表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

転生前の配役オーディションでヒロイン断ったら敵国モブ兵士になったんだけど

作者: 龍 たまみ

どうぞ宜しくお願い致します。

転生する前にこんなオーディションあったらしいよ……というゆるふわ設定の軽~いの物語です。

転生前のオーディションに焦点をあてた作品ですので、転生してからのお話はございません。

「危ない!!」


 篝野(かがりの)あかり 23歳。

 独身OLの私は、トラックの前に飛び出してきた男の子を突き飛ばして身を挺して守った結果、自分の生涯を終えてしまった。


 ■■■


篝野(かがりの)あかりさん、今から転生先の配役オーディションが始まりますよ」


 可愛らしい天使の羽が生えた子供二人に手を引かれてやっと、自分が死んでしまったことを理解する。

(あぁ……やっと就職して仕事に慣れたばかりだったのに……篝野あかりとしての人生を終えてしまったのね)


 私は、少しの後悔とともに、あのトラックの前に飛び出して来た男の子が無事だったならそれで良いかと気持ちを切り替える。

 それよりも……先ほどの天使の言葉が気になる。


「えっと……配役オーディションってなんですか?」

「女神様が次の転生先に相応(ふさわ)しいと思う人物に転生させるのです」


 天使に手を引かれて行った先は、雲のような真っ白い何もない空間で、九人の人間がすでに集まっている。私を含めてちょうど十人だ。

 どうやら、私と同じ日にあの人たちも別の場所で死んでしまった人たちのようだ。


「あの方たちも……転生されるのですか?」


「はい、そうですね。さぁ、女神様からの説明が始まりますからお聞きください」


 目の前にはシルクのようなサラリとした布を身体に巻き付けた黄金の髪を足元まで伸ばしている女性が手を広げて立っている。


『さぁ、前世で良いことをなさった皆様はこれより新しい世界に転生いたします。この世界には魔法があり皆様の元いた世界で数年前に流行っていた乙女ゲームの世界の中に転生することになります』


(へ? 乙女ゲームの中に転生させられるの?)


 私はこの時点で、ちょっと眉間に皺が寄ってしまう。


(乙女ゲームと言えば、イケメン王子やら護衛やら婚約者やらいろいろ出てくるゲームじゃないの! ヒロインなら多少の苦労はあるけれど、攻略者を攻略したことのある人ならすでに攻略方法がある程度わかってしまっているのではないかしら)


『皆様の転生先のゲームは[ときめき聖女のセーン王国物語]になります。では、今から配役を決めますので、こちらに書いてある台詞を順番に読んでくださいね』


 女神様は清らかな声でドンドン説明を続ける。


 しかも[ときめき聖女のセーン王国物語]は聖女が、いろんな殿方と色恋を順番に楽しむというゲームじゃないの!

 ヒロインだけが異様にモテて、心も身体も相手と繋がることで聖女としての魔力を増強していくという、大人向けの作品だ。


(え? ちょっと待って! ヒロインなんかになったら大変じゃないの? とっかえひっかえいろんなアプローチしてくる殿方とデートや旅をして魔力を増強しないと王国が滅んでしまうという内容じゃない! そんな女性に私、転生するのは嫌よ!!)


 私の考えをよそに、ヒロインの台詞、王子の台詞、護衛の台詞、側近の台詞、悪役令嬢の台詞、ヒロインの妹の台詞、ヒロインの母親の台詞、侍女の台詞、国王陛下の台詞を言うように指示される。


(絶対、ヒロインの台詞は心を込めずに棒読みしないといけないわね)


『さぁ、篝野あかりさん、あなたの番です。上から順番に演じてみてください』


 有無を言わせず、順番に台詞を言わないとこの場は終わらないらしい。

 私は意を決して、棒読みヒロインの台詞を読み上げてから、できれば侍女とかヒロインの母親の役になれるようにそちらの配役を上手に演じられるように読み上げる。


「ヒロイン:サーベル王子…… あ、あなたに……あ、会う日を心待ちに……しておりました……」


(よし。敢えて声を震わせて、間延びしながら台詞を読んだし棒読みしたから受かるはずわないわ! では次は王子の台詞を読み上げたらいいのよね……えっと……次の台詞は……)


 私はこうして、100%ヒロイン回避をするために最善の努力をした。

 ここにいるオーディションを受けている十人のうち、キラキラ美女が一人いる。

 彼女は全力でヒロインを狙いにいっているのが傍から見ていてもよくわかる。


(大丈夫よ! あなたならきっとヒロインになれるわ!)

 私は心の中で、キラキラ美女を応援する。

 男性の中にも本気で王子や国王陛下の配役を狙っているイケメン男子がいた。

(やる気がある人がその配役になるのが一番だわ!)


 みんなの配役オーディションが一通り終わるといよいよ転生先の[ときめき聖女のセーン王国物語]の何に転生するのか女神様が結果発表を行う。


『皆様、お疲れ様でした。では配役の発表を致します。新たな世界をどうぞ謳歌(おうか)してくださいね。では、まずヒロインから……』


 キラキラ美女が両手を組んで、女神様にお願いポーズをしながら熱い視線を送っている。

(大丈夫よ、きっとあなたならヒロインに選ばれるから!)

 私もキラキラ美女が転生先で良き配役、良き人生になるようにエールを送る。


『ヒロインは、篝野あかりさん!!』


「……へ? 私ですか?」


 その場に居合わせた9人と天使たちがおめでとう!!と次々、声をかけてくれる。

(えっと……辞退したいと言ってみてもいいのかしら。ひとまず、遠回しに辞退を申し出てみましょう)


「女神様、ありがたき幸せでございます。しかしながら私には恐れ多い配役になっております。きっと力不足だと思いますので別の方にお願いできないでしょうか」


 遠回しに辞退を申し出ると、一気に優しかった女神様の額に青筋が立って、苛立っているのが伝わってくる。


『私の配役に文句がおありなのですね? わかりました、あなたにはこの役を差し上げますわ!!』


 女神様は、ひょっとしたら私の心の中までお見通しだったのかもしれない。

 本気でヒロインがやりたくないと表情にも出ていたのかもしれない。

 私が返事をする前にポンッとどこか森の中に放り出されてしまった。


「えっと……結局、私は何に転生したのかしら?」


 私は自分の手足を見てみる。

 どうやら子供のようだ。赤ちゃんからの転生ではないらしい。子供と言っても十歳くらいだろうか。


「えっと……一応性別はと……」

 私は、着ていたズボンの中をのぞく。


「あ……ヒロインを断ったから、男の子になったということね」

 結局、この配役は何だろう。みすぼらしい衣類を身に着けているところを見ると……


「あれ? あの乙女ゲームにこんなみすぼらしい配役なんてなかったはずだけれど」

 九人分の配役オーディションがあったはずだ。

 ということは、最後はあの配役オーディションになかったモブ役ということだろうか。


 自分の衣類を見てみると、少年なのに何やら兵士のような格好をしている。衣類にはどこかの国の紋章もついていた。

「あれ? この紋章って……聖女のセーン王国の紋章ではないわよね……」


 私の脈がどんどん速くなる。

「え? 待って……これって魔力を増強した聖女がサーベル王子と共に戦争することになる予定の敵国ムガタ王国の紋章じゃないの!!」


 ムガタ王国はボロボロの負け戦で被害も大きく、この戦争では最終的に聖女のいるセーン聖国が勝利するはずだ。


「私、まだ年若い少年なのにもう兵士やっているってこと? これってモブ決定よね。しかも真っ先に命を落とす歩兵みたいな感じの?」


 ヤバいじゃない。転生してもすぐ死んじゃうじゃない。

 女神様……ヒロイン断ったの根に持っていたんだろうなぁ。

 だからって、この予想外の配役がまわってくるとは想像していなかった。


「でも、ヒロインは……私には向かないわ。一途に誰かを愛した方が幸せだもの。コロコロと男性を手玉にとって弄ぶような役はできないわ」


 私は、立ち上がって森を抜けることに注力することから始める。

 なぜ、少年兵の格好をして森の中に一人ポツンといるのかはわからないけれど、この場から生き延びることだけに集中したほうが良さそうだ。

 魔法も魔物も存在する世界で、私の今の装備は腰には薬草袋、右手には刃のかけた短剣だけ。

 この森を抜け出すことから始めないと、一日で転生先の人生が終わってしまうかもしれない。


 そう思った私は、敵国のモブ少年兵士として力強く生きていくことを心に決める。

 万が一、セーン聖国との戦争になっても生き残れるように常に死と隣合わせの人生をどうやって生きるかというサバイバル人生になることはわかっている。


「女神様。私はモブ少年兵士として生き延びてセーン聖国と戦争が起こったとしても……簡単に生きることを諦めませんからね!!」


 森の中に響いた私の叫びを聞いた女神様が、クスッと笑っていたことを私は知らない。


『篝野あかりさん、あなたがヒロインを断ることはわかっていたのよ。どうか、ゲームの中に存在していないモブ少年兵士だけれど……膨大な魔力持ちに転生していますから、転生先の世界が平和になるようにどうか……どうか導いて下さいね。頼みましたよ』


「女神様のちょっとイラっとしたヒステリック女神様の演技、最高でしたよ!」

「普段の女神様と全然違うから迫力があって驚いちゃった!!」


 配役オーディションの場にいた天使たちは女神様の演技を大絶賛していたことも……もちろん、私は知る由も無かった。


 全ては女神様の思い描いていた配役になっていたとは知らずに、私の新しい人生は始まったばかりだ。

お読みいただきありがとうございます。

あかりの転生後に生き残ってもらうためにやる気を引き出させた女神様は……策士だったというお話です。


楽しんでいただけましたら、↓の★★★★★の評価、ブックマークをしていただけると嬉しいです。

星5つから星1つで評価していただけます。

執筆の励みになりますので、何卒宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ぶつ切り過ぎて感想も何も… なんですか?連載に誘導する感じですか? 一番嫌なタイプ。
投稿感謝です^^ 原作者による原作破壊と見せかけた、断れないスジからクソ原作と大根役者たちを押し付けられた監督の反逆っぽい? 役が9人分しかなかったから篝野あかり(故人)さんは監督権限でねじ込んだイ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ