第10話 少女内部探索
霊夢たちが踏み入れたのは、現実と幻想の境目が溶け合ったような、不気味な回廊だった。そこはまるで、死者の記憶を編み込んだ織物の中を進んでいるかのように、形を定めず揺らめいていた。
「ここが……ゴーストルード……?」
魔理沙が小声で呟く。声はやけに遠くへ吸い込まれ、返ってくるのは無数の囁きの残響だった。人間の言葉とも幽霊の呻きともつかぬ声が壁や床を這い、彼女らを見えない指先で撫でてくる。
「気を抜かないで。ここは、歩いているだけで魂を持っていかれそうになる」
霊夢が前を見据えながら言う。赤白の巫女装束が淡く光を放ち、黒く蠢く気配をわずかに払いのけていた。
妖夢は背後に立ち、楼観剣を抜いたまま振り返る。「……誰かが導いている。この道は偶然じゃない」
彼女の言葉どおり、目の前に広がる道は幽霊の群れによって形作られていた。まるで亡霊たちが手を取り合い、一行を奥へ誘うようにしているのだ。
進むほどに、周囲の空間は歪んでいく。人里の影、墓場の記憶、戦場の残滓が入り混じり、幻のように現れては消えていく。そこに漂うのは、生前の未練が形を成した残像。
「……まるで、死者の道標だな」魔理沙が吐き捨てるように言った。
その奥に、なにかが待っている。
そう確信させるような、重苦しい気配が――。
霊夢たちは一歩ごとに、ゴーストルードの深部へと足を踏み入れていった。