ハイテクな壺と俺
洞窟探検をする事が決まってから、1週間が過ぎた。
地球だと… 今頃は学校も冬休みに入ってるだろうなぁ。
そろそろクリスマスか、ゆく年くる年… ってところかな。
とにかく寒い。さむいったら寒い!
ちなみにリ・スィが作ったカルスは、新型作業ロボットの耐久テストを兼ねて絶賛植林中だ。あいつらなら苗木を植える穴は凍った地面でもワンパンでいける。
というか、冗談抜きで地面が凍ってるんだよね。
「ってことは気温は氷点下にまで下がってるって事か」
『ねえねえ宿主さん、リ・スィがそろそろ冬至だって言ってたよ♪』
って事は、クリスマスか。まあ、今はどうでも良いけどな……
ヴヴヴヴヴ……
かぱかぱ、ぎしぎし、ひひーん。
探検の準備が出来た俺は── どこで聞きつけたのかウサギ達が馬車で付いてきたんだよ。そいつらを率いて砦まで小旅行の最中ってわけだ。
俺か? 俺は専用の乗り物があるから馬車には乗ってない。
つか、リ・スィがさ……
『サクマユウマ。あなたまで馬車に乗る必要は無いのです』
『そうだよ、宿主さん。ニオイ移りしたら大変だもんね♪』
とか言ってさ…… 乗り物を用意してくれたんだ。
前にリ・スィが地下に埋まった宇宙船の掘り出し工事現場を見せてくれた事があったけどさ、その時に乗ったあれ… なんだが……
何を言い淀んでるんだって?
リ・スィが用意してくれた乗り物ってさ、あれは乗り物って言えるのか?
だって、あれはどう見ても壺なんだぜ、壺!
それも、俺がすっぽり入っちゃうくらいの、でっかい壺!
リ・スィが言うには、各種センサーあーんど重力制御装置が組み込まれている上に、けっこう頑丈だって言うんだ。それに操縦は基本的に思考制御だし、ある程度離れていてもリモコンで操縦出来るというハイテクな素焼きの壺だ。
あーっと、ちょっといいか?
ホントはこの壺には別の… 正式な名前があるんだけどさ、どう解釈しても素焼きの壺にしか見えないんだよ。だからもう、こいつ壺でいいや… ってね。
それは別としてこの思考制御ってやつ。操縦が難しくってな。
思い通りに動かすのってのがさ、すんごく大変なんだ。
思考制御システムが敏感過ぎる反応をしてくれてなぁ…
ちょっと気を抜いたらあっちにふらふら、こっちにぴゅーん! ってね。
「これなら歩いていった方がまだマシだったかも……」
『何を言っているのです、サクマユウマ。また襲撃を受けたらどうするのです?
この状況下での戦闘は容認できませんよ』
『それに宿主さん、近くに赤法師がいるかも知れないんだよぉ……』
赤法師って、巨木にめり込ませた奴だよね。あいつなら攻略法が確立してるから大丈夫じゃないか?
というより、気が散るから話しかけるのはちょっと待ってくれ。
リ・スィのセッティング、難易度高すぎなんだい!
『わかりました。戻ったら最適化する事に。今は砦に行くのが先決でしょう?』
「……それもそうだな。まあ、今日だけなら… 頑張ってみるか」
こいつを宇宙船が埋まっている地下空間で操縦する分には、これでも問題は無かったんだ。ところどころ照明はあったけど全体的に薄暗かったから、目移りするものは何も無いからな。
だけど地上だとそうもいかない。色々と目につくものがあるから…
…っと、また木にぶつかりそうになっちまった。
セッティングがピーキー過ぎるのも善し悪しだよ。。
ちょっと気を抜くと、思わぬ方向に吹っ飛んで行くなんてザラにあるこ……
「……って、あぶねぇ… 今度は地面に激突するところだったぜ……」
あのくたらさんみゃくさんぼー 煩悩たいさ…
ごす!
「皇さま? いま、すごい音したけど大丈夫?」
いてぇ…… あわてて高度を上げたら、太い樹の枝に頭ぶつけちまったよ。
でも泣かないもん! ボクは強いオトコノコだから泣かないもん。
それに、こいつら半分以上はオスだからなぁ…… 弱みは見せられないよ。
「うぐぐぐ…… だっ、大丈夫だお」
それからしばらくは街道沿いに進んだから、特に事故とか起こさずに砦に着く事が出来たよ。
ここから砦を見ている分には… 外壁とか門に壊れた様子はない。
それでも油断は出来ないな。作業ロボットには植林ついでに点検させよう。
特に隠し通路は、確実に見つけて潰しておかなくちゃな。
「ようし、探検を始めるか」
今回の遠征目的はつるつるな壁の洞窟を調べる事だけど、他にも地下室があるか調べておこうかね。使えそうなものが見つかったらは、根こそぎ回収だ。
「皇さま、すごーい。また見つかったよ」「じゃあ、探検するよー」
砦から逃げ出す時に見つけた武器庫と宝物庫なんかは別として、新しく見つかった地下室は6個あった。どれもが学校の教室くらいの小さなもので、食器とか壊れかけた家具なんかが置いてあったかな。
こうして見ると物置というか、納戸って感じの使い方をしていたみたいだな。
そして、最後に祭祀場の跡地まで来たんだが… 見事に爆発したもんだなぁ。
建物は半分崩れてるし、敷き詰められた石のタイルも熔けた所がある。おそらくここで古城のおっさんの手紙が燃えた… つか、テルミットの倍くらいはある熱エネルギーに変わっちまったんだろうね。
『太陽の表面並みの温度だったねぇ♪ BBAも可哀そうに……』
確かに、そんな超高温に晒されたら堪らんだろうなぁ…… んっ?
祭祀場の隅にきらっと光るものがあるぞ。なんだろうな……
宝石がいくつも付いて… 小さな奴でも小指の爪くらいはある。特にこの大きいアーモンド形をした2つは俺の親指くらいもあるじゃないか。
これってルビーか何かな?
そうそう。殿方は何があっても涙は見せないものです。
特にオスのウサギさんの前ではね。