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初恋が叶うことってなかなかない

 アスロンとスルトの一日は親の手伝いから始まる。

 二人の親は共同で牧場を経営しており、数種類の家畜を飼育している。

 早朝太陽が昇り始めるころに起床し、牛舎の掃除の手伝いを行う。

 その後手が空いていれば養鶏場で卵の回収を手伝い、その後朝食をとる。

 食事は互いの家族が揃ってからというのが決まりとなっており、決まった時間に間に合わせなければいけないため、朝は何かと大忙し。

 そこを乗り越えればあとは自由にしてよいと言われている。

 とは言っても毎日遊ぶのは忍びないということで、午前中は店番の手伝いなんかをしていることが多く、村の外へ出たり、広場で駆けまわったりするのは基本的に昼食を取った後が基本である。

 二人とも年齢と村の教育のレベルに釣り合わないほどの計算速度を持ち合わせており、将来有望だと村の大人にもてはやされている。

 前世の記憶があるからこそなのだが、どこで習ったのかと聞かれた際は、見て覚えたと誤魔化している。

 日が沈む頃、夕食を取り入浴を済ませたら翌日に備えて月が昇り切る前には就寝してしまう。


 彼女たちの日常はこれの繰り返しであり、あれやこれやに追われて大忙しだった前世と比べて少々味気なさを感じるところもあるが、アスロン曰く「暇である分には問題ない」とのことなのでスルトも「まあその通りか」とあまり深く考えないようにしている。


 そうしていつも通り手伝いと朝食を取り終え、店番の手伝いをしている時に鍛冶屋のガルマと息子のバイスが買い物しに来てくれた。


 「いらっしゃいませ~。あっ、バイスだ。おはよう!」

 「あぅ……」

 「おい! ちゃんとスルトちゃんに挨拶せんか! ごめんなスルトちゃん。こいつはいっつもこうだから……」

 「大丈夫ですよ。ゆっくり見ていってくださいね~」

 「ありがとうね。そうさせてもらうよ」


 そうして二人は店に並べられた採れたての牛乳や卵なんかを見て回る。

 少し遅れてアスロンも店の奥から手伝いに出て来る。


 「あっ、いらっしゃいませ~。今日は牛乳が採れたてでおいしいですよ!」

 「おうアスロンちゃん! ならそれを一つもらおうかな。あとこれと……」


 そうしてガルマが商品をあれこれ選び、アスロンが言われたものかごに入れていく。

 スルトはその様子をボケ~っと見ていると、バイスがちらちらこちらを見ていることに気づいた。

 どうしたのかと思い声をかけようとすると、向こうも気づいたようで、咄嗟にガルマの影に隠れてしまった。


 「おいなんだよ、バイス。動きづれぇじゃねぇか……」

 「あっ、その……ごめんなさい」

 「きっとスルトと目が合って恥ずかしかったんじゃないですか?」

 (あぁ包み隠さず言っちゃうんだ……)


 すると図星だったのかバイスは耳の先まで顔を真っ赤にしてしまう。

 そこでようやくまずいことを言ったとアスロンは口元を抑える。

 ガルマは「なんだ、そんなことか」と愉快に笑っていた。


 「いいか、バイス。自分が惚れたならいつまでもウジウジしてると他の男に取られちまうんだぞ! そういう時は勇気を出して、はっきり好きだって言葉に出してやらないといかんのだ」

 「ガルマおじさん。全部聞こえちゃってます」

 「あぁ……。こりゃ失礼! アッハッハッハ! でもこれでスルトちゃんのこと好きだって分かってくれたから、まあいいだろう!」

 「よ、よくないよ! お父さんの馬鹿~!」


 そう言ってバイスは一人で店を出て行ってしまった。

 残された三人の気まずさは半端じゃなかった。


 「ありゃりゃ。ちょっといじめすぎたかな? まあスルトちゃん、好きでも嫌いでもあいつのことよろしくな。寂しがり屋だから構ってやらないと落ち込んじまうんだ」

 「ええ。わかりました。あっ、お代はこちらでお願いします」


 そうしてガルマは提示された金額をぴったり払うと、二人に手を振って店を後にした。


 「今回の戦犯はアスロンね」

 「いや~……つい言っちゃった……」

 「全く、わかっててもそういうことは口に出さないってのは暗黙の了解でしょうよ。特に親の前なんて」

 「ははは……今度から気を付けるよ……」

 「今後私はどうあの子と付き合ったらいいのか分からんくなったし……」

 「それはまぁ……向こうの出方次第じゃない?」

 「それはそうだね」


 アスロンは誰もいないことを確認し、スルトとそういう色恋沙汰の話題を振る。


 「スルトはこの村だと誰が好きなの?」

 「わかってて聞いてる?」

 「いや……直接言ってくれないと、ウジウジしてたら取られちゃうよ?」

 「このっ……! はぁ何度も伝えてるのに今更言ってほしいの?」

 「えへへ……なんか気持ちいいから」

 「はいはい。アスロンのことが一番好きよ。これで満足?」


 アスロンは若干顔を赤らめるスルトにニヤついた笑みを浮かべる。

 その笑みを見たスルトは「あぁもう!」と怒ってしまった。

 こちらもちょっといじりすぎてしまったようだ。


 「ごめんって。私もスルトが好きだよ」

 「……ふ~ん」

 「ほらぁ~……機嫌直して~」


 そんなことがありつつ午前の手伝いを終えた二人は、昼食を取った後、いつもの村の外の森へと遊びに行く。

 森の中の木々に囲まれた広場は綺麗で小さな花があちこちに咲いており、まるで絨毯のようだった。

 二人はいつもそこでいろんなことをして時間を潰すのだが、今日は先客がいた。


 「あれ? どうしたの?」

 「ワレラガオウヨ。ゴホウコクガゴザイマス」

 「うむ。聞こう」


 スルトとアスロンは二人で切り倒した丸太に腰掛けると魔物は用件を話し始めた。

 彼が話した内容はこうだった。

 一つ目は二人を襲った五人は南の地域を統べる王アウストリの秘密の部隊であったこと。

 国王の命令の下、噂の源たる子供を拉致する予定だったが、二人に歯が立たず返り討ちにあった。

 二つ目はその部隊が帰ってこないことにしびれを切らした王が、騎士を引き連れてテラの村に向かっているということ。

 目的はおそらく村を焼き討ちにし、子供ごと葬り去ろうとしているのではないかとのこと。

 三つ目は件の部隊を仲間に引き入れることに成功したとのこと。

 度重なる説得と真実を隠匿していた王への不信から寝返ることを決意したようだった。

 また二つ目の件を伝えたところ、あまりにも人の心が無さすぎると憤慨し、ぜひ村を守らせてほしいと申し出られたとのこと。


 以上が魔物から語られた用件だったのだが……。


 「いや三つ目怖くね?」

 「わかる。相手は王様お抱えの部隊だもんね。そんなにあっさり寝返るかな」

 「平和的に解決する術はないかな……?」

 「ソレデシタラ、アノモノタチヲイチドカエラセテハドウデショウ?」

 「あぁありかも。今回戦ってみて彼らは脅威じゃないってのはわかってるし。王が来る原因は彼らが帰らないことだもんね」

 「さすが私の子よ! よく言ったわ!」

 「オホメニアズカリ、コウエイデゴザイマス」


 こうして一度捕らえたかの部隊を王の下へと帰らせることにした。

 道中でばったり会った感じを演出すれば、ちょっと時間がかかっていたとなって帰るだろうとの考えだったのだが……。


 「あっ、私たちを攫うのが目的なんだっけ?」

 「帰っちゃダメじゃん。どぅする~? スーちゃんだけでも連れてってもらう?」

 「んん……ぶっ飛ばすよ?」

 「冗談ですやん……」

 「ソレニカンシテハ、アマリキニシナクテモヨイカト」

 「というと?」


 その魔物は部隊が話した任務失敗時の撤退ルールなるものがあると話した。

 なんでも任務にかけられる時間は最長でも一日。

 それを過ぎてしまった場合は即時撤退し、再度指示を国王に仰ぐというもの。

 すでに一日は過ぎているので、このルールに則らせれば自然であるという。


 「このルールあるのにすぐ騎士まで動員し始めちゃったの……?」

 「よっぽど焦ってるんだね」

 「……私いいこと思いついたかも」

 「アスロンの意地悪タイム突入っと」

 「とりあえずあの人達は帰す方向で。王様たちには……魔王の怒りを味合わせてあげましょう」

 「オォ……カシコマリマシタ!」


 そうして始まったアスロンの復讐は、功を焦った王をギャフンと言わせるものとなった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。


バイス君、君の恋は儚くも叶わないものでした……。残念!

さて、話は変わって一体どんな意地悪で王様をギャフンと言わせるのか、続きをご期待ください!


ブックマークのご登録、ご感想等いただけるとモチベーションにつながり、創作活動はかどりますので、ぜひぜひお願いいたします!!

また誤字や脱字等ございましたご報告のほどお願いいたします。


拙い物書きですがこれからもよろしくお願いいたします。

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