可愛すぎる容姿は武器にも弱点にもなる
容姿がとても可愛らしい二人にどう脅されたところで怖さを感じることは無い。
それはつまり今の二人は尋問に向いていない人間だということである。
村一番の可愛らしさを持つ仲の良い女の子二人に「知ってることがあるなら言え!」と可愛い声で言われても何も凄みを感じない。
口から出て来るのはお遊び感覚の優しい嘘だけである。
埒が明かないため、その後のことは魔物に任せて情報を引っ張り出してもらうことにした。
人間とは明らかに違う容姿を持つ魔物に凄まれたらさすがに口を割るだろうという甘い考えである。
「早くこの体成長しないかなぁ」
「成長しても可愛いままだと意味ないよね」
「でもこの可愛い見た目結構好きなんだよね」
「えぇ……私は前のテルちゃんの方が好きだった。なんか仕事ができるかっこいい女って感じで」
「それはあんたの好みでしょうが。……そう言われるのは嬉しいけどさ」
村に帰りながらそんなことを話していると、開けた畑から大声で二人を呼ぶ声が聞こえてくる。
二人は水路に囲まれたその畑に入り、声の主の下へと向かう。
「お~い二人とも! ちょっと来てくれ!」
「こんにちは、グルマおじさん! 何かありましたか?」
「あぁもうすぐ二人の誕生日だろ? 今年もたくさん収穫できたし、お祝いにと思ってな」
グルマおじさんとは村で一番大きな果物畑を持つ人で、明るい性格のふくよかな中年である。
グルマはそう言うと二人の背丈の半分ほどの大きさのかごを持ってくる。
中にはこの畑で育てられている、様々な果物がかごいっぱいに詰められていた。
そこから発せられる甘い香りが二人の鼻を刺激し、自然と笑みを浮かべさせる。
「わぁ~いつもありがとうございます!」
「こんなにたくさんいいんですか?」
「アスロンちゃんとスルトちゃんは村の宝だからな! この恵みもきっとテルース様からのご加護だよ。遠慮せずに持って行ってくれ!」
「「ありがとうございます!」」
二人はそのかごを背負い込み、結構な重さをその小さな背中に感じながら畑を後にする。
グルマは麦わら帽子の下から満面の笑みを浮かべて手を振りながら、二人を畑から見送った。
村へと戻ってきた二人は、村の中央にあるテルースの銅像の傍まで寄り、荷物を下ろしてそれを見上げる。
手を胸の前で組み、片膝をつくと二人は祈りの口上を揃って呟く。
「「テルース様、今日もまた見守りいただきありがとうございます」」
これは村の風習として、何十年、何百年と昔から行われてきたものである。
村に無事に帰ってきた者は必ずこれを行う決まりがある。
しかしスルトはこれを口にした後いつも決まってこういう囁くのだ。
「はい。ご苦労さん」
さすがに何度も聞かされているのでアスロンはもう慣れたが、たまに親や村の人など、別の人と口上を呟くときも決まってこう囁くので、その時だけは笑いそうになってしまう。
アスロンにしか聞こえない声量で行うがために質が悪い。
いつも真面目な雰囲気の中のおふざけを必死に耐えなければならないのである。
たまに笑いのツボが浅くなっている時にやられると「フフッ」っと吹き出してしまう。
その時のスルトはまるで勝ち誇ったかのようにニヤニヤと笑みを浮かべるのだ。
*
祈りを終えた二人は荷物と一緒に銅像のある広場の端に立ち、そこでまた仲良くお喋りを始める。
暗くなる前に村に戻ってきた時は、いつもこうして暗くなるまで話したり、広場を駆け回って遊んだりして時間を潰している。
「今日は笑わなかったね」
「いやもうマジで勘弁して。ツボが浅い時のあれまじで効くから」
「それが面白いからやってるんじゃん。みんなで私にお祈りするから、お返事をしてあげてるんだよ」
「せめてご苦労さんやめれる? おっさんくさいよ」
「失敬な! まだ六歳だし!」
「中身と合わせたら何歳か言ってみろ!」
「うるっさい! 中身も六歳のはずだわ! てかおっさんって、そこはおばさんじゃないんかい! ……いやおばさんでもないわ、ふざけんな!」
そんな感じでわちゃわちゃと過ごしていると、道行く村の人に「元気ねぇ」と微笑まれる。
それを見るのを楽しみにしているご老人なんかもいる。
彼女たちはグルマが言っていた通り、村のみんなの宝なのだ。
そうしているとそこへ同じぐらいの歳の男の子たち三人がからかいにやってきた。
一番背が高い男の子は農家のホグルの息子のビーンで七歳になったばかりの陽気な子。
いつも真ん中に立つのは村長のテリナスの息子のテロックで八歳の元気な子。
そして二人に隠れるようにやってくるのは鍛冶屋のガルマの息子のバイスで七歳の少し内気な子。
彼らはアスロンとスルトを見つける度に近くにやってきて、何かしらちょっかいをかけようとしてくる。
それを嫌がって追い回そうとすると、楽しそうに逃げ出すのだ。
そう、彼らは二人に気があるのだ。
具体的に誰が誰にというのは分からないが、それは中身が魔王と勇者である二人には筒抜けで、互いにしか興味がない彼女たちは、毎度適当にあしらっている。
「おい! 何楽しそうに話してるんだよ! 俺たちも混ぜろ!」
「「そうだそうだ!」」
(毎度飽きないわねこいつらも)
(私たちが魅力的すぎるのよ。罪な女ね)
「あんたたちと話すことなんかないわよ! 帰ってお手伝いでもしてなさい!」
「おい、スルト! それが村長の息子に対する態度か!?」
「「謝れ謝れ!」」
(めんどくせぇ……)
「まあまあ。今日はグルマおじさんに果物をいっぱい貰ったの。よかったらみんなにも分けてあげる」
そう言ってアスロンは勝手にスルトのかごから果物をいくつか取って、三人に分け与える。
三人はアスロンが近づいてきてくれたことに喜んだのか、純粋に果物が嬉しかったのか、それを嬉しそうに受け取ると「わーい!」と騒ぎながらどこかへ走り去っていってしまった。
「おいこら。今私のかごから取ったよな?」
「気のせいじゃない?」
「何が気のせいじゃこら!」
「ぎゃぁーー! グリグリしないでーー!!」
スルトはアスロンのこめかみに拳を当て、グリグリと押し付ける。
彼女はそれをアスロンが謝るまで続け、ついでに取られた分の果物を折半した。
「にしてもあの子たちは気づかれてないと思ってるのかな?」
「まああの年の子はあんなものでしょ。テルちゃんもあんな感じだったでしょ?」
「今テルちゃんって呼ぶのやめて。私は……おぼえてないなぁ」
「ほんとにぃ?」
「そういうイグニ……あぁ流れでそう呼んじゃう! アスロンはどうなのよ?」
「ハハハ……私はあんな感じだったと思うよ」
「意外。ちょっと想像できないかも」
「心外。ちょっと傷ついちゃったかも」
そんなこんな話し合ってたらあっという間に日が沈んでいく。
夕日で空が夕焼け色に染まる中、二人はかごを持って別れ、それぞれの家に帰った。
*
一方アウストリは一向に戻らない暗部に心をざわつかせていた。
たかが二人の子供を攫ってくるのに、彼らは一日も掛けるはずがない。
つまり彼らの身に何かが起こったということだ。
お抱えの自慢の部隊が消えてしまったことにより、若干錯乱状態に陥った国王は騎士を招集し、テラの村へ直接出向くことにした。
後に彼はこの判断は大きな過ちであったと悔いることになった――。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
私の別作品と雰囲気が違いすぎて、私自身もなんか混乱しながら書いてました。
やっぱり平和っていいですね。
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拙い物書きですがこれからもよろしくお願いいたします。