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あの顔合わせから1か月。あの時の怪我も特に問題なく、『部長の言うことをひとつ聞く』という最悪な負債だけ俺の手元に残った。
あのチビとは……親睦を深めるためとかなんとかという名目で、何回か行動を共にしている。言うても宮田さんから巡回や対応方法を実地で学ぶ合間に、魔法使いが開いてる店の定期査察や、警察含めた関係各所との災害情報の共有をするくらいで、問題になりそうなことは――魔法使いの店に出向くという俺の感情を破壊する活動を除けば、特にない。
いや、あったわ。職質されたわ。そらそうだ。金髪の野郎と見た目小学生が一緒にいたらそうなるわな。ここの職員たちはこの環境を疑問に思うべきだろ。親睦も深まってないし、深めようとも思ってないし、もう終わりだろこの組み合わせ。解散届とかあんのかね。桐生サンは脳筋だし、竹田さんに聞いてみるか。
「おう海野探したぞ!食堂にいたのか」
……噂をすれば部長のお出ましだ。
「……なンすか部長。見ての通り昼休憩中なんですけど」
「もう飯食い終わってんだろ?招集だ。海野ペアに」
「ざけんなよ……」
「いいから行くぞ」
そのまま連れられてエレベーターに乗り込む。
電話あんのになんで直接探しに来てんだよ。だから「ミニ脳みそ筋肉マシ猪突トッピング」とか言われてんだぞ。主に俺から。まぁ電話だったら出ねぇから正解なんだが。
「で、わざわざ俺とチビが呼ばれたのは?」
「詳しいことはコントロールセンターで話すが、緊急の案件でな。海野ペアが最適だと思ったんだ」
組んでばかりのペアが最適な案件?怪しさしかねぇ。
9階に着く。
「先に行っててくれ。俺は竹田を呼んでくる」
そう言って足早に去っていく部長。ったく何なんだよ一体……
CCに着くと、宮田さんと山浦――と、チビがいた。
「海野さん遅いのです!いっつも最後じゃないですか!」
「はっ。そういうチビはたーっぷり時間あったのか?ちゃんと髪結んできてんじゃねぇか。この前の巡視なんか風でバッサバッサしてたのによぉ?」
「っ!その話を出すのは反則です!それを言うならあなただって服に値札付けっぱなしで査察してたじゃないですか!」
「おいチビそれは違うだろうが!」
本当にああ言えばこう言う奴だこのチビは……!
「宮田さん。アレ、まじすか」
「いやぁ。喧嘩するほどってやつだね~よかったよかったぁ」
「いやいや、あの年の子と喧嘩できるってそれもう知能が……」
「おい聞こえてんだよテメェ!」
「お~こわっ」
ぜってーぶっ飛ばす。んで何で俺もこんなチビの相手してんだよ。自分にイラついてきた。
「待たせたな。揃ってることだし早速話をすんぞ」
「竹田、資料を配ってくれ」
「こちらが資料になります。印刷ミスがあったら交換するので言ってください」
渡された資料は、文字やらグラフやらが書いてあって目が痛い。
「じゃあ説明していくぞ。ここにきて分かってる奴もいるだろうが、災害係数が異常な値を示している。それに関する招集だ」
「配った資料だが、朝届いた『災害の予防措置及び現場対応に関する基本方針に基づく対応要請』という書面のコピーだ。1枚目に書いてあんのは、『今ヤバいからルールに則って対応してくれ』ってことだな。この要請は俺が現対に来てからまだ1回しか見たことがない。つまり今回が2回目だ。それだけでもヤバさは十分伝わるだろ?」
……これ、俺とチビ必要か?
「桐生サン、これ俺じゃない方がいいんじゃないすか?」
「話は最後まで聞け。また怪我すんぞ」
「で、別表1が該当地域――国東一丁目駅付近の災害予測範囲だな。これはあくまで要請時点での予測だから正直見なくていい。現時点の詳細はこの後そこのモニターで確認する」
国東一丁目っていったら、ここから5駅しか離れてねぇじゃねぇか。予測範囲も半径2km!?随分と広いなおい。
「最後に、別表2がここ24時間の災害係数の推移のグラフだ。昨日13時時点で0.09付近、そこから増加と減少を繰り返しながら、現在は0.28まで上がっている。これはウチらのログとも一致している。明らかな逸脱だ。災害が起きれば、被害も相当なものになるだろうな」
「資料の内容はひとまず以上だが、質問は?」
「……あのぉ、読めない漢字とかがあってよく分からないのです……」
「だよなごめんな!あそこの画面見えるだろ?あの赤くなってる場所に海野とセピアちゃん2人で行って、いままでやってた見回りみたいなことをしてほしいってことが書いてあるんだ!もし必要だったら対応もする、って感じだな!そこだけ分かってたら十分だ!」
「なるほどです」
「チビにこんな話しても理解できねぇんだから呼び寄せなくても良かったんじゃねぇのか?」
「……貴方だって分かってないくせに、自分のことを棚に上げるのはみっともないのでやめるのです」
このチビがよ……!
「おい喧嘩すんなら後にしろ。海野、お前が喧嘩を売らなきゃいい話なんだからな」
「……へーい」
「……よし、他に質問が無いなら次に進むぞ。既にここにいる竹田・宮田・山浦の3人にはそれぞれパートナーと現場の確認に行ってもらったから、その時の状況報告を簡単に頼む」
そう言いうと桐生さんは機械をいじり出した。




