第12話 幽路守(番人)の登場
崩れ去った渦の跡から、ゆらりと人影が現れた。
長い衣を纏い、顔は半透明の仮面に覆われている。背には無数の鎖のような霊体を従え、歩みは遅いのに、確実に空間を支配していた。
「……侵入者か」
低く響く声。誰とも知れぬその存在は、一行を見渡し、静かに告げた。
「ここは幽路――死者が渡るための道。生者が踏み入ることは許されぬ」
「アンタがこの異変の黒幕ってわけ?」
霊夢が一歩踏み出し、札を構える。
幽路守は小さく首を振った。
「我はただの番人に過ぎぬ。だが、越えるつもりならば――試させてもらおう」
次の瞬間、空間が震えた。
番人の背後から放たれた霊鎖が、蛇のようにうねりながら弾幕へと変貌する。無数の光弾が重なり、幾何学模様の陣を描き出した。
「やる気ね……! いいわ、正面から受けて立つ!」
霊夢は札を広げ、八方へと射出する。
幽路守の放つ霊鎖はまるで生き物のように軌道を変え、霊夢を絡め取ろうと迫る。
激突――。
弾幕と弾幕が交錯し、爆ぜるたびに幽路の壁が軋む。霊夢は冷静に弾幕の隙を見極め、逆に霊符で守護の結界を切り裂いていった。
「……なるほど。博麗の巫女か」
幽路守の瞳が仄かに光る。
「ならば、ここを通る資格はあるかもしれぬ」
試すような戦いはなおも続き、霊夢は汗をにじませながらもその挑戦を受け止めていく。
――番人との邂逅は、ゴーストルードの核心へ踏み込むための第一関門であった。