何かが吹っ切れた俺
俺はリ・スィが分析してくれたマップを見ている。
どこのマップかって? 決まってるじゃないか。
あの砦があった場所の地形データーさ。対地観測衛星からの最新情報と、偵察ロボットを使って集めたデーターかけ合わせたものだ。
『どういう心境の変化ですか、サクマユウマ』
『ねえねえ宿主さん、無理をしなくても……』
再びおっさんに会えた事ってのはなんか… ね。
実は、あれからしばらく幽冥で、古城のおっさん達と一緒にいたんだけどさ。
あの不思議な空間に、まる1日くらいはいたかな… そこで気が付いたのは、今まで心の中に色々と溜め込んでたんだ… って事だよ。
たしかに今の俺はひとりじゃない。でも今でも独りぼっちなんだよ。
最初からの付き合いは、ホロンやリ・スィだが、こいつらは人工知性体だ。
色々と話し相手になってくれるけど、所詮は会話だけ…なんだよね。
触れ合えると言えばインゼクト達だけど… ぶっちゃけ昆虫なんだな。
白法師と赤法師に至っては論外だろ。正体不明のロボットみたいな奴だし。
で、最後にウサギ達なんだが。
こいつらは哺乳類って事で虫やロボットよりはマシだけど、動物なんだよね。
これで分っただろ。俺と同じような姿形をしている──人間はいないんだ。
だから俺に欠けてた事ってのはさ、人間との触れ合い… って奴かな。
あの幽冥ってところで、古城のおっさんと猫神っぽい幼女──ミニ猫神でいいよね──と話しているうちに、スッキリしたというか、もろもろ吹っ切れたよ。
そしたら、今度は急に色々とやる気が湧いてきたってワケだ。
『でも、なぜ急に… まあ良いでしょう。そのうちに教えてくださいね』
まあ、そのうち気が向いたらな。
たしかに、ホロンやリ・スィからすれば急な話だからね。
今だって俺もびっくりしてるもん。あの時におっさんとこから帰る時に言われたんだよ。玄関から帰れってね。
それでミニ猫神に案内してもらって玄関まで行ったんだ。
でさ、戸を開けた途端にだよ?
俺がデッキブラシで身体をガショガショされてるのに気が付いたのはさ。
そういや時間制限とか言っていたから、ゼルカ星とは時間の流れが違う世界にいたのかも知れないな。
『それでサクマユウマ。何か考え付いた事でも?』
俺は、ニヤリと笑った。もしも、みつきが見たら言うだろうな。
お兄ちゃん、悪い顔をしてるよ… ってな。
今までの俺は、かなり消極的だったと思うんだ。
スカリット──皇女サマに異世界召喚かまされて、奴隷としてこき使われる所だったんだ。勇者とか言っていたけど、体のいい鉄砲玉だもんね。
それを何とかしようとして、古城のおっさんが色々助けてくれたんだけどさ。
正直言って、色々あり過ぎだよ……
「たった1日… 体感的にはもうちょっと長いけど、高校生が体験するには荷が重すぎるっていうかなぁ」
『私としてはBBAを成敗したからオッケー♪』
そうは言うけど、俺はまだ高校生だぜ? それも、今年入学したばかりのな。
頭では分かってても、それですべてを飲み込めるような完成度じゃないっての。
古城のおっさんとは違うんだよ。
あの人とは親子どころか、爺孫くらいの年齢差があるんだぜ?
「という事で、あの砦を飲み込む事にしよう」
『どういう事ですか、サクマユウマ』
いやなに簡単な事だ。今でも植林は出来なくもないだろ。寒すぎて育たないだけで枯れる心配はないと思うんだよね。だから森の領域をあっちに伸ばすんだ。
平野部分は後回しでも構わない。外周部分を何とかしながら、地下工事に重点を置く事にするぞ。
砦は色々と使い道があるし、コスーニは宇宙船だ。いつまでも地面の底に埋まりっぱなしってのは可哀想だ。
だからコスーニが離陸出来るようなトンネルを作っておきたい。
実際にあの船体を見たけど、ありゃデカいんだ。でも、何とかなるかもな。
『前提条件はホロンが教えてくれた分子破壊光線砲を完成させる事ですが?』
そりゃそうだ。あれにしても位相光線砲にしても、科学小説にしか出てこない架空の兵器ってやつだからね。でもさ、俺からすればコスーニだってそうだよ。
完全自給自足型の宇宙船。それも自分で自分の複製までやってのける。
そんな生物っぽいメカなんか、まだ地球じゃ作れないぜ。
『ねえねえ宿主さん。それ地球にもあるけど?』
「あるのかよ!」
『いっぱいあるじゃない、恒星間移民船♪』
そう言えばそうか… とにかく話を元に戻すぞ。とりあえず輪郭だけでいいからさ、冬の間に植えられるだけ苗木を植えるぞ。
そいつらが春になって一気に成長始めたらこっちのもんだ。
それに、こいつは帝国に怪しまれる事なんか無いはずだ。
帝国から来た騎士から引き出した情報をまとめれば、そういう事になる。
最初の奴らも、後から来た奴らも同じ情報で動いている。そう言い切れるのも脳内情報を直接読み出せるリ・スィのお陰だよ。
催眠暗示で記憶をブロックしても、ブロックした情報ごと読み出せるからな。
それに苗木も小さめに作っておけば、目立つ事は無い。仮に街道を通る奴がいても気が付かないだろ。これなら作業ロボットの大量投入で片が付きそうだ。
『それは構いませんが、あなたはどうするのですか、サクマユウマ』
俺か? 決まってるだろ、砦の探検をするよ。
ウサギ達が見つけたって言う、あの壁がつるつるの洞窟、やっぱ気になる。
最初は君子危うきに… って思ってたんだけど、気が変わった。あの砦を手に入れるぞ。
だとしたら、あの洞窟を放ってはおけないだろ。あれは誰が作ったのかは知らないけど、古代遺跡ってヤツじゃないかと思うんだ。
だとしたら、宝物庫にあったオーパーツが眠ってるかも知れない。
その他にも色々なオタカラとかがさ。
『そういう事なら分かりました。服の改良を進めておきますね』
そうと決まったら、さっそく洞窟探検の準備を始めるか。
冒険家が命がけで挑む… なんて訳にはいかない。もしそんな事をしようもんなら人工知性体たちが煩いからな。
用意周到、動脈硬化ってな。
幸いな事に仕えそうな装備がいくつもあるからな。
うひひひひ、なんか燃えてきたぜぇ……
ゲームが何故か9800円一律で、フロッピーディスクに記録されていた時代。
コピー対策(海賊版?)にはメーカーもかなり知恵を絞ったとか。
FDDの制御プログラムにも手を入れたらしいというから、びっくりですね……