知っていた。

「一万五千キャッシュならば、この組み合わせを即、NIBIN(国内統合弾道照合ネットワーク)にレジスト(登録)とは言っても、もうNRAもATF(アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局)もへったくれも無いがな、してやるぞ。どうだ?」

ガラスショケース前で、腰に357のリボルバーハンドガンを挿した、店のオーナーらしき、オッサンが、そこに、15発の9ミリ弾が込められるニッケル鍍金されたSIGと、半分ダブル0と、スラッグが、交互に装填された『ケルテック』製の小型ショットガンを並べていた。

「なんだ、値引きなしか」

キャサリンは、さもがっかりした声で応えた。

「四万五千ドル、但しプラスで、各々1箱分(計3セット)の、ウインチェスターか、フィデラルのFMG弾付き。出来ればホローポイントもあれば。それと、ショットガン用は、ダブルOバックとスラッグ一箱ずつ。三セットで、どうだ?」

後ろから山本が、話しかけた。

「いいだろう。但し同じショットガンは、二丁しかないから、四万で構わない。その分、弾をサービスするよ」

此処は、テキサス。ガンコントロールは、ネバダ並みに、緩い土地でもあったが、此の様な特殊で高価な客寄せで『在庫しているだけ』の商品を保持して措いても、何時、換金できるかは、想像も付かず、多分、間も無く、この辺りも物騒になる。その前に、一時的にも店仕舞い(在庫の換金)をこのオーナーは、考えていた。

そして、彼も、キャサリンや彼女の旦那の出自、そして彼等(日本人)が、金払いが良い事も、知っていた。

彼は、店仕舞いに必要にして十分の、現金(キャッシュ)を手に入れた。

結局、ナイフやホルスター等も含めて、五万ドルを此処で、キャッシュで消費し、彼等の手持ち現金(キャッシュ)は無くなった。

しかし、これは、当にミュチーアルベネフィット(Mutual Benefits)であった。

田中は、先に腹に何かを入れて(小銭(キャッシュ)を消費して)置いて良かった。と実感していた。が、此の規制の緩さには驚いていた。

当座の武器を入手し、銃砲店地下の付属レンジで、全ての銃の試射(特徴把握)等を全員が済ませる事が出来たので、安心した山本は、本来目的である周辺環境の変化をチェックし始めた。

とは言っても、途中にあるダイナーや、スーパーマーケット、ガスステーションで、その場の雰囲気の変化を感じ、カーラジオのスイッチをオンにして、DJの声をひたすら聴いているだけでは、あった。

彼等、東洋人が腰にぶら下げているモノに、誰も関心は、示さなかった。同様に、客も何らかの武器を見えるように持っていた。この環境も、一般の日本人である田中は、如何に自分が自衛隊員(軍人)であろうとも、日本人として驚かざるを得なかった。

山本が感じた、以前と一見して異なるのは、やはり、高速だけでなく一般道でも、ハイウェーパトーロールを含め、警察官や保安官、そしてあらゆるプライベートセキュリティー(警備員)の姿をオフィス街で見かけない事。

結果、金融機関等おキャッシュを扱う建物は、閑散としていて、高級品(雑貨)や、電化製品や食料品を扱う店舗や、物流倉庫は、盗難防止の為、厳重にシャッター乃至は、門扉が下りていて、ショーウインドウには、例外なく厚い板が、打ち付けてあった(酷い所では、侵入防止の厳重なバリケードすらしてあった)のが実情であった。

その代わり、開いている小売店や、モーテルの入り口付近の受付人、通行人の、皆が皆、何らかの武装を目立つ形でしている事であった。

勿論、平日の日中にも関わらず、あらゆるATMにはキャッシュは無く、全てATM機械の破壊阻止用の、金属製カバーが、厳重にしてあった。

田中は、山本が、僅か半日の行程なのに、武装に拘っていた訳が、理解できた。

内戦後一週間で、国内の物流網や公的な治安は、既にガタが来ている実感が、田中には、あった。


(帰郷)

「ダァド」

「Ohマイスイートハート」

恒例のキャサリンとボブのハグで、到着日の夕方には、彼等は、キャサリンの実家に着いた。

イアンは、山本の到着で、これで食料調達?の為のハンティングメンバーが揃った。と思っていた。

しかも、今回の連れは、山本の元部下。

日本の現役アーミーオフィサーが一緒なので、彼の実力も分かると、云う目で田中を見ていた。

しかし山本が

「イアン、この辺の街の様子はどうだ?」

と質問して来た。イアンが答える前に、ボブが、

「タクミ、これを見ろ」

と彼のタブレットを、山本の前に差し出した。

既に彼は、紙の新聞購読は止め、複数の新聞、しかも、今迄、此処では入手(配達)困難だった左右の新聞迄も彼は定期購読をしていた。

其処には、西部連合にシンパシーを感じている東部州出身の女性記者が、DCの大統領に、単独インタビューをする迄のプロセスが、数回に分かれて、(切り取ら(スクラップ)れて)延々と映し出されていた。

中西部と呼ばれ、昔は、ラストベルトとも呼ばれていた五大湖沿岸にある諸州は、表向きは、日和見を決め込んでいたが、基本、アメリカファースト(MAGA=超内向き)の州になっていて、そこで働く外国人や、有色人種は、地元チームのメジャーリーガや、NBA、NFLのトッププレーヤだろうとも、外国籍の者は、一時的な国外退去や、未だ地続きで結ばれているカナダや、メキシコそして自国へ空路が使える間に、自主的に帰国していた。

最も内戦が始まって、この様な興行に行く人間(観客)も、視聴者も、居なくなっていた事実も大きかった。

それ位、此処は、アメリカ?と思えない程の惨劇(主に白人による、英語が上手く話せない有色人種へのテロ)が、一部の市や街で繰り広げられ、それがSNSや、未だ生き残っている世界の大手メディアにより報じられていた。

只、そこに暮らす、白人以外、特にミネソタや、ウィスコンシン、サウスと、ノースダコタのネィテブアメリカン(先住民)居留地が、どうなって居るのかは、全く報じられていなかった。

意外な事に、この地域の、アフリカ系の労働者階級(黒人)やアジア系(主に中華系)の高学歴な(現地である程度成功を収めている)人種は、被害を受けたヒスパニックや他の新規や違法移民、異人種とは異なり、アメリカ(合衆国)大統領に忠誠を誓っていた。

旧南北戦争(Civil War)と今回が、決定的に異なるのは、奴隷階級と非隷階級の戦争では『ない』という事であった。グローバニズム(理想主義・エリート)と反グローバニズム(伝統主義と現実主義・反エリート)との戦いが実相であった。

中央(連邦)政府による規制を拒む、西海岸と元々、中央政府からの独立志向が高かったテキサスが合体した、西部連合と、首都(DC)を除く東海岸北部のリベラルステーツ。対、主に、南部や中西部のアメリカ第一主義を掲げる、大統領に忠誠を誓う『変化を嫌う』州の戦い。と言うのが、今回の基本構図でもあった。

相互に利益が相反する権益権者同志の戦いでもあった。

よって、最前線は、此処ではなく、ネバダとペンシルベニア。そして此処、テキサスの東北部州境付近であった。

テキサスは、元々が独立志向の高い州ではあったが、全米で最も先進的な、ロケットやアジア系の自動車のアッセンブルラインと、それ等の為の部品供給工場や、電機、電子産業、其の基になる最先端科学等の産業、要は、種々雑多な、合法的な移民(選挙民)や、外国人も集積し、アメリカの独尊的な価値観だけでは無い場所、且つ、最大のネィテブアメリカンの居留地が在った。

しかも、エネルギー以外の食を『核』とする文化的なバリエーション確保には、域外からの輸入に依存する国際協調グローバニズムは、必須の土地だった。

伝統を重んじる(保守的な)州ではあったが、その核心は、アメリカ建国の核心でもあった、規制からの開放。

要は『自由』であり、最も、政府からの規制や、指図を拒む個人を尊重する此処『テキサス』は、対MAGA反攻の南の拠点でもあった。

隣の州からネィテブアメリカンは、テキサスへ逃げ込み、メキシコ経由で何とか流入できていた不法移民の二世三世も、東部から此処に集い、アリゾナやニューメキシコから避難してくるネィテブアメリカンの保護に当たっていた。

残念な事に『ウォール』と呼ばれた、前政権から着工が進められ、越境不法侵入者やこの装備の破壊者(配備に反対する人間)に対し、何もかも=性別も、年齢も、人種も、全く頓着しない形で防ぐ(結果、対象に対し殺傷に至っても侵入を防ぐ)最先端の中央政府ラングレーが、直接、基本構成を設定したAIロボット兵器(自立式の防御壁)の、配備がテキサスでは完了していた。

メキシコ国境は、前大統領時代迄に、この自立型AIロボット兵器の配備が完了(完備)されていた事もあって、テキサスに新規の不法移民の流入は、ほゞなかった。

故に合法的な移民(選挙権を持つ移民)は、その家族を当地に呼び寄せる事が出来なかった。

是もオリジナル(中央政府)に対するテキサスの反感の根源でもあった。

このウォールは、地上だけでなく、地下トンネルや上空にも睨みを利かせる事が可能であった。

但し、上空や地下経由の侵入者を、完璧に安全に防ぐ事は“無理”だったので、其れ等は、問答無用でディレート(DELETE/消去・抹殺)された。

現大統領と現政権は、キリスト教的原理主義に基づき、ジェンダーの多様性は、認めず、出生地主義も厳格化し、所謂(いわゆる)、アメリカ英語を話す、アメリカ的価値観以外は、認めない、『普通のアメリカ人』達に支持されていた。

そもそも、この様な、非人道的な兵器の登場と、実戦配備の許可が、世界をして、西部開拓時代の悪しきアメリカ第一主義の復活と、先進国の国民には感じさせていた。

従って、ポルトガル語圏では有ったが、政権幹部の主流を占める人口が、日本への出稼ぎや留学帰りが、多くを占め始め、日本の刀狩などの歴史を常識として身に着け、なぜ日本の治安が世界一なのかを知る『階層』が政権中枢を占める様になった結果、世俗主義を信奉し、曖昧を可とする価値観を持つ、出稼ぎ時には、虐げられた経験を持つ指導層の下、アジア人と同じ人種のインディオと呼ばれた先住民族や、その混血で純血種より格下に甘んじていた人々を守るアファーマティブ・アクション(Affirmative Action)の順守を公約に挙げた、公正な機会を先ずは、第一と考え、左派政党である労働者党を破った、新ブラジル政権により、テキサス及び西部連合の掲げる世俗主義は支持された。

ブラジルの新指導層は、アファーマティブ・アクション(積極的格差是正措置)の考え方を主に、社会安定の為に使い、一方、努力を怠る人間や、依頼心が強い階層に関しては、何も結果を保証しなかった。

(要は、先進国並みの社会保障を国が担保できる程の『国力』は未だ無かった)

故に、旧来からの権益を受けていた階層からも、一定の支持は得る事に成功した。

『結果』ブラジルの治安や経済環境が、10年前と今では、想像出来ない位、安定し、そもそもアメリカ以上に、あらゆるポテンシャルを有し、示していたブラジルは、世界にとっても魅力的なマーケットに発展をし始めていた。ブラジルは五年目の成功を持って、大統領が、同じ政党出身の同じ日系人に、代換りし、この旧大統領(政権)を支持していた『旧来からの権益を受けていた階層』に対して、新大統領は、旧大統領の支持の下、冷淡な対応を採り始め、財源を彼等の蓄財した富に求めた。

それは日本等が社会に普及させている『社会保障費や医療費』の財源となって行った。

そうブラジルは政変後、五年で、先進国並みの社会保障を国が担保できる程の『国力』を確保し始めたのであった。

南米は、スペイン系の白人、所謂(いわゆる)、元々のラテン系白人の為政者が、維持して来た、横暴さや既得権益。

歴史的欺瞞。その構造に人口的に勝るアジア系の移民や原住民が、気が付き。彼等の考え方を『ブラジルの成功』を横目で見て、楽観的で平和的だが、ドラスティックに、白人キリスト教徒カソリックが、維持して来た、既得権益排除し様と試みていた。

合衆国の内戦(裏庭で起こっている事件に関し、無関心・無干渉な態度)は、この試みに専心(集中)できる、空気感を南米(諸国)に与えていた。

唯、ペルーで以前、日系大統領が敷いた『専制主義』的なポピュリズムを好まない。ラジカルな白人や原住民は、ブラジルの方法こそ真似たが、日系が主導者となる事は、許さなかった。

麻薬カルテルの跋扈の下、治安環境が不安定で、一部社会主義化していた、パナマを除く既得権益、要は、麻薬や、豊富な地下資源が生み出す資金を為政者が、国民に恣意的に、下賜する、なんちゃって社会主義体制に、何も疑問を持たなかった中南米の小国民は、独裁者が支配する共産圏に対しビザなし渡航を許可していたので、結果、激増していた、大陸系の(不法)違法移民の中継地と化していた。

ただ、彼等の最終目的地は、豊かになりつつある、南米や、このお気楽な土地(中米)ではなく、カナダであった。

此れ等、違法な『イリーガル・チャイニーズ』の摘発に当たっていた、盲目的に行政からの命令に従う事に“慣れた”MAGA州やテキサスの州兵や、地元警察は、この分断後(内戦開始直後)は、その対象を西部連邦や、オリジナル州の、国境警備活動ウォールのメンテナンスや、其の周辺部の防衛活動に専心する様になっていた。

特に、ウォールの機能と効果が確認されると、主にMAGAを信奉する白人で構成された警察力や民兵(ミリシア)そして州兵力は、西部連合へ鞍替えした、対テキサス方面の防衛の方が重要視(プライオリティーが上)される様になっていた。

この様な情報は、日本に居ては、入手不可能だな。と山本は、実感していた。

レポートを打電する為、田中と協力し、日本の衛星経由で、橋爪に極秘電として、これ等の情報は、量子暗号化され、送られていた。

そう、田中と山本夫婦の荷物の殆どは、此の通信機器で、着替えなどは、機器のカモフラージュ用途以外、全く持って来てはいなかった。


山本の読み通り、銃砲店並みに、空港の連邦職員のセキュリティーチェックは、甘く。

要は、空港経由の入国者は、帰国者が、メインであり、セキュリティーや、通関要員は、ミニマム(方面や人種・言語により、ほぼフリー)、且つ、自動化されていた。

セキュリティー要員の殆どは、既に、兵力として州境に駆り出されていた。

日本側(田中)の懸念は、銃砲店で銃を購入した時の様に杞憂で、全く懸念は無かった。

程なくして、アジア・オセアニア方面発の北米(合衆国)行きの民間路線が、政府に守られる事に慣れた『臆病な日系キャリア』を筆頭にして、停止し、追う様にして、他のアジア・オセアニア系キャリア、欧州や、南米発の便も、消滅し米国のキャリアが最後になった。

旧合衆国地域に入る場合、特に外国人が出入国を試みる場合は、国境線の長い、ウォールの間隙にある正規の国境か、カナダ経由の陸路以外の手は、無くなっていた。

メキシコは、現状の国境管理を厳しくし、アメリカ側も、既にウォールによる斟酌の無い鉄壁の防壁を国境線やガルフ沿岸やカリフォルニア湾沿岸にも構築しようとしていた。

結果、中南米方面からのルートは、麻薬密輸ルート(空路)以外は、無くなっていた。

この様な些細な民間情報も、大本営発表。即ち、政府発表を何等(なんら)斟酌無しに記事化する。

要は、情報コントロールに慣れ親しんだ、日本の記者クラブ体制下にある報道機関経由では、日本の一般民や、今や本国からの報道が途絶えた在日米軍民は、知る事が出来なかった。

そもそも、現地に在る日本の報道機関の従業員自体、日本人ではなく、現地雇用の、米国人(外人)が担っていたので、此処からの情報操作は、非常に恣意的に行われていたのが、事実であった。

その上、日本でもネットでは、種々雑多な、主に、サイバー機関が充実している北朝鮮や隣国、ロシアが、恣意的に捏造した、フェイクな情報が、溢れ返っており、民間(国内のネットニュース)や、今や野党に転落した、旧政権政党に所属していた老齢議員は、その内容を(まこと)しやかに引用し、その様な誤情報に基づいて“毒”を撒き散らしていた。


ボブは、日本のインテリジェンスを娘と婿が担っている事が、誇らしかった。

これは兄のイアンも同様であった。

が、映画やテレビで見る、旧来の自国の諸々情報機関や、モサド、MI6等と比べ、現在の日本政府系の其れが、聞いていた民間(商社等、駐在員が居る現地法人を置く日系会社の情報取得能力)に比べ

『余りにもお(そそ)(まつ)だ』

とも感じていた。しかし、自分達が、日本政府のインテリジェンスの一翼を担っている事は、彼等の行動を慎重にしていた事も、確かではあった。

「タクミ。そろそろ猟に出よう」

イアンは、そう云う意図(考え)を込めて、山本を誘った。

山本も、そろそろ『生』の周辺環境情報も欲しいと思っていたので、田中を誘い、イアンの提案を受け入れた。

ガスステーションは、流石に、テキサスだけあって、未だ、通常通り稼働していたし、其処で一部喧伝されていた、米ドルが使えなくなっている様な事は、無かった。

彼等を乗せた米国フォード製のピックアップは、サンアントニオ郊外のランチから西に向かい同州のアミスタッドの国立保養地へ進路を進めた。

この方向ならばハンティングやフィッシングに行く。

要は『食料を調達しに行く』と思われ、無益な騒動にはならないで、メキシコ国境や『日和見州』では、最も大きいニューメキシコ州との境目の様子(ウォールの配備状況や実態)が観察できると想定したからだった。

又、北方の、ダラスや、東のヒューストンは、今や州の管理下にある最大の陸軍基地や、空軍の補給基地等がある関係で、無事な事は、日本より、より()(とも)な(営利のみに走らずバイアスを掛けない)、地元報道局の放送(報道)から分かっていた。

しかし、西側の州境や、所謂(いわゆる)、テキサスを含む米墨国境近辺の情報が、ほゞ無かったからが、この遠足の理由でもあった。(テキサス州は、既に金満州だったので、ウォールを完備していた。と云う『噂』の真贋の確認の意味もあった)

西側のカルフォルニアとサンドイッチされている地帯(アリゾナとニューメキシコ州)は、基本的に中立を宣言し、日寄っていたが、州の農民や、一部アメリカファーストと言う掛け声だけを信じる、良く言えば、プラグマリスト(現実主義者)。実態は、目の前の範囲で起きた肌感覚しか信じない『ネイティブ(WASP)』が、制御していた。

彼等や彼等発の情報を鵜呑みに信じている輩が、成功し裕福で、或る程度の社会的な地位を持つアジア系や、貧乏なヒスパニック系の新旧又は、合法・違法な移民や、ネィテブアメリカンを迫害している事は、想像できていた。

その実態の観察の意味もあった。

彼等の武装は、普段から使い慣れた、レミントンの308口径(7.56NATO弾)と、300ウインチェスターマグナム用の、M700ライフルであった。只、田中と山本の腰には、銃砲店で仕入れた、狩猟用ナイフとサファリランドのホルスターに、SIGと9ミリFMG弾が、15発装填されているマガジンが3つであり、イアンのハンティング用のホローポイント弾のS&W500マグナムが撃てる純狩猟用のM500とは異なり少しアンバランスでは、あった。

夏とは言え、テキサスでも、山の中や、高原地帯に入ると、夜は、それなりに冷えた。

あらゆる標識は、見事に、ツーリストには役に立たないように棄損されていた。

結果、彼等は今、何処に居るのか皆目見当が付かない国内旅行者を装う事が可能であった。

何故か、イアンは、軍用の、AN/PVS❘31暗視装置ナイトビジョンゴーグルも持っていたので、周囲に気を配る際は、火を興して置く以外も安心であったが、これを着けて火を覗かない事は、常識であったので、車内に仕舞わせていた。

結局、彼等は此処で一夜を明かす事となった。

朝になり、周囲を見渡すと、彼等は、開けた大地が南側に広がっている事に気が付いた。

あれが州境や、国境なのだろう事は、一目瞭然で、斜め北方向には、『ウォール』が等間隔で聳え立っていた。

「結構、(テキサス州の)奥まで来たんですかねぇ」

田中の一言が、周囲に響いた。

「何語だ?」

田中の声をめがけて、白人の民兵ミリシア風の身形をした数名が、彼等を取り囲んだ。

「無駄な抵抗は止せ。お前等を仲間が、エイミングしている」

そうだろう。で、なければ、彼等の前に堂々と現れる訳が無い事は、想像できた。

「お前らは中国人か?…日本人か、何故このような処に居る?」

もう一人の民兵風の男がM4を構えて威嚇して来た。

「我々は、食料になりそうな獲物がいないか、ここまで来たが、此処はテキサス州ではないのか?」

「いや此処は、ダグラス(アリゾナ州)だ」

「何!州を二つも跨いだのか?此の様な遠く迄、来ているとは思わなかった」

山本は、流暢な英語で、話しかけた。彼等のピックアップには、狩猟用のライフルや、ルアーフィッシング用の道具が、一式、目に付く形で収めてあった。

「こんな所では、鹿もいないし、小動物もいない」

中の一人がホソっと呟いた。

「いや、アミスタッド(国立保養地)に向かっていたつもりだったのだが」

山本は答えた。

「方角違いだ」

「そうか、道理で運転時間が長いと思った。GPSナビが使えなくなるのも困ったものだ。アレの管理は、どっちが担当しているのか」

山本は、ナビのせいにした。実際、この内戦が始まって、米軍所管のGPSの精度は、かなり狂う様になっていた。

「お前たちは。何故、此処に居るツーリストか?」

「そうだ、ただ日本行きの便が、無くなったので、どうし様かと、迷っていた。そして、コスコ(Costco)や、近所のスーパーでも、まともな食料が手に入らなくなってきたので、こうして出張ってきた訳だ」

今度は、田中が、流暢に英語で答えた。

「それは災難だったな。で、何処から来た?」

此処で下手を撃つと、彼等の、機嫌を損ねる事は、解っていたので、イアンが、巧く答えようとした。

「彼等は、ツーリストで、一人は、俺の義理の弟だ。今回が、初めてのハンティングなんだが、連れの一人が、釣りが、得意だと言うのでインターステーツを下りて川沿いの脇道を進んでいたんだ」

巧く答えの本旨を外したつもりだったが。これが行けなかった。

「お前の言葉は、テキサス訛が有る。テキサス人か?」

此れで、彼等は、自動的に、彼等が、テキサス人ではない、そう。反西部連合側の人間だろうと、想像できた。

「同じアメリカ人だろう?何故イガミ合っているのだ?」

山本は、さも不可解と言う仕草をしつつ。自身達を取り囲んでいる連中が、皆、銃口を下に向けるか、単に抱えているだけである事を確認した。

4対3(実際は2)これなら『いける』と言う確信を持った。

田中も山本の顔を見て、以心伝心で、作戦が分かった様だった。

連中は、銃の扱い位は、知っているが、専門的な、軍事技術を習得している(訓練経験者)人間では、無さそうなので、制圧する事にした。

只、脅しかどうかは、判らないが、中の一人が

「お前等を仲間がエイミングしている」

と言う言葉が、引っ掛かったので、出来るだけ遮蔽物が有る方向に、移動する事を試みた。

「判った。でも、朝の小便位は、させてくれ」

と言って山本と田中が、木々が開けている場所から、太い杉の木(遮蔽物の陰になる場所)の方に向き、チャックを下ろそうとした。

その瞬間、4人は、瞬く間に、この二人によって制圧された。

「イアン!車から結束バンドを袋ごと持ってきてくれ」

彼等の銃は、薬室に弾が籠っていない事を確認し、弾倉を外し、薬室に装弾されていた銃は、弾も、全て、空にしてから、車の方に銃を弾と弾倉は、別方向に放り投げられ、二人は、腰のSIGをサファリランドから抜き、4人に向けていた。

「動けば撃つ。此処はアメリカだからな」

彼等のこの一連の動きは、電光石火の様で、観念した4人は、大人しく後ろ手に縛られた。

「お前たちは何者だ?」

後ろ手に縛られた内の一人がボソッと質した。

「ただのツーリストで、本当に食料を探しに来ただけだ。只、お前等のブラフは、良く出来ていた」

「エイミングしている仲間等、いない事は、直ぐに分かった」

「(アミスタッド)国立保養地は、どの方向だ?この辺で、未だ営業()っているダイナーとかは、有るか?コーヒーをお前等のせいで、飲み損ねた」

そう言うと、彼等は、車で指示された方向へ向かった。これで奴等や、此処いらに潜む奴等の一味は、我々を不審に思う事は無いだろう。そう此処は、テキサス州ではなく、隣のニューメキシコとアリゾナの境目でメキシコ国境付近である事が理解できた。

彼等の教えてくれた場所に、ダイナーは『確かに』有った。

ブレックファーストとして、全て、日本の平均的朝食から見て、ダブルサイズのトーストとハッシュドポテト。

それに、サニーサイドアップとカリカリベーコン。そしてコーヒーが供された。

未だ、此処いらには『まとも』な食い物が残っている事が、これではっきりした

「あー()(とも)なコーヒーだー!」

田中の英語で、ウエィトレスのおばちゃんと、周囲の客が此方を振り向いた。

「あんた、英語が上手いねぇ」

おばちゃんは、一機に飲み干したコーヒーに、お代わりを継いでくれた。

「ありがとう」

山本も、まともなイントネーションで、お礼を言ったので

「あんた等、どんなコーヒーを飲んでいるんだい?」

と、おばちゃんは、質問を繰り返した

「うん、此処の処インスタントばかりだったんだ。ミルクは、沢山、彼のランチには、あるのだけれどね」

こう山本が話すと、後ろの席のカーボーイハットを被ったおじいさんが、話しかけて来た

「お前さん方は、日本から来たのかい?」

「何故、我々が、日本人とわかるんだい?」

「いや儂は、昔、嘉手納で、空軍オフィサーをしていたんでね」

「え?で何で?」

「いや、イントネーションが、日本人ぽく、聞こえたんだ」

「そうか、我々は、元JDSF(陸自)オフィサーだった」

「だから、腰に、そんな『もの』ぶら下げているんだ」

「此処いらの人間は、45口径か、大きめのリボルバーが一般的だけど、お前らのは、軍用の自動拳銃だろ?」

「成程?」

「で、何でこの辺に居るんだい?」

「ああ、彼は、俺の義理の兄なんだけど、ランチを経営していて、牛の肉と牛乳には、困らないのだけれど、我々は日本人だろう?だから魚とか、ほかの肉も食いたいと思って、アミスタッドに行けば、何か獲れるかな?と思って来たんだが、州を二つも跨いでしまった。道に迷ったようだ。全く、近頃は、地図では無くて、GPSに頼りっ放しになったのが行けなかった」

「そうなんだ、俺も、昔は、此処いらで農薬や種の散布の仕事が、引きも切らなかったんだが、近頃は、ドローンとか云うオモチャで、農薬や種をばら撒けるので、息子なんかも、その会社に就職して、今じゃラジコンのヘリみたいなモノで、農薬やら種撒きをしている。でも、あんた等が言う様に近頃サテライトが信用置けなくなったんで、俺様の知恵を拝借したいと言って来寄った」

要は、この年寄りは、自慢話を話す相手が欲しかった“だけ”の様だったが、結果この辺の事情が、飲み込めた。

只、役得として『ほれ!』と言って、ウエイトレスのおばちゃんが、業務用のコーヒー豆を分けてくれた事だけは、いい意味での誤算であった。

この辺の人間は、昔ながらのアメリカ人であり『害が無い』良い人だけのコミュニティーである事は解った。

彼等の立った机に置かれた、多分?コーヒー豆代以上のチップの上には、紙ナプキンで折られた折り鶴が二羽、置かれていた。この後、戻って来るだろう、正式な州兵ではない、地元の民兵ミリシアもどき達も、この年寄りの経験談を聞く事で、我々に対する疑念は、持たなくなる、それが『仕掛け』であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ