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――ここは、田舎……?
「ねーちゃん遅いよ!はやく!」
「勇吾が速すぎんの!転ぶよ!」
あれは、ガキの頃の俺と、……姉ちゃんと、父さん母さん。そうか、ここは昔の記憶か。家族で、田舎の別荘に行った時の。
「ねーちゃん!場所取りからもう勝負は始まってんだよ!」
川辺で毎年やってる姉ちゃんとの釣り勝負の時か。
「おーい勇吾、場所取りはいいが自分の竿は自分で持ってけよー」
「えー、もうここまで来たんだから父ちゃん持ってきてよー!」
「ったく、仕方ないな。由美、勇吾の分の釣竿とクーラーボックス持つから、お昼の方は任せてもいいかな?」
「あら、最初からそのつもりでしたよ?」
「助かるよ、由美」
「……ちょっと、子どもの前でイチャつかないでくれません?」
「そう思うなら早く勇吾のところに行けばいいんじゃないんですか〜?」
「言われなくとも行きますけど!?思う存分イチャついてくださいな!」
3人が楽しそうに喋っている。もう見れない光景だ。
……なんで俺が知るはずのない、3人だけの会話が見れているんだ?流石に触れはしないよな。ただの記憶じゃないのか?都合のいい夢か?……いや、夢でもいい。朧げだった3人の顔が見れたんだ。
――懐かしいなぁ。この時俺はチビと同じくらいの歳だったか?姉ちゃんが高校生で、しょっちゅう喧嘩してたけど、ガキの遊びにもよく付き合ってくれたっけ。父さんともいろんなとこ出かけたし、母さんの作る料理が美味くて、中でもえのきハンバーグが最高だったんだよなぁ。思い出したら食いたくなってきた。
「ねーちゃんこっち釣れない……もう1匹釣ってる!ずるい!」
「場所取りから勝負は始まってんでしょ?」
「ずるいずるいずるい!」
「……ったく、まだ始めたばっかなんだから、もうちょっと頑張ってきな。それでだめだったら場所交換してやるから」
「竿も交換して!」
「わかったわかったから揺らすなって。ほら、昼までは頑張れ」
結局この時俺は夕方になっても一匹も釣れなかったのに、姉ちゃんも父さんもそこそこ釣ってて不貞腐れてたんだよなぁ。いつもは晩飯食って元通りなんだが、わざわざ平和な思い出に浸るだけじゃすまないよな。この後も見させられるのか……
「おーい勇吾!由奈!そろそろ家に戻るぞー!」
「今行くー!ほら勇吾、いつまでもしょげてんじゃないの!」
「…………」
「じゃ、置いて行きますね~」
「…………」
それでも無言でついて行くあたり、ガキって感じだな。んで、この行動を死ぬまで後悔するんだけど。
「忘れもんないな?行くぞー」
「ったく、わたしが釣った魚あげるからいいでしょ?家着いたら自分で捌いて食べるんでしょ?」
「…………でも自分が釣ったのが良かった……」
「来年もやればいいんだからうじうじしない!そんなんだったら私が全部捌いて食べるからね!」
「やだ!」
「じゃあ機嫌直しな」
「うん……」
「そうだな勇吾、来年と言わず近いうちにまた釣り行くか。今度は船釣りしよう」
「うん!」
「うふふ、じゃあその時はお弁当作らなくちゃ――――――」
腹に響く轟音とともに、爆発が起きた。そして車は……
――あの頃はわからなかったが、俺が孤児ですらなくなった後に知った話だと、これは単なる事故じゃなく、魔法使いが原因で起きたものだったんだよな。……待てよ、俺が知るはずのない会話を聞けるなら、魔法使いがどんなヤツなのか確認できるんじゃないか?強化系の能力は自身にしか使えないが、それ以外の系統なら、どんな魔法使いでも目視できる場所までしか能力を及ぼせられない。この爆発が魔法使いの所為だっていうなら、近くにいるんはずだ。
「――とぉちゃん……かぁちゃ…………ね……ちゃ……」
付近で爆発が2度、3度と起きている。
……こんな地獄をまた味わわされるんなら、ヤツを探してその顔くらいは拝んでやんねぇとな。
――そう遠くないビニールハウスの近くでへたり込んでいる、パーカーのフードを目深に被った怪しいヤツがいた。テメェの面を拝むまで記憶から帰るわけにはいかねぇんだわ。フードが邪魔で顔がよく見えな――コイツ、苦しみながら笑ってる……?
なんだこいつ、もっと近くで顔を見るか。
……おい、お前その顔、昔どこかで――うぐっ……ア、あタまが、頭が割れるように痛い……なんでまた、い……しき……が…………
…………
……今のは目が覚める流れだろ。なんで目開けたら別の場所に移ってんだよ。しかもここ、俺が昔いた児童養護施設の近くじゃねぇか。そうかいそうかい。誰が見せてるのか知らんが、クソみてぇな趣味だな。
父さんも母さんもあの爆発で死んで、姉ちゃんは車から放り出されて打ち所が悪く、結局死んじまった。俺はといえば、全身の打撲以外は奇跡的に左腕と右脚の骨折だけで済んだせいで、生き残ってしまった。
で、ここに来たってことは、あの日を見せられるわけか。
「勇吾はやく!門限過ぎる!」
「待ってよ健太!」
あの事故から2年、忘れることなんかできないが、仲のいい友達もできて、それなりに楽しく過ごしていた。……いたんだけどなぁ。
「君たち、ちょっといいかなー?」
――声をかけてくる女性。この人を案内したせいで……
「なんだよ!今急いでんだけど!」
「ごめんねぇ、ここら辺に暁園っていう施設があったと思うんだけど、道がわかんなくなっちゃって。園長先生と知り合いで、たまたま近くに寄ったから会いに行こうかなって思ってさ」
(……なぁ勇吾、正直急いでも門限に間に合うか分かんないよな?それだったらあの人を案内したから門限過ぎたってことにした方がよくないか?)
(いや、でも知らない人を連れてっていいの?帽子とサングラスしてて顔分からないし怪しくない?)
(園長先生の知り合いって言ってるし大丈夫だろ)
(嘘ついてるかもしんないじゃん)
いいぞガキの俺、もっと言ってやれ!
「――俺ら暁園で暮らしてんだけど、お姉さんは園長先生とどこで合ったの?」
「あー、ボランティア活動で知り合ってね。結構よく一緒になるもんだから、自然と話すようになったのよ」
(これなら問題ないんじゃないか?)
(園長先生はよくボランティア活動してるらしいし、おかしくはないね)
(決まりだな)
「わかった。案内するから一緒に行こう」
「ありがとねぇ、助かるよ」
あーあ。まぁ過去の出来事だから結果を変えることはできないんだが、見てることしかできないってのもなぁ。というか、前の光景を見ていた時もそうだったが、衝撃的な記憶を振り返っているわりには感情が動かないというかなんというか……客観的に見てるからか?ここが現実じゃないからか?
「あたしは寺田、寺田莉穂っていうの。よろしくね」
「よろしく!」
そう言って健太と握手をする女。サングラスはさすがに外すよな――って、おい、こいつ……。
そうか。さっきの女に既視感があったのは、施設の人間全員を虐殺した奴と俺の家族を殺した奴が同一人物だったからなのか。
「よろしくといっても、すぐそこなんだけどな!」
「あー、そうだったの。ここら辺とは聞いてたんだけど、土地勘がないからか迷子になってたみたい」
「へ~!迷子って大人でもなるんだ!」
「そういわれると恥ずかしいからあんまり言わないで……」
…………冷静なうちに現場対応が終わった後にやることを決めとかねぇとな。寺田莉穂。名前は覚えたぞ。部長に土下座してでも、ぶん殴られてもいいからコントロールセンターでコイツの情報を集めるか。そんで殺す。
「こんなこと聞くのは申し訳ないんだけど、君たちはどうして暁園に入ることになったの?」
「詳しいことはよくわかんないけど、俺は生まれてすぐここに預けられたってのは聞いたな」
「そうだったの……いやなこと聞いてごめんね?ボランティアで役に立つかなって思って聞いてみたくなっちゃった」
「別にいいよ。本当の親の記憶があるわけでもねーし。園のみんなと仲良いし、先生たちもみんな良い人でさ。先生たちが俺の本当の親って感じ!」
「それは良かった。勇吾君にもどうして暁園に来たか聞いていい?」
「あ……うん……」
「無理にとは言わないからね?」
「いや、いいよ」
「……夏に毎年家族で田舎にある別荘に行くんだけど、その時に乗ってた車が爆発して、みんな…………」
「何回も爆発して、僕も死ぬんだっておもってたけど、死ななかったんだ」
「……それって、いつくらいのこと?」
「一昨年だよ」
「――!」
「……そう、君はあの時の」
こいつ、ちょっと笑ったか?
「?」
「いえ、こっちの話。怪我は大丈夫だったの?」
「左腕と右脚の骨が折れたけど、歩く練習とかして治ったよ」
「そう、頑張ったんだね」
「着いたぞ!」
「ありがとう。もう大丈夫」
「?園長先生のとこまで案内するけど」
「もう大丈夫なの」
そう言って女が――寺田が指を鳴らすと、ガキの右脚が吹き飛んだ。
「え?――――あ、ア゙ア゙ア゙ア゙い゙だい゙い゙だい゙ぃ゙い゙イ゙イ゙イ゙」
「ふぅん。そこらの動物と違って図体がデカい分威力上げたほうがいいかと思ったけど、強くしすぎね、こりゃ。飛ばした部分が止血されちゃってるわ。加減むずかしいなぁ」
「勇吾!大丈夫か勇吾!誰か!先生!」
「うるさい」
「ギャッ――」
俺が施設に入って最初にできた親友の、健太君の首が爆発した。
騒ぎを聞き職員と子供たちが集まってくる。
「――あーもう!殺すのはまだとっておこうって思ってたのに、このガキうるさいからヤッちゃったじゃん」
「ゔ…………ぐっ…………」
「おー偉い偉い。そうそう、そうやって静かにしてようねぇ」
「だ、け、ど?わたしは君のせいで、君たち家族があんな所にいたせいで歪んじゃったんだから、その責任は取ってもらわないとねぇ」
左腕が吹き飛んだ。
「あ……あ…………」
「キミは殺さないよ?せっかくリハビリして治った手足を取られて、家族と居場所を壊されて、痛みと憎しみと悲しみとその絶望の中で生きていてもらわないと、流石に釣り合わないよねぇ!?」
――頭痛がまた……そ、そうか…………ガキの頃の俺の意識と連動してるのか……ぐぁ…………




