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巡回を始めて30分。避難誘導おかげなのか、人とすれ違う事がほぼなくなった。いや、平日の昼間ってこんなもんだったか?
「――定期連絡、こちら海野。今のところ異常無し。以上」
『こちらコントロールセンター桐生。了解した。肩肘張らなくていいから、適度に休憩挟んどけよ。セピアちゃんもいるんだから。以上』
言われなくとも休んでるわ。
それにしても、異常事態と騒いでる割には平穏だな。
「なぁ、今更住民の避難なんて必要あんのか?もっと前のタイミングがあったと思うんだが」
『あー、こちら山浦。それは今回の巡回で対象と接触する可能性があるからだ。あとそういった巡回以外のことは支給されたタブレットのチャットツールで聞け。本当に危険な時に繋がらなくなる。以上』
「……了解」
……スゥー、落ち着け落ち着け。これはもっともだ。言い方が普段通りイラつくだけだ。
「海野さん。そろそろ行きましょう」
「そうだな、行くか」
とは言ったものの、異常も何もない普通の市街地をただ歩いているだけだ。最初のうちは覚悟を決めて巡回してたが、正直面倒になってきた。
「なぁ、次はどこ歩くかチビが決めろよ」
「なんで私が決めるのですか。大人のあなたが決めてくださいよ」
「ここまで歩いて何もないんだから、別のヤツが決めたほうがいいに決まってんだろ」
「なんですかそれは……」
「……じゃあ駅の近くばかり歩いてますから、遠くの方に行くのに1票です」
チビがまともなことを言っている。
「そうすっか。ここから北の方に歩くと住宅街に出るみたいだから、そっちに行くぞ」
「了解です」
…………
……俺が選んだ選択肢だが、こうして黙って歩いてると、いらないことばかり考えちまう。
山浦の勘がどうとか他のヤツらは信じてるみたいだが、そんなん本当にあるかよ。100歩譲って勘が冴えてるとして、それが当たり続けるなんてのはもう勘じゃなくて"魔法"なんだわ。いや、魔法庁は魔法が発現しなかった能無しで構成されてるはずだから、そんなことはないんだが。そもそも男だし。……あー、でもアイツが生まれながらにして魔法使い――アルファだって可能性もあるのか。……いやいや、それこそないだろ。能力があるかどうかを徹底的に調べる、魔法使いに首輪を嵌めるような猜疑心の塊の組織が、内部に魔法使いなんか入れるかよ。
チビたちの首輪だって疑問だ。宮田さんは『反乱を防ぐための最終手段』だなんて言ってたが、それが部長や副長の魔法使いみてぇな成人してるヤツらならまだわかる。だがチビみたいなガキの首に爆発物を巻く必要が何処にある?魔法使いを魔法使いにすんのに"教育"が必要でも、"首輪"は過剰だろうが。
「――さん!海野さん!」
「……おう、なんだ?」
「なんだじゃないですよ!あれからもう30分歩いてるのに!ずっと黙ってるから私が代わりに定期連絡してるのです!それに歩き続けて疲れました!」
「あ、すまん。休憩するか」
「もう、なんなんですか……」
「――こちら海野。巡回開始から1時間経つが異常無し。ちょっと長めに休憩取ります。すんません」
『こちらCC桐生。了解した。何もなくて良かったが、目の前のことに集中してくれ。以上』
「よし、そこの公園で休憩すんぞ」
「はい」
……はぁ。歩きっぱなしだったからか、まだ6月だってのにクソあちぃ。こんなんスーツだったら終わってたな。冷たい茶が身体に沁み渡る。
「なぁ、お前いつもその格好だが、それ制服なんだよな?」
「……?はい。自分用に何着か貰うので、それを着てます。寮母さんが洗ってくれてます」
「その首輪はずっとしてんのか?」
「はぁ……そう言うと犬みたいじゃないですか。いいですか?こういうのはチョーカーって言うのです」
「で、これはずっと着けてます。これを着けてるとエレベーターに乗れたり食堂でご飯が食べれたりするのです。着けてないとサービスが受けれない?とかで外さないように言われてます。まぁ外さないようにって言われても、外し方が分からないのですけど」
……初めて会った時に竹田さんが言ってたように、俺らの社員証とほぼ同じなんだな。んで、当たり前だが肝心の部分は話してないか。
「なんで今更そんな事を聞くのですか?」
「……いや、歩き続けてんのに暑くねぇのかよと思ってな」
「今は歩いて暑いです!誰かさんのせいです!」
「それはほんとにすまん……ったく、ほら、もっと茶飲め」
チビの水筒からコップに茶を出してやる。俺はコイツのばぁちゃんか。
「もうちょいここで休憩したらまた――うぉっ!近いぞ!」
爆発音……発砲音か?2回聞こえた。
「今の聞こえたか?行くぞ!」
「はい!あっちからしたのです!」
「――こちら海野。爆発音のようなものが2回発生、黒煙を確認。場所は現在地から北西方向。至急現場へ向かう。以上」
『こちらCC桐生。了解した。全職員に告ぐ。災害の予防措置及び現場対応に関する基本方針に則り、対応時特別規定102を発令。これに伴い、全職員の位置情報を開示する。誘導中の職員はこちらの指示があるまで誘導を継続。警戒にあたっている職員はパートナーと共に海野員の元へ向かえ。 また、災害係数が規定値に到達した為、特規715を発令。各自判断により、致死性弾丸1発の発砲を許可する。発砲時は周囲への被害を十分に考慮しろ。なお、これより当回線は当該事象に関する重要事項、及び海野員からの連絡を優先するため、他職員は緊急時を除きチャットツールで連絡してくれ。そういうわけだから海野、教えた通り行動して何かあったらすぐ連絡を頼む。以上』




