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さっきの一件で俺がヘイト買ってるだろうから、とりあえずセピアたちから離れて……そこらへんのモン投げとくか。
「おいおい、何が『嘲笑うな!』だよ!お笑い種なのはそっちじゃねぇか!」
「――――――――!」
「うおっ!」
声にならない声で叫んでる割にはめちゃめちゃ狙いが正確だなおい!
『海野さん!』
「っ!――馬鹿、インカムなんだから大声で喋るな。耳が死ぬ。平気だっての」
「だいたいよぉ!『私は悪くないですぅ~』とか言ってるくせして、辺り一面を火事にしてんのはドコのドイツですかー?考えるアタマないのかなぁ!?」
このまま煽っていったらそのうち血管切れるんじゃねぇか?顔真っ赤だぞ。
「――よし。それじゃあ基本的な部分なんだが、お前の能力は発動起点が手のひらで、範囲が固定なのはそうなんだろう。だが、それはあくまで"手のひらから能力を防ぐバリアを一定範囲展開する"というものであって、空間自体にそれを壁のように固定しているわけじゃない。ヤツの攻撃を防いだ時に手の動きに合わせてブレていたことからも、間違いないはずだ」
『いや、でも先生がこうやって使うって……』
「――でもじゃねぇ。いいか?能力なんて特殊なモン、授業で習う足し算引き算みてぇに"絶対にこうだ"って教えるのは無理があるだろ。少なくとも能力のことに関しては信じすぎるな。」
『はい……』
「ふぅ……はぁ……」
あーくそっ!散水してるとはいえあちぃし動きにくい!そもそも消火班はどこから始めてんだ!
「――で、だ。ここからが重要なんだが、お前の能力は恐らく、片手づつ構成されてる。つまり、前だけを守るんじゃなくて、右手と左手で別々の場所を守れるはずだ」
『いやそれは……仮にできたとして、片手じゃ負担が大きすぎるのです』
「例えば、だ。何も片手で守れなんて言ってない。形を変えられるのが重要なんだ。お前は両手で固定された壁を出してるわけじゃない。そうだな……それぞれの手のひらから1枚の板を出してるんだ」
『……わかりました。海野さんを信じます』
「――おい。さっきも言ったが自分の能力を他人に決めさせるな。自分の力なんだろ。俺のはただの"提案"だ」
後ろで救護班が待機している。救急車用の担架が2台……あのイカれ女の分だとして、後1台は?
「――なぁ、誰か救護が必要なヤツがいるのか?」
『あなたと、火事の中に取り残されたあの人の子どもの分です』
いや、それはもうさぁ…………。
「――そうか……わかった。」
「――話を戻すが、お前のバリアは動かせる。手のひらから出るなら、手の甲側から爪の先を触れさせるように合わせれば、V字のバリアを張れるはずだ。そうすればヤツの攻撃をいなせるし、純粋に防ぐよりも消耗しないだろ」
『……やってみます!』
「――待て。そっちに戻るから、それからだ。やりやすいようにやろう」
こいつの感じだと最初からV字で張るのは無理そうだしな。
「はぁ……はぁ……待たせたな……」
「だ、大丈夫ですか……?」
「あぁ、問題ない。それよりアッシュはさっきから微動だにしてないが、大丈夫なのか?」
「……話しかけないでください。気が散ります」
「す、すまん」
だが、セピアの頑張り次第ではこのまま深度が浅くなるまで耐えられる。
「セピア、ヤツの深度はⅢだったが、能力を使わせてるおかげで恐らくⅠに近いⅡまで下がってきている。散水と消火のおかげで被害もここら以外は抑えられてるだろう。このままいけばヤツを不活化できるからここが踏ん張りどころだが、いけるな?」
「はい!」
「よし、手順としてはこうだ。まず今までのように能力を使う。『これは両手で出してるのではなく、左右の手から出した板を真ん中でくっ付けてるんだ』という意識を持つ。真ん中で分けて、さっき言ったみたいにV字に張る。どうだ、やってみろ」
「やってみます!……うーん?こうして、こう!…………まったくできる気がしないのです。無理なんじゃないですか?」
「違う、絶対に無理じゃない」
「いいかセピア。お前がアルファ・フォースな以上、アッシュはセピアと同じか、それより前の世代だ。保有者の可能性もある。そんなアッシュがさっき『気が散る』って言ったんだ。俺に抱えられた時にも、コイツは『緩んだ』と言った。」
「それはつまり、能力に対して、自分の意志を反映させられるということなんだ。能力自体が変わることはないだろうが、"変質"なんてモンがあるんだ。強度を変えられたり多少形が変わるくらい、能力の範囲内だろ」
「お前が自由だと思えば、自由なんだ。自分と能力を切り離すな。なんなら俺が言ったことすら聞かなくていい」
「能力は、自由……」
……まぁ、だいぶ賭けではあるんだが。
「んじゃあ、頼んだぞ」
「……はいっ!」
そろそろ終わらせられるのだろうか。それとも、始まるのだろうか。




