ウサギ達と不思議な洞窟
ウサギ美女だらけの風呂から出た俺は、居間でぐったりしている。
いや、風呂で事故が起きたわけじゃないからな?
決してそんな事はない! 断じて、断じて、断じてだ!
『手出しどころか、お風呂から出るに出られなくなったんだよねぇ♪』
えっ? ホロン、何のこと?
ぼくコドモだから分かんなぁ~い♪
『サクマユウマ。まだ状態異常から復旧していないのですか?』
久しぶりに視界にメッセージボックスが浮かぶと、おどろおどろしい書体で表示された文字列がががが……
……なんかリ・スィの機嫌が悪いような気がするんだけど、気のせいだよね。
お願いホロン。頼むから気のせいだって言って?
『気のせい』
わあぁあああ! ベタなギャグをかましてんじゃねぇ!
なんか怖い… つか、一発で湯冷めしちまったぜ。
『……それで、どうするのですか?』
うぶぶぶぶ… とにかく服着るからちょっと待っててくれ。
パンツ穿いて、シャツ着たらお出かけ服を被って… オッケ。これでどうだ。
『ねえねえ宿主さん、ニーソ忘れてるよ』
「お、おう……」
長い靴下は暖かいけど、けっこう面倒なんだよね。膝上20センチって長過ぎじゃないか… えっ? 冬のマストアイテム?
たしかにこれが無かったら寒くて外を歩けないから、穿くけどね……
つか、こいつが出来るんならズボンだって作れそうな気がするんだけどなぁ。
『その件については、ずいぶん討論を繰り返した筈ですが?』
『ねえねえ、もう諦めようよ、宿主さん♪』
ウサギ達に風呂で毛づくろいをしてもらって、髪型を整えてもらったんだが。
親愛の情ってやつなのかな。ずいぶん丁寧にやってもらった気がするんけど…
まあ、そいつはいいか。それよりもさっきウサギ達から聞いたアレが気になるんだよね。
それは、ウサギ達が俺の毛づくろいをしていた時の話なんだが……
「妙な洞窟が見つかった?」
「継ぎ目がない石で出来た洞窟なの」「あんなの見た事が無かったの」
そう言いながら俺の脇でぷかぷかと浮かんでいるのは、砦の廃墟から金属資源のサルベージをしていた奴らだ。灰の中に埋もれていた仏さんのために墓を建ててくれたそうだから、そのうちに手を合わせに行かなくちゃな。
それはそうと、あいつらの言う事が気になったんだ。
「継ぎ目がない石… だって?」
実際のところゼムル帝国の標準的な建築様式ってのはレンガを積んで、漆喰で仕上げている。そこそこ厚みのある漆喰の壁ってのは防音や断熱性に優れてるらしい。照明なんかはランタンか松明… つまり夜になればどこもかしこも薄暗いというわけだ。
だから白い漆喰で壁や天井をがっちり塗り潰すのは理にかなってるんだよね。
でも地下室は違うんだ。そこまで壁や天井なんかを丁寧に仕上げてるわけじゃない。宝物庫や食糧庫なんかで石壁のもあったけど、漆喰か何かで石の隙間を埋めていただけ… だったような気がする。
それなのに、ウサギ達が言うんだよ。
「石なのに、つるつるなの」「温室の窓みたいに、つるつるなの」
って事は… どういう事なんだろう。ガラスの表面なみに仕上げてあるって事は研磨加工したって事だろ。あいつらには、そんな技術は… あるか。
漆喰仕上げの建物の床は大理石の──真四角だったと思うんだが……
20センチか30センチくらいのタイルが敷き詰められてたよ。
「継ぎ目がみつからないの」「あんなに大きな岩をどうやって運んだの?」
困ったな…… 考えられる事はいくつかあるんだが……
たとえばコンクリートの塊を磨いたとかだ。
いや、違うか。あいつらも俺の作ったローマン・コンクリートがどんなものか知ってるから、そうならそうと言うはずだ。
じゃあ、ローマンコンクリートのような人造岩石じゃなくて、本物の岩石を使ってるって事なのかなぁ。それって決してあり得ない話じゃないんだぜ。
江戸に越後屋ってデパートがあるだろ。あそこの本館はさ、床や壁は大理石を磨いたものが使われてるって話だ。新館の方は人造大理石だけどな。
あれだけキレイに研磨してあればなら継ぎ目があっても目立たないだろうぜ。
『ねえねえ宿主さん?』
『サクマユウマ。その推論には大きな欠陥があるのに気が付いていますか?』
「んっ?」
『問題の地下室とエチゴヤは、どう関連付くのでしょう?』
むうぅう…… やっぱ気が付いたか。
なんとか煙に巻いて話題をそらそうと思ってたんだが。
これだから人工知性体ってのはさぁ…… あいつらも暇こいてるのは俺でも分かるよ。だから、これからの流れは、嫌でも想像がつくってもんだ。
ぶっちゃけ、あいつらが俺に何をさせたいのかって事もな!
残念だけどな、俺は忙しいんだ! AQLを言い出した俺も悪いんだが、やると言った以上は植えた木とかの生育検査をだなぁ……
『そんな単純作業は、作業ロボットに任せておけばよいのです』
って、おい…… なんでこいつらがうさぎ屋敷にいるんだよ!
それも6体? いったいどこから来たんだよ。それに何だよ、新型ってさ。
『あなたの服を改良した結果をフィードバックしたまでですが?』
このイソギンチャクもどき、何が違うん?
胴体は同じだけど、頭から生えてる触手の本数が違う? そういや、スッキリしてるな。ひのふの… 全部で10本くら…なんで俺の手足を掴むんだよ。
こいつらパワーが凄くないか? 全然振りほどけないじゃないか。
『さあ、早く帰って現地調査の準備を始めましょう』
何か…違う… って、やめろおぉおおお!
俺はお神輿じゃないんだあぁああ!
リ・スィは作業ロボットの改良に成功したようです。
胴体部分は従来のものと変わりませんが、佐久間君のお世話をする分にはあれだけ大量の触手は必要無いという事に気が付いたのです。