0.0821
「とうちゃーく!ここがコントロールセンターね」
そう言って案内されたのは、大学の講義室くらいの広さはあるだろう部屋だった。講義室と違うのは、入り口が後ろにしかなく、黒板の代わりに壁一面をかなりの数のモニターで覆いつくしていて、なんかよくわからない機械も多い。管制塔ってやつか?その部屋で、5人ほどの人たちが作業して――げっ!山浦もいるじゃねぇか!なんなんだよあいつは!帰れよ!
「ここでは情報をまとめたり、現場対応に行ってる人に指示したり、オンライン上の諸々はすべてここで扱ってるわ。主にA級ライセンス保持者が色々してるけど、B級のみんなも場合によってはA級の人たちに指示を受けて操作したりするわね」
「今作業してるのは山浦君がいるけど……あ、宮田君もいるわね、ラッキー。ちょっと待ってて?」
竹田副長が宮田さんを呼びに行った。宮田さんは優しい人だ。外面からして優しさが滲み出てて、いかにも人畜無害って感じだ。前髪で目が隠れていて、前が見えているのかは怪しい。たまに壁にぶつかってるし。
少しだけ研修の時に来てくれてたが、おっとりした喋り方に加えて語尾を伸ばすせいで、秒で寝れた。そんなんでもあの若さでA級権限を持ってるんだから、相当デキるひとなんだろうな。
「お待たせー。宮田君に来てもらったから、ここの説明は宮田君にしてもらいましょ」
「こんにちはぁ、宮田で~す。研修の時も会ったけどぉ、改めて〜よろしくねぇ。竹田さんから聞いたけどぉ、ここの説明が終わったらいよいよ、らしいねぇ」
「じゃあ、竹田さん。任せてもらってもいいかなぁ?」
「助かるわ~。こっちも準備してくるから、よろしくね~」
そう言って竹田さんは出て行ってしまった。研修生の担当があんなんでいいのか?
「副長の代わりに僕が説明するよぉ。早速だけどぉ、ちょっと前にいこうかぁ」
宮田さんの声で前に行く。山浦はさっさと消えろ。
「みんなここに入ってきて最初に目についたのは、この『いかにも』って感じのモニターだと思うんだよねぇ」
「いくつかのモニターは主要な街の地図だねぇ。新時代の犯罪が起きたときとかぁ、起きそうなときにオンタイムで反映されるよぉ」
「こっちはぁ、現対の名前が載ってるねぇ。誰が対応中で~誰が対応可能なのかとかが表示されるよぉ。ステータス表示ってやつだねぇ。」
……やべぇ、めちゃめちゃ大事な話してるはずなのにエグいぐらいねみぃぞ……流石宮田さんだ。
「そしてこのぉ、中央の縦3枚横4枚の~計12枚のモニターがぁ、僕たちの街の地図だねぇ。これもほかの街と同じように~オンタイムで反映されるんだけどぉ、犯罪の規模が大きかったりするときはぁ、何枚かのモニターが街を映し出してコントロールセンターから応援対応するよぉ」
「そしてもうひとつ大事なんだけどぉ、一番上にひとつだけ飛び出てる~数字が表示されてるモニターあるよねぇ?」
「災害係数って呼んでるんだけど~あれが魔法の強さっていうのかなぁ、『魔法が使われたときに起きる災害の規模感』を数値化してるらしいよぉ」
魔力ってやつか。何をどうやったら数値化できるんだ目に見えないもん。そのモニターを見てみると、0.0821。しょぼそうだな。
「これが1のときの規模感は~街がひとつ崩壊する程度って言われてるよぉ。僕たちが作ったわけじゃないからぁ、詳しいことはわからないけどねぇ。」
「ここ数時間は0.08前後を行ったり来たりしてるねぇ。今災害が起きたらぁ、交通事故くらいの規模感かなぁ?これが0.1を超えた時だと、高速道路が封鎖されるくらいの災害規模感になるよぉ。」
「でも~数値が高いからといってぇ、絶対に災害が起きるってわけでもないんだよねぇ。みんな研修で聞かされたと思うんだけどぉ、行使された能力って~感情によって左右されるんだよねぇ。でぇ、これは聞かされてないと思うんだけどぉ、怒りや妬みなんかの~暴力性の強い負の感情によって行使されるとぉ、能力が増強・暴走・変質化しやすくなるんだよねぇ。この現象と~その時点の災害係数の高さによってぇ、災害の規模感が決まるわけぇ」
「だから僕たち現対はぁ、魔法使いが起こした事件事故に対応するだけじゃなくてぇ、災害係数が高いときに災害が起こらないようにぃ、事前に対応していく必要があるんだよねぇ。もちろん強力な能力は何もなくても強力だからぁ、災害係数に関係なく予防していく必要はあるんだけどねぇ」
「……う~ん。竹田さんは、まだ来ないねぇ」
「……じゃあ最後にぃ、このスイッチについて説明するねぇ」
あまり触れたくない内容なのか、宮田さんのただでさえ遅いテンポが、さらに遅くなる。宮田さんが指差してる、よくわからん機械に付いてる丸いスイッチはカバーで覆われていて、いかにもな雰囲気があるが、そんなにやばいやつなのか?
「君たちはぁ、現場対応をするわけだけどぉ、"誰と"現場対応するかは~知ってるよねぇ?」
――喧嘩売ってんのかこいつは。
「っは!当たり前だろうがよ!俺ら下等種は、上等種と組むんだろ!?イイコトじゃねぇか!」
「わかるよ~その気持ちぃ。でもねぇ、ちょっと声のトーン下げようねぇ」
「わからねぇから吐かしてんだろ。腹立たしいが、山浦ですらわかってたことだぞ。俺らはそういう人間なんだよ。そんなやつに腸が煮えくり返る話をしてみろ!イラつくに決まってんだろ!」
「はぁ。まぁ海野君が言ったように~僕たちは魔法使いと一緒に現場対応するよぉ。パートナー、ってやつだねぇ」
人間と魔法使いにパートナーもクソもねぇのに、なにを良い風に言ってんだ。その話をやめろ。
「それでも~僕たちはやっぱり能力を持たなくてぇ、魔法使いは魔法を使えるよねぇ?」
あいつらの話をやめろ……イライラが止まらない。あいつらはゴミでカスでこの世に存在しちゃいけないクズどもなんだよ。
「魔法使いが僕たちに向かって魔法を使えばぁ、僕たちは大体死んじゃうよねぇ。僕たちに使われるときなんてぇ、意図的に~負の感情で行使するんだからねぇ」
「……じゃあそれがさぁ、災害係数の高いときだったら~どうなると思うかなぁ。って言わなくてもわかると思うけどぉ、ほぼ確実に大災害になるよねぇ」
そうだ。だからあいつらは殺さなくちゃいけないんだ。魔法使いなんて存在は許しちゃいけない。
「だから~そうなる前にぃ、こいつを押すんだぁ。そうすると~魔法使いが全員死――っ!押すな海野!」
――宮田さんの説明が終わるより早く、俺は考えるより先に身体が動いていた。前で聞いていた同期たちを突き飛ばし、スイッチに向かって走る。そいつを押せば魔法使いは死ぬ!俺が殺す!それ以外はどうでもいい!微塵も価値は無い!俺が!俺がこの!この拳を振り下ろせば魔法使いは!




