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魔法を使えない者達で組織・運営されている魔法庁。そしてその魔法対策本部。その内部組織、現場対応部――通称、現対。
魔法を使えない者が、魔法犯罪に対応するために、魔法使いにゴマを擦る。今年の新人は、その屈辱に耐えられるのだろうか。
「まーた今年も濃い奴らが入ってきたなこりゃ」
配属先説明会中にもかかわらずそう笑うのは、現対部長の桐生部長だ。
「あのですね部長、去年どうなったかお忘れですか」
「そりゃ覚えてるさ。残ったのはお前だけだ、山浦」
去年現対に配属されたのが8人。1年後には俺ひとり。これが一般職なら、その会社は終わりだろう。
「尖った奴は活が良くて結構なことだが、大抵死ぬからなぁ」
「新人の前で変なこと言わないでください」
事実でも言っていいことと悪いことがありますよ、と言うと、桐生部長は鼻で笑った。
実際、私的な感情――特に、負の感情でこの仕事に就く奴らは、大抵長続きしない。彼らは魔法というものを理解していないのだ。可哀想に。
『――続きまして、桐生部長より、我々現場対応部の説明をさせていただきます。よろしくお願いします』
司会進行のお姉さんがプログラムを進める。
「じゃあ行ってくるわ、次はお前だからな」
――聞いてないんですが?と言うと、部長は「そりゃ言ってないからな」という顔でニヤつきながら壇場に上がった。
最悪だ。部長の無茶振りはいつもの事だが、まさか説明会で入社2年目のペーペーが喋らされるのは予想できなかった。完全にしてやられた。部長に連行されるのはいつものことだからと説明会に参加していたが、俺みたいな新人がここにいるのはおかしいことに気付くべきだった。
思えばこの1年。同期に恵まれず、部長に絡まれ、魔法使いに絡まれ、死にそうな日もあった。それでも今生きているのはもはや奇跡だろう。
「――というわけで我々現場対応部は、魔法使いと2人1組で対処するってわけだ」
「まぁ俺の話はここらで仕舞いにしよう。これからお前らの1コ上にあたる山浦ってやつに大変ありがたい話をさせるから、耳をかっぽじってよく聞くように、以上」
ため息をつきながら、部長と入れ替わるように登壇する。司会を見ると、諦めているのか、ため息をついている。やっぱり部長の無茶ぶりって、ため息出ますよねぇ。部長、いつか刺されますよ。
――さて、腹を括って壇場に上がったが、何も思いつかない。
「……あー、先ほど桐生部長から紹介があった、山浦です。皆さん、司会進行のお姉さんを見てください」
一斉に視線がお姉さんの方に移り、お姉さんは困惑している。困惑お姉さん、いいね。
「お姉さんも戸惑っているように、自分が話すのは台本と違うことなので、何も考えていません。かといって何も話さないと部長が煩いので、がんばります」
チラリと部長を見ると、「早く喋れ」とニヤついている。あんまりだ。
だけど、困惑お姉さん――竹田副長に適当に投げたおかげで得られた時間で、何を話すかくらいは決められた。ありがとう、困惑お姉さん。
「えー、では少しばかりお話しします。君達より1年早く入社した俺達は、同期含め8人いました。それから1年経った現在、残ったのは俺1人です。他の7人は死にました」
会場がザワつく。
「7人全員がそうというわけじゃないけど、魔法使いを憎み、怨み、妬んでいた人の方が多かった。全体説明会で三國本部長が仰っていたように、首が飛んだ人もいた」
「わかるかな?ここを目指してきた殊勝な奴もいたが、『魔法使いを組み伏せたい』なんて理由で、『自分は|下々の奴らとは違う《魔法使いより上の人間だ》』なんて思いでここに来た奴は、大抵死ぬ。死ななくても、普通に首が飛ぶ――あ、解雇という意味でね?」
新人達を観察する。部長を横目に見ると、『ちゃんとやれ』と言わんばかりの表情だ。やってやったら、せっかく入ってきた後輩達に嫌われるじゃないか……部長に逆らえるはずもないので、やりますけども。
ため息をこぼしながらも、話を続ける。
「――そういう意味では今回配属された10人のうち、少なくとも窓際の金髪君とその前の君、あとそこの君は今のままでいるなら死ぬ。俺の同期と同じ、芳ばしいにおいがするよ」
「目の前の君と、窓際の死ぬ奴の隣の君は、クビになる気がする。なんだ、このままいけば5人も残るじゃないか!凄いぞ君たち!」
「――さて、話を考えてきてるわけじゃないから言いたいことだけ言ったけど、君達はなにかあるかな?今ならお姉さんが正常な進行を諦めているから、少しなら時間があると思うけど」
そう言うと、手を挙げた者がいる。窓際君だ。これが漫画なら、血管が浮き出ているんじゃないかというくらい、怒りに顔を歪ませている。
「はい、じゃあそこの――」
――言い終わるより早く、ドンッ、と窓際君は机を叩く。
「なぁ、あんた俺が殺されると本気で思ってるのか!?」
うわぁすごい睨まれてる。怖いねー。
「そうだが?魔法使いは魔法が使えて、窓際君は魔法が使えないじゃないか。一瞬だよ一瞬。一瞬でスパンッ」
何を当たり前なことをという顔をしながら、首が飛ぶジェスチャーをする。窓際君、このまま煽っていったらそのうち血管切れるんじゃないか?顔真っ赤だぞ。
「そもそもね、君はこれから社会人としてここで働いていくんだよね?そんな人がその舐め腐った態度なのは、特殊な勤務環境であることを除いても肯定できるものではないよね?」
「――窓際君だけってわけじゃないからね?さっき俺が挙げた人達にも当てはまることだし、そうじゃない人達も、俺がそうは思わなかったってだけで、気付いたら死んでるかも」
なにせ俺は、2年目のぺーぺーだからね、と言うと、みんな静まり返ってしまった。窓際君は一周回って血色の良い色味に戻っている。怒りに震えるって本当にあるんだなぁ。震えすぎて残像かもしれない。
「……怒りも嫉妬も嫌悪も、別に持つなとは言わないよ?人間らしい感情は、人間だけの特権だからね。その点では君たちはちゃんと人間だよ」
「――でもね、それじゃあ人生やっていけないと思わないかい?たとえ魔法使いなんかがいなくても、さ」
「だから――――」
「……うん。だから、気をつけてね」
「では、桐生部長も飽きてきたようなので、ここらで以上とします。言いたいことがあるなら、部長に言うように」
一礼して壇上を後に――
「あ、最後に一つだけ。人によってそれぞれ個性があるように、魔法使いも千差万別。そこを念頭に入れておくように。少しは生存確率上がるかもよ?」
そう言って、今度こそ壇上を後にする。まったく、入社2年目のペーペーが何を言ってるんだか。
「まったく、入社2年目のペーペーが何を言ってんだか。なぁ、"ペーペー"さん?」
「……部長、心身に不調をきたしたので半休いただきます」
「山浦、お前が?冗談」
お前がこんなんで傷付くタマかよと言われ、俺の平和な午後休は、一蹴されてしまった。




