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『――Hello, User』
『――Password?』
『――ようこそ、桐生 正嗣 さん』
『――状態:編集可能(A級) フォルダを選択してください』
『――選択してください』
へぇ。個人でアクセスするとあんな感じになんのか。普通にパソコンみたいだな。
「それぞれ現場確認した当時の災害予測範囲をモニターに映すから、報告を始めてくれ」
「ではまず私から報告します。昨日19時ごろ現着。現着時災害係数0.13。該当地区の巡回を2時間ほど行いましたが、異変は確認されませんでした」
「改めて言わなくてもいいと思いますが、私のパートナーは成人しているので、夜間の巡回も問題ありません」
「次に僕っすね。日付けが変わって今日の8時に予測範囲外周から巡回を開始、当時0.22。異常無し。強いて言えば、警察車両をよく見かけた気もするんですけど、特段異常と呼べるものは感じませんでした」
「最後に僕が~11時から駅周辺を中心に巡回しましたぁ。災害係数は0.25で~巡回したけど異常は見当たらかなかったねぇ」
「さて、3人の報告は以上なんだが海野、気づいたことはあるか?」
「まぁ、予測範囲が広がってるとか?」
「そうだな。竹田が巡回したときは半径1km圏内だったが、最後に宮田が巡回したときには半径3kmにまで膨れ上がってる。それから2時間で今じゃ半径3.5kmだ。あとは?」
「え?……う~ん、なんだ?」
「少しなら時間やるから考えてみろ。お前ならわかる」
と言われたものの、なんだ本当に。
――災害係数があり得ない上がり方をして、部長ですら2回目の要請で、大災害になるかもで、後は……いや、違うのか?
「……あー、このままだと大災害になるんだろ?」
「おう」
「つまり、災害がまだ起きていないこと自体が問題なのか?」
「その通りだ!できるじゃないか!」
褒められんのはいいけど、それは恥ずかしいからやめてくれ。
「もう少しいけるか?」
「……いや、わかんねっす」
「流石にまだ厳しいか」
「いいか?災害係数は『災害の規模感』を数値化してる。んじゃそれが何をもとに数値化してんのかって話なんだが、能力を使う際の、一般的に魔力と呼ばれている"何か"を測定しているらしいってのは聞いたな?」
「あぁ、あん時に聞いたなそんな感じのこと」
「エネルギーが使えばなくなるように、能力を使えばその"何か"は当然なくなる。つまり、自然に増減する分とは別に、新時代の犯罪が起きた後は災害係数が低下する。これは前提だ。」
「それを踏まえたうえで聞くが、今まで1回も犯罪が起きなかった日はあるか?」
「っ!確かにねぇな」
「なるほどな。『犯罪が起きてんのに災害係数が下がらない』ってことは、『災害係数が上がるだけの何かが存在している』ってことになんのか」
「そうだ。年々平均値が上がってるとはいえ、急激な上昇というのは過去を振り返っても俺が経験した1例しかない」
「これが場所なのか人なのか分からんが、魔力溜まりがあるのは間違いないだろう。局地的なホットスポットなら景色が歪んで見えたりもするが、3人が巡回して何も分からなかったんなら、後者だろうな」
「というわけで、この対応をお前ら2人にやってもらうことにした」
「なんでだよ!」
いやいや、どうしてそうなる!?チビは当然論外として、俺もここにきてまだ2か月しか経ってねぇし、実地研修と巡回くらいしかやってないんだぞ?
「俺らがやんのはおかしいって!新人に任す仕事じゃねぇ!」
「そんなこと言われても、もう決まってるんだわ」
「いや、それがおかしいって言ってんだよ!」
「……よしわかった。じゃあもう"俺の言うこと絶対聞く権"を使うしかないな」
「待て待て……正直今じゃないだろそれは。下手したら死人が出るんだぞ」
「それを回避するのに必要なのがお前らのペアなんだよ」
「理由は3つある。海野、彼女の能力は聞いてるか?」
「能力?知らないけど」
そもそも簡単なことしかしてないんだから能力も必要ないしな。能力に頼るのも業腹だし。知ったって良いこともない。
「セピアちゃん、教えてやってくれないか?」
「は、はい」
「私の能力は、"能力を防ぐ能力"、です。バリアみたいなものです」
なにそれ最強じゃん。
「もちろん欠点もあります。前から来たものしか防げないので、横と後ろから来たら意味ないのです」
「彼女の強さはその能力もだが、彼女が"アルファ・第四世代"なのも関係してる。」
「このチビが現行世代?こんな吹けば飛ぶようなチビが?」
「『能力を防ぐ』能力なら本来は能力しか防げないが、第四世代の素質もあってか、爆風だとか衝撃なんかの副産物もある程度防げている」
「もちろん無効化しているわけではないから防御一辺倒はジリ貧だ。それに、正面以外からは普通に喰らうんだ。だからそこは海野、お前が導くんだ。いいな?」
「いいな?と言われても……」
その俺を導くのは上司である部長の役目だろ……
「次にお前だ、海野」
海野?
「海野……って、俺?」
「お前だ。海野、お前は魔法使いが嫌いだな?憎いな?なのになぜお前は魔法庁で働いているんだ」
「なぜってそりゃ……」
言えねぇだろ、ここでそんなこと。
「いや、言わなくていい。知っているやつは知っている。だが、お前はそういう気持ちなのに、ここに来た。にも拘らず、あれ以来表に出すのを控え、仕事をしている」
「そして、それだけの事情が抱えながらも、頭の回転が鈍ることはない。その切り替えの上手さと冷静さを俺は買っている。だからこの件に関して、俺がお前を指名したんだ」
…………。
「最後に、まぁこれはお前にとっては腹立たしいかもしれんが、山浦の勘だな。山浦、頼む」
「とは言われたけど、部長が『海野に対応してもらう』って言うのを聞いて、良いんじゃないっすか?って返事しただけだけどな。まぁ窓際君ならいけると思うから頑張りな」
「こいつがこういうなら、少なくとも悪くはならない。だから安心しろ、海野」
「いや、納得はできてねぇけど、わかったっす」
「てか、チビはこんな適当でいいのか?普通に考えて無理だと思わねぇか?」
「これが仕事なのです」
こいつほんとにガキか?
「おいおいパートナーの方が立派に社会人やってるぞ窓際ぁ!」
「山浦お前マジでうるせぇから黙れ」
あいつ笑い過ぎなんだよ。もうそんなんじゃイラつくことすらなくなったわ。
「俺たちも最大限のサポートをする。だからやってみろ」
「……うっす」
「じゃあこの場は解散。海野ペアは10分後に入口集合、その他は各自支援体制を整えてくれ」
その言葉を皮切りに、それぞれ持ち場に着いて動き出した。しゃあない。俺に何ができんのか全くもって分からんが、とりあえず準備して行くか。




