童話『さかなのお母さんと、おおかみの子ども』
むかしむかし…今ほど、生きものの、さかい目がはっきりしていなかったころのお話。
ある小さな川にさかながいました。
さかなは、まいにち、川面に、落ちる虫を食べたり、岩に生えるコケを食べてくらしていました。
その川は、大変きれいな川でしたから、さかなは川面の上に空があり、川のまわりには、川べりが、そのむこうには、ふかい森があることを、しっていました。
そして、さかなは、自分は、この川からでることは、できないことを、しっていました。
さかなは自分をなげき、そして神さまにおねがいしました。
「ああ、神さま
わたしはさかなです、一生、この、せまい川のなかで、くらしていくのは、しかたありません。
でも、わたしの子どもには、もっと広いせかいで生きてほしい。
だから、自分の子どもは、さかなではない、陸や森でくらすことのできる、つよくてかしこい生きものにしてください」
神さまは、たいそう悩んだあと、そのさかなのねがいを聞き入れました。
そして、しばらくして、さかなは、子どもを産みました。
それは、陸で生きることのできる、つよくてかしこい生きもの。
おおかみの子でした。
おおかみの子は、さかなのお母さんが願ったとおり、つよく、かしこく、そして大変な母おやおもいでした。
川べりにすみ、さかなを食べるために、川に近づいてくる、キツネやクマとたたかって、おいはらいました。
川の中に入って、お母さんをたすけることもありました。
ですが、ざんねんなことに、お母さんは、川の中のこと、水の中のことしか分かりません。
ですから、おおかみの子が、なぜ、ときどきキズだらけになるのか、「あぶない!」とさけぶのか、どうして川の中にはいってくるのかも、わかりませんでした。
時がながれ、おおかみの子は、少しづつおおきくなっていきました。
おおかみの子は、森の中のこと、そのむこうの、しらない世界のことを、もっとしりたい!と思い、少しづつ川からはなれることが、ふえていきました。
さかなのお母さんは、自分のそばにおおかみの子がいないときは、いつも不安でした。
森からやってきたキツネやクマに、いつおそわれて、食べられてしまうのではないか?と、気が気ではありませんでした。
ですが、お母さんは、おおかみの子が、いつまで川のそばにいるのだろう?と、ふしぎに思っていました。
あれだけすばらしい子なのだから、この川をはなれて遠いところでもっとりっぱになってほしい、と思っていました。
やがて、さかなのお母さんは、おおかみの子が、ずっと川のそばにいるのは、泳げないからだ、と思うようになりました。
おおかみの子は、あれだけかしこいのだから、水の中を自由に泳ぐことができたら、川を下って、やがて、遠い遠い森や川のおわりのはてにあると聞く、広い広い海にもたどりつくことが、できるにちがいない。
さかなのお母さんは、そう考えました。
そして、あの自分にはついていない、じゃまな二本の後ろ足を切り落せば、きっとあの子も自由に、水の中を泳げるようになるに、ちがいない!
そこでさかなのお母さんは、神さまにおねがいをしました。
「あの子の、じゃまなあしを切り落とすための、斧をかしてください!」
これを聞いた神さまは、大変おどろきました。
そして、さかなのお母さんに答えました。
「そんなおそろしいことのために、斧をかすわけにはいかないよ?」
神さまのこたえを聞いた、さかなのお母さんは、なげき、かなしみました。
「神さまは、ひどい、陸や森でくらすことのできる、つよい生きものを、おねがいしたのに、川でおよぐこともできず、どこにも行けない子どもを、おしつけるなんて!」
これを聞いた悪魔は、さっそく斧をもって、さかなのお母さんのところに行きました。
「お母さん、たいへんなことになりましたね、でももうだいじょうぶですよ。この斧で、子どもの足を切ってあげましょう。」
さかなのお母さんは、たいへん喜びました。
そして、悪魔から斧をうけとると、よる、おおかみの子どもがねている間に、足を切ってしまいました。
おおかみの子どもは、おどろいて、聞きました。
「おかあさん!、どうしてぼくの足を切ったのですか?!」
さかなのお母さんは、ほこらしげに、答えました。
「おまえは、後ろに足があるから、川の中で、じゆうに泳げなかったのです。だから、じゃまな足をきったのです。これからは水の中をじゆうに泳いで、どこにでも行けるようになるでしょう。」
あしを切られた、おおかみの子どもは、歩けなくなったので、じゆうに狩りにいくことも、できなくなり、川からはなれることも、できなくなりました。
そして、だんだんと、やせて、げんきがなくなっていきました。
さかなのお母さんは、なげきか、なしみました。
「なんということでしょう。これだけのことを、してあげたのに、あの子は、まだ泳ごうともしないし、動こうともしない!」
それを聞いた悪魔は、もういちど、さかなのお母さんのところに、行きました。
「おかあさん、あの子をよくみてください。あの子の首にはエラがない!。これでは、足がなくても、水の中で息をして、およぐことは、できませんよ?」
さかなのお母さんは、悪魔のいうことは、もっともだと、かんしんしました。
そして、つぎの夜。おおかみの子どもがねている間に、首をきってしまったのです。
おおかみの子どもは、とても、とても、おどろきましたが、首をきられたので、もう何も言うことができませんでした。
おおかみの子供は、おもいました。
「ああ、ぼくは、陸の上で、歩きまわることしか、できなかった。足がなくなったら、歩くことも、できなくなってしまった。
もし、ぼくが空の上から、陸や川をみおろして、おかあさんを、みまもることができたら、たすけることができたら、どんなによかっただろう?」
そして、おおかみの子供は、首から血をふいて死にました。
さかなのお母さんは、とても、とても、おどろき、なげき、そして、だれよりも、かなしみました。
「なんということでしょう!。こどもが、死んでしまった!。わたしの、たいせつな、たいせつな、子どもが、しんでしまった!。どうして、死んでしまったのでしょう?。」
でも、さかなのお母さんには、おおかみの子どもが、なぜ死んだのか、わからないままでした。
神さまは、これをみて、たいそうお嘆きになりました。
そして、死んだ、おおかみの子のたましいを、天に上げ、そのかけらで、よるのそらに、かぞえきれないほど、たくさんのきらきらした、うつくしくかがやく、星ぼしをつくりました。
それからの、おおかみたちは、夜の空を見上げて、そのきらきらした、うつくしい星ぼしに、とどくように、かなしく、大きく、長くほえるように、なりました。
神さまは、そのあと、さかなの子どもは、さかなに、おおかみの子どもは、おおかみに、と、きめて、生きものの、さかいめをはっきりさせた、ということです。
(おしまい)
このお話のいみは、よんだみんなが、ひとりひとり考えてみてください。




