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「おっ、窓際君じゃん」「窓際君、生きてるかー?」「おう窓際君、相変わらず金髪金髪してんなー」
「…………っクソが!」
机を殴った音にビビッてんのか知らんが、周りの同期たちが見てくる。クソ共が!配属先説明会で窓際君だとか呼ばれてから、同期にまでかんっぜんに舐められてんじゃねぇか!あの山浦とかいうゴミも、俺が死ぬとか戯言吐かしやがって。たかだか1年先に入ってただけの野郎に、何が分かるってんだクソったれ!
「荒れてるねぇ、窓際くーん?みんなびっくりしてるじゃない。廊下にも丸聞こえ」
「……竹田さん」
あの説明会で司会をしていたお姉さんが、研修部屋に入ってきた。俺と同い年くらいにしか見えないが、副長なんだから年上のはずだ。少なくとも山浦よりは。
「もう配属されてから1ヶ月経つのに、よくそこまで怒りを持続できるねぇ。若いとそんなもん?」
「あんただって十分若いくせに何言ってん……ですか」
あら嬉しい、と副長は事も無げに言う。
――そうだ。1ヶ月経った。そしてこの1ヶ月、海野という名前があるのにもかかわらず、窓際君として定着した。
この職場は突発的に現場に赴く事があるとかで、現場対応中以外の人間の服装もスーツ以外が許されている。ついでなのか知らないが、髪型やアクセで着飾っていても問題無いらしい。容姿に関しては全てが自由だ。それでも社会人である以上最低限の体裁はあるからか、言葉遣いなどは改めなければならないと、この研修期間で散々言われた。俺だけ。……じゃあ人のことを窓際呼びすんのはどうなんだよ!
「俺には"海野"って名前があるんですよ。なのに人のことを窓際窓際って、そりゃ腹も立つっての」
「いいじゃない。可愛がられてる証拠じゃん。むしろ本当に嫌なら貴方がいちいち反応しなければいいだけ。それにね、みんな思ってるの」
「目の前で首が飛ぶのはかなりクるのよ~?山浦君の勘は結構当たるからね~」
と言う副長は、悲しそうに笑っている。
「俺が死ぬわけないじゃないですか、こんなところで」
「……たしかに、あなたほど胆力のある男の子、そう簡単に死ぬタマじゃないか」
なんか馬鹿にされた気がする。
「っていうかね、こんな話をしに来たんじゃないの」
「――みんな聞いてほしいんだけど、研修期間が昨日で終わって、今日はいよいよ現場対応――――に、向けた説明があるのね。その後、晴れて君たちはこの研修部屋とはおさらばして、私たちの仲間入り。それからいろいろと見学したりして、いざ!ってわけ」
「……やっとか」
同期のクソ共等もこの時を待ち侘びていたのか、ガヤガヤうるせぇ。
……だが、俺もだ。俺も待ち侘びていた!この1ヶ月間、研修というものの、中身は基本中の基本みたいなことばかりで、肝心の仕事内容については少ししか触れられなかった。というかこの研修部屋以外は食堂なんかの共用エリアしか入れてもらえていない。
「移動の前に注意事項ね。これから現場対応本部員以外立ち入り禁止のエリアに行くわけだけど、大声で騒ぎ立てたりしないこと。いい?特に海野君」
「なんで俺だけ――」
「はぁ、当たり前でしょう。あのね、物に当たったり大声上げたりしても何も言われてないのは、あなたが研修生だからってだけなの」
「みんな顔には出してはいないけど、正直頭に来てたと思うわよ?そもそもね、社会人としての――ましてや他とは違う変わった場所ではあるけど、それでも公務員ではあるんだから、それなりの品位は求められるに決まってるじゃない」
「一般的に求められる公務員像に対してここまで寛容なんだから、これ以上はむしろやりすぎなくらいでしょう?」
「……ッチ。わかったよ。わっかりましたーご忠告ありがとうございますー」
「まったく……。」
「今は海野君に対して言ったけど、みんなも無関係じゃないからね。これから初めて見聞きするものばかりだからって騒ぎ過ぎないように。もちろん、大事なところ以外で普通に喋るくらいは問題ないわ」
それじゃあ、しゅっぱーつ!という掛け声で、部屋からぞろぞろと出ていく副長と同期たち。勝手に仲良しゴッコやってろクソども。
俺は馬鹿にしてきたやつを許さないし、その元凶の山浦も許さない。そして何より――
――魔法使い。あいつらは全員俺が殺す。こんなところで俺は死なない。




