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嘘の歴史にキレる魔王と勇者

 四方を大海に囲まれた巨大大陸エルセ。

 人類と魔物はこの巨大な土地をめぐって幾度も争い合い、戦争を起こしては相手の地を奪い合ってきた。

 積まれた死者の体は幾千万にも上る中、魔物達を統べる”魔王”イグニスの誕生によりその争いは魔物の勝利という形で終結を迎えた。

 それから約千年間、人類は魔物たち主体の生活を強いられ、魔王による圧政や魔物による隷属化など、様々な形でその存在を虐げられてきた。


 しかしある日、人類に一筋の希望の光が差し込む。

 テル―スという一人の人間の男がこの状況を打破するべく立ち上がり、その人間離れした力と圧倒的なカリスマで多くの人々に希望と勇気を与え、魔王の支配を打ち砕かんとした。

 テルス歴元年、魔物と人類の歴史上最大規模のエルセの大戦争により、テルースは見事に魔王を打倒し、その千年の魔物の歴史に幕を下ろした。

 後にテルースは”勇者”と呼ばれ人類の平和の象徴として語り継がれることとなった。


 ――というのが公に語られるエルセの虚構の歴史である。


     *


 テルス歴463年、かつての暴力にまみれた野蛮な文化は見る影もなく、人類は様々な文明を生み出し発展させていた。

 丸太や拳、投石などで戦う時代はとうの昔に終わりを告げ、剣や弓、魔法などが争いの道具となっていた。

 その文明の発展に乗り遅れた魔物たちはその数を大きく減らし、今や人目につかないところで細々と暮らしている。

 当然彼らを統べる王はとうの昔に討たれており、文明の荒波に飲まれた魔物たちはその歴史や傾向から絶滅の一途をたどるのみと思われていた。


     *


 エルセ大陸の最南端に位置する一つの小さな村。

 名前をテラというのだが、ここはかつて”勇者”テルースが生まれた村とされていたのだが、魔物たちがその数を減らしていったため、平和の象徴たるテルースの伝説も人々の記憶から消されつつあった。

 テラにはとある六歳の二人の少女がいた。

 彼女たちの名前はアスロンとスルト。

 いつでもどこでも元気な彼女たちは生まれた時も生まれた場所も同じ人間で、容姿はまるで違うが本物の双子の姉妹のように仲良く過ごしていた。


 彼女たちには誰にも言えない彼女たちだけの秘密がある。

 それは彼女たちはかつての”魔王”と”勇者”の転生体であるということ。

 アスロンが”魔王”の転生体、スルトが”勇者”の転生体なのである。

 記憶の全てを引き継いで生まれた彼女たちは、現代に伝わる大戦争の記憶を持つ唯一の人間であり、故に公に語られる歴史を虚構だと知っている数少ない人間でもある。


 「ねぇテルース……じゃなくてスルト。やっぱり納得いかないよ。なんなのこの歴史は?」

 「私も納得してないよ。私は男じゃなくて可憐な女の子でしたぁ! それを人間離れした男だって……」

 「フハハハハ! 正直それが一番面白い!」

 「面白がってる場合か! あなただって極悪人のくせに!」

 「ちがぁぁぁあああう! そんなことしてないもぉん!」


 彼女たちは村の北側にある森に入っては、時に木刀で打ち合ったり、時にお花を摘んで花冠を作って遊んだり、時に集まる動物たちと戯れたりと、転生した後の子供の生活を楽しみがてら、大人に見つからないところで、誤って伝えられた自分たちの歴史に愚痴を吐いていた。


 「でもほんとにどうしてこんな歴史が伝えられているんだろう?」

 「イグニス……じゃなくてアスロンの配下の仕業とか?」

 「主を辱める配下ってなによ。私の可愛い子たちを馬鹿にしてんの?」

 「冗談よ、冗談。魔王様の配下の皆さまはとてもおやさしゅうございました」

 「おちょくってんでしょ。喧嘩よ。木刀持ちなさい! コテンパンにしてやるんだから!」

 「いいでしょう! 今度こそ私の勝ち越しでわからせてやるわ!」


 そんなじゃれ合いはどこに行っても変わらず、それが彼女たちの昔からの付き合い方だった。

 彼女たちの仲は険悪なんてものではなく、むしろその真逆。

 それどころか夫婦を超えるような仲の良さを、昔から周囲に見せつけていた。

 その昔、周りからは彼女たち非公認の下、夫婦としての扱いを受けていたとかなんとか……。


 そんなこんなで可愛らしい姿に似合わない大人顔負けの打ち合いに勝負がつく。

 結果はギリギリでアスロンの勝利となり、地面に横たわるスルトは悔しさから手足をばたばたとして年相応の反応を見せる。

 勝ち誇った表情でアスロンは彼女を見下しながら一言煽りを入れる。


 「私の勝ちぃ~! いえぇぇい! ざぁこざぁこ! ほら! 私の可愛い子たちを馬鹿にしたこと謝れ!」

 「グギギギギギィィィ~……。くっそむかつく! ……はいはいわたくしがわるぅございましたぁ!」

 「ちゃんと謝れ!」


 アスロンは手に持っていた木刀をスルトの腹に突き立てる。

 スルトは「ぐえぇ……」という声を上げながら大袈裟にやられたふりをする。


 「ごめんって~。ゆるして」

 「ゆるした。ほら、手掴んで」


 アスロンが差し出した手をぎゅっと掴んでスルトは立ち上がろうと引っ張ると、アスロンがスッと手を離してもう片方の手でスルトの頭へ手刀を喰らわせる。

 それをもろに喰らったスルトは綺麗にうつ伏せに倒れる。


 「あだっ! 今のは無しでしょ! ゆるさん! 謝れ!」

 「ごめんって~。ゆるして」

 「ゆるした。起こして」


 スルトはゴロンと仰向けに転がると手を差し出してアスロンに起き上がらせてもらうように促す。

 その手をぎゅっと掴み、今度こそしっかりと立ち上がらせる。

 服に着いた土を互いに払ってやると、二人は微笑みあった。


 辺りが暗くなってくる頃、二人は村へと戻り、それぞれの家へと帰る。

 その道すがら、二人は一体の傷ついた魔物を見つける。

 アスロンはつい癖で子供の姿のままその魔物へと近づき介抱しようとする。

 しかしその魔物はその子供が魔王の転生体とは知らずに襲い掛かってしまう。

 本来であればその可愛らしい女の子から悲鳴が上がるところだが、アスロンはそんなことは無く背後から跳び出したスルトがアスロンと協力して魔物の背より高く跳びあがると、その頭に踵落としを喰らわせた。

 意表を突かれた魔物は驚きと痛みに苦しむ悲鳴を上げてそのまま気を失ってしまった。


 「ねぇ、やりすぎ……」

 「ごめんって、まだ息はあるから……。それに主に手を出すほうが悪いんじゃない?」

 「主は私なんだけど……。まあいいや。それでこの子どうしよう?」

 「どうするも何もあんたが主でしょう。自分で決めなさいよ」

 「いやそうなんだけど。この姿だとまた起きた時に襲われるだけじゃん? でも村に連れ帰るわけにもいかないし、私魔法とか使えないし……」

 「う~ん……じゃあなんか書置きかなんか残しておけば?」

 「それだ!」

 「……気づけよ」


 そうしてアスロンは魔物を木にもたれかけさせると、枯れ枝で地面に魔物にしか分からない字で「明日の昼、森の中にて待つ」という書置きを残した。

 アスロンはその魔物に事の経緯を聞こうと呼び出すためにそう書置きを残したのだが……。


 「いや怖くね? あんな文じゃ普通は来ないよ」


 という風にスルトに言われてしまった。

 しかしもうすっかり暗くなってきて時間も無くなってしまった。

 故にアスロンはそのスルトの独り言を気にしないことにして、魔物が来ることに賭けた。


 翌日、いつもの森で遊んでいると、その魔物は書置きの通りに森の中へとやってきた。

 その魔物は昨日の謎の二人の女児を見ると恐怖で逃げだしそうになったが、アスロンが「待て!」と呼びかけると、素直にその言葉に従い、身体をガタガタと震わせながらアスロンの次の一言を待った。

 二人はその魔物に近づくと、傷をおった経緯について聞き始めた。


 「どうしてそんな傷を負っているの? 誰かにやられたとか?」

 「アタマノキズハオマエタチニ、カラダハヘンナマントニヤラレタ」

 「変なマント? スルト、知ってる?」

 「知らない。でも王国の騎士とかではなさそうだよね」


 現代は魔物は見つけ次第、大陸中央の王国の騎士へと報告し、討伐してもらうのが基本となっている。

 騎士が纏っているのは鎧であり、その鎧にはマントはついていない。

 つまり、彼を傷つけたのは間違いなく騎士ではない。


 「どうするの? 魔王様?」

 「マオウサマ……?」

 「あっ……」

 「おい」


 スルトはいつものノリでついアスロンの事を魔王と呼んでしまった。

 それを聞いた魔物は食い気味にそのことについて聞いてくる。


 「コムスメ、マオウサマトハドウイウコトダ」

 「いやーそんなこといってないヨ?」

 「ウソヲツクナ!」

 「はぁ……もういいや。信じられないと思うけど、私はイグニス。んでこっちはテルース。名前くらいは知ってるよね?」

 「ハ……ハハ。ウソダロウ……?」


 魔物は開いた口が塞がらないと言った様子で二人をまじまじと観察する。

 さらに続けてアスロンの語る内容が魔王やその時代に生きた人間にしか分からない、本当の歴史だったため、魔物は全身で6の字をつくって体全体で驚きを表現する。

 その魔物もまた、かの時代の生き残りだったのだ。


 「オドロキマシタ。マオウサマ、オカエリナサイマセ」

 「あぁ堅苦しい、やめやめ。ごめんね、君の事覚えてなくって」

 「トンデモアリマセン。アノトキワタシハウマレタバカリデシタ」

 「なるほど、どうりで。んで、襲われた原因は見つかったってだけ?」

 「イエ、ソレモアルトオモイマスガ、オソラクハ――」


 その後魔物が語った内容に二人は激怒し、今までこらえていたものが大爆発した。

 そうして魔王、アスロンはこれを広めた者たちを見つけ出し復讐することを、スルトはそれに手を貸すことを申し出たのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。


新しい風合いのお話を書きたくなったので、こちらのお話の執筆を始めました。

こちらのお話も楽しんでいただけるように努めてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。


ブックマークのご登録、ご感想等いただけるとモチベーションにつながり、創作活動はかどりますので、ぜひぜひお願いいたします!!

また誤字や脱字等ございましたご報告のほどお願いいたします。


拙い物書きですがこれからもよろしくお願いいたします。

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