0.2623
「――こちら海野。もうすぐ現場に到着します。どうぞ」
『こちらコントロールセンター桐生。了解した。現着前にもう1回災害係数の測定をし、結果の連絡を頼む。以上』
「またアンテナ立てて測れってよ」
「了解です」
「えーっと、こうして掲げて……だめだなこりゃ」
「どうでしたか」
「相変わらずだわ。片付けるついでに見るか?ほれ」
「――こちら海野、現場付近の局地的災害係数の測定を行いましたが、依然として測定不能です。最小値0.20、最大値0.42です。どうぞ」
『こちらCC桐生。なるほど、現時点の数値が先程より増加してるのは、現場に近づいたからだろうな。こちらでは現在0.2623を示しているが、恐らく中心地点はこれより高いだろうから、その意識を念頭に入れて行動してくれ。山浦を含めた職員たちはお前のとこに着くまでまだ掛かるから、無理だけはするなよ。以上』
「……さて、いくか。ここを曲がればもうすぐ奴さんの――ん?」
100mくらい先か?景色が歪んでる。それに家から煙が……
「チビ、隠れるぞ。あそこ見えるか?」
「ん……湯気みたいに歪んでるのです。あと、なんか声みたいのが聞こえませんか?」
「確かに、女の人の声……か?」
「――こちら海野、現着しました。100mほど先の景色が歪んでいて、該当地点から女性の声のようなものが聞こえます。その付近の家から黒煙も確認しました。どうぞ」
『こちらCC桐生。了解した、消防を要請する。確認だが、景色が歪んでるっていうのはどのくらいだ?女性の声というが、女性は確認できるのか?どうぞ』
「あー、人の姿はここからじゃ確認できません。歪んでる範囲は住宅街の車道分丸々陽炎みたいに揺らめいてます。どうぞ」
『……了解した。海野はそのまま対象へ接触。会話を試み、可能ならそのまま無力化が望ましい。が、恐らく無理だから他の奴が来るまで耐えろ。以上』
耐えろってそんな無茶な。無力化にしても攻撃手段なんてねぇし、完全に的じゃねぇか。どうする俺。
『現在現場に向かっている全職員に告ぐ。対応時特別規定612を発令する。防御系及び強化系能力を持つ魔法使いを連れている者は、現場から半径2km圏内に突入した時点で能力の行使を命じろ。繰り返す。特規612を発令する。防御系及び強化能力を持つ魔法使いを連れている者は、現場から半径2km圏内に突入した時点で能力の行使を命じろ。分かっていると思うが、"集団で能力を行使して災害係数を一時的に引き下げる"のが目的だ。行使にあたって周辺への影響を最小限に抑えるよう適切に管理しろ。以上』
くそ、部長がなんか言ってるが、そんなことより目の前を対処しねぇと。
「…………ちび。可能ならアレを俺らで無力化して、無理なら耐えろだとよ」
「……っ!…………っ!!」
声にならない声を出している。だよなぁ。
「…………はぁ。これが仕事なのです」
「お前ほんとに子どもか?中身30後半とかじゃないよな?」
「うるさいですね……ほら行きますよ。ていうかあなたが行くんですよ」
「お、おう」
歪んでいる空間に自ら近づいていく……くそ、怖ぇ。ただ普通の住宅街なのに、家から昇る煙と目の前の空間が歪んでいるというだけだ。ただそれだけで、こんなに恐ろしいものだったのを、俺は忘れていた――いや、思い出したくなかったんだ。
――あと50mくらいか。断続的に聞こえる奇声。右手が震える。一歩一歩が永く感じる。だめだ、隣にはチビもいる。あくまで普通に、金髪野郎とガキの謎の二人組が向こうから歩いてくるように、限りなく自然に――頭を抱えて蹲っている女の人がぼんやりと見えてきた。あの歪みの中にマジで人がいたのかよ。……違ぇな!?歪みの中に人がいるんじゃねぇ。あの人の周りが歪んでんじゃねぇか!やべぇ!
(おいチビ、お前はここで待ってろ。多分魔法使いはあの歪みに近づかない方がいい)
(……わかったのです、お気をつけて。ここからだとあなたを守れませんので)
(ぐっ……)
やるしかねぇ。大丈夫だ、声をかけるだけ。ただ声をかけるだけだ。あと3歩……2歩……
「私は悪くない言うことを聞かないあの子が私を笑うあいつが悪いのは私間違ってない正しくない私は悪くない」
ヒィイイイイイ!話通じんのかこれ!?
「……あの~、大丈夫ですか?」
「――っ!さわるなァアアアア゙ア゙!」
「しまっ――――ガっ!」
瞬間、目の前が真っ白に光り、壁に打ち付けられた。
「どい゙づも゙ごい゙づも゙わ゙だじの゙ごどを゙わ゙ら゙うん゙じゃ゙ね゙ェエ゙エ゙エ゙!」
「海野さ――!――の――ん!」
ま、まずい、意識が……チビひとり……のこ……し……




