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人材不足に気が付いた俺

 ここのところ、散歩に出ては小屋… もう小屋っていう大きさじゃないけど何といったらいいかな。ウサギ小屋… う~ん、うさぎ屋敷?

 俺が最初は3LDKの平屋だったんだが、増築した部分が広いんだよ。


 たとえば鹵獲した馬車3台を入れとくガレージと、ニンジン栽培用の温室なんだが、これだけで建物は倍以上になったんだ。そこに堆肥を作るための部屋とかポンプや発電設備とかもあるからなぁ……

 気が付いたら体育館くらいのサイズになってるんだよ?


『ねえねえ宿主さん。貴族の屋敷だもん、これでも小さい方じゃないかなぁ』


 大きさだけなら、たしかにそうかもな。

 でも誰が管理するんだ? このままだとゴーストハウスじゃん。

 いくら俺でも、これだけの建物をひとりで管理なんかできないぜ?

 作業ロボットでも無理がある… つか誰か来たらさ、マジで拙いだろ。


『サクマユウマ。管理要員なら心配しなくても良いですよ』

「お、おい、リ・スィ……」


 リ・スィの言葉に、俺は言葉を失ってしまった。

 何か嫌な汗が出てきて、頬を流れ落ちる。


 だってさぁ、自身を完全無欠な存在と豪語するコンピューター… っと、人工知性体か。あいつがこういう物言いをする時は、なにかろくでもない事を考えているに違いないんだ。

 結果的には丸く収まるんだけど、そこまでの道のりって奴がさ……


「なあ、リ・スィ。まさかウサギ達を使うとか言わないよね?

 ゼルカ星人にとっちゃ獣人は未知の生物だぞ。さすがに長い耳は誤魔化しようがないと思うんだが、その辺りはどうするんだよ」

『人間が必要なら、雇えば宜しいのでは?』


 ったくもう! やっぱりかよ。

 このあたりに住んでる人類って言ったら、帝国しかないだろ。それも対地観測衛星の観測範囲外って事は、相当距離があるよね。

 これを無茶振りと言わずして、何が……


『待って、宿主さん。それは何とかなるかも』

「っく、ホロン。お前もか!」


 なんか頭が痛くなってきたような気がする。ついでに、みぞおちのちょい下あたりもだ。いや、腹の痛みだけは間違いなく本物だ。ホロンの話を聞いた途端に、ギリッ… って引き攣るような感覚があったし、今も腹筋を使って強引に抑え込んでいるんだからな。


 それに人工知性体同士(おまえたち)の間では、何度も何度もシミュレートした結果なんだろうけど、人間てのは数字じゃないんだ。

 こればっかりは7天魔王の野望(ゲーム)のような訳にはいかないぞ。

 常に理性と感情がにらみ合いをしてるんだぜ。


『その推論には致命的な誤りがありますよ、サクマユウマ。そもそも前提条件が間違っているのです』

『ねえねえ宿主さん、来月の中ごろには対地観測衛星の修理が終わるから。そしたら、全部わかるから♪』


 対地観測衛星の修理… だと?


『実はね、宿主さん。調べてみたら装置の大半は今でも動いているんだよねぇ。

 実際、あの衛星はほとんど壊れてないみたいだよぉ♪』


 約200年前に滅びたゼルカ星人の『先史文明』は地球をはるかに超える高い文明を持っていた。対地観測衛星ひとつ見ても、彼らの技術レベルを垣間見る事が出来る。


 なによりも地球だと30年以上も稼働している人工衛星なんか無いよ。例外はオールトの雲を越えて深宇宙に出た2機の探査衛星だけだもんなぁ……

 でも200年間も放置されてたんだろ。

 スペースデブリの衝突とか部品の劣化とか…… まあ、それはいいや。


 とにかく来月には対地観測衛星がまともに動くようになるんだな。

 だとすると、かなり助かる。帝国の奴らが森に近付く前に何とか出来るはず。

 はっきり言って帝国が本気で森に攻撃を仕掛けたら、負けるのは俺たちだ。

 戦いってのは、数なんだよ。

 大軍に包囲されての籠城戦ってのはさ、勝つのは大変なんだぜ。


『地下に埋まっている宇宙船(わたし)が離陸出来れば、何とかなりますよ。

 それに本拠地が消滅すれば、その時点で戦争は終わりでしょう?』


 ゼムル帝国の首都を? そんなことが本当に出来るのかねぇ。

 だって俺は、宇宙船がどのくらい大きいのかとか、そんな武器を積んでいるかなんて全然知らないんだぜ。


『まだ推論の域を出てないから、この話はここまでにしましょ♪』

『そうですね。サクマユウマ、今日も散歩に行くのでしょう。さきほど服の改修が終わりましたから、性能試験をお願いしますね』


 ……なんか引っかかるなぁ。


 人を雇えって言われても、このあたりにいるのは帝国だろ。いくら人が足りないとはいえ誘拐してまでも… ってわけにもいかないぜ。

 それしちゃったら皇女サマと同じじゃないか。

 まあ、いくらあいつらでも、そこまでは考えないよなぁ。


「まあいいか、今日もうさぎ屋敷に行ってくるか……」


 エレベーターで地上まで出た俺は、何の気なしに平野に足を向けていた。

 あたりは冬の世界が広がっている。時間は… 夜明けから2時間くらいは過ぎているから… 今はだいたい8時半だな。


 こっちに来ていなかったら、今ごろ地球では何をしてるかな。

 学校では今ごろホームルームか、1限が始まる頃合いだ。

 そういや去年の今ごろは必死になって受験勉強していたなぁ……


 ふと気が付くと、俺はまばらに木の生えている平原を、ざくざくと霜柱を踏みながら、あてもなく歩いていたようだ。

 後ろを振り向くと、霜で凍り付いた地面に足跡だけが残っている。

 それを見ながら俺は大きく深呼吸をすると……


「ぷふぅ…… やっぱ冬だなぁ」


 吐く息が、白い。


 それでも不思議と寒さを感じないのは、お出かけ服をリ・スィが改良してくれたお陰だな……


 でもさぁ、不平不満を垂れ流すつもりは無いんだが、リ・スィもスカートに拘らなくてもいいと思うんだよね。誰がリ・スィに吹き込んだのか知らないけど、俺としてはさ、やっぱりズボンの方がなぁ。

 やっぱりさ、こう……


『サクマユウマ、服の調子はどうですか』

「うぉっ?」


 いきなりリ・スィが話しかけてきた。

 うううっぷぷ… 心臓止まるかと思ったぜ……

有って無きが如しの秋は冬将軍に蹴散らされてしまったようです。

今年も毛布で作った部屋着が活躍する季節がやって来ました。

ふっ、私だってこのくらいは作れるんだい。

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