表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/165

誰かに呼ばれてる俺

 俺は焚き火の前でゆっくりと立ち上がると、大きく深呼吸をした。

 それと同時に、神経を研ぎ澄ます。

 ざわり… と、木の枝が風に煽られる音が聞こえてきた。

 森の奥からはセミが鳴いているのが聞こえてくる。


 それに構わず、さらに神経を研ぎ澄ます。

 みぞおちのあたりで練った気を、球状に… 膨らませる。

 どこまでも薄く、広く、そして遠くまで。

 これは親父から教わった武術のひとつ、霊光だ。


 武術が伝わってるからと言って、流派を開いてるわけじゃない。

 佐久間流… とか看板を出すのは簡単だけど、うちのは武術と言っても古武道になるんだな。戦国時代に発達した実用的なものだ。

 この場合の実用… って言えば、そいつがどういうモノか分かるだろ?


 ついでに言っておくと、親父が時々、陸軍に教えに言ってると言えば……

 そう、つまりはマーシャルアーツ並みにヤバいものだって事だ。

 だけどな、うちに伝わってるのはヤバいモノだけじゃない。

 そっちの方は少ない… と思う。霊光もそういうモノのひとつだ。


 ひとくちに古武道と言っても、それは戦うための技術ってだけじゃない。

 戦わないこと、戦いを避けることも戦いのうち… だそうだ。

 霊光はそういう系統のひとつで… 練り上げた気を球状に広げて、その範囲に何がいるのか、どんな物があるのかを探るための… 探知系の技だ。


 こいつは探知系としては基本的なもので、応用範囲も広いんだよね。

 その気になればスクラッチなんか当て放題… てな事も出来るから小遣い稼ぎにはピッタリ… いやいや、絶対にやらんからな?

 バレたら爺ちゃんから何をされるか分かったもんじゃない。


 もういいだろ、この話題はな、これ以上はちょっと……

 くどいぞ。また関節外したろか? 今度は治してやらんけど?

 そうか。うん。物分かりが良いって言う事は美徳だよな。

 その調子で行ってみようか。


 ええと、どこまで話したんだったか。

 ああ、そうだそうだ。あの声の話だったよな。

 ほんと、あれは不思議な経験だったと言うか、ヤバい経験だったというか。


 今から考えてみると、だな。あの時点でキャンプ場から逃げ出してりゃ、その後の展開も変わったかも知れん。

 でもな、あの時はそうは思わなかったんだ。


 謎を謎のまま、ってのが気に食わなかったし、ドッキリを仕掛けられてる可能性だって無くはないからな。何年か前にそういう番組が流行ったんだよ。

 お前も見てたろ? そう、あまりにも悪質なドッキリを仕掛けたせいで、山ほど訴訟が起きたり逮捕者続出とかで大炎上した、あの番組だよ。


 だから俺に残ってた、ささやかなプライドを引っ張り出したんだ。

 好奇心… てのも間違いなくあったけどな。


 あの時に聞こえた声は、鉱石ラジオ──電池を使わない大昔のラジオ──の音とそんなに変わらなかったような気がするんだ。

 どう言う事かというと、聞こえてきたのは、とても小さな声だったんだ。


 だとすると、100メートル以内のどこか… って事になるだろうなあ。

 探知範囲にあるのは森の樹々と鳥の巣… かなりあるな。

 オニスズメか山鳩でもいるんだろう。あとは… タヌキの親子連れか。

 向こうには何かあるかな……


「……誰もいない?」


 確かに誰かに名前を呼ばれたような気がしたんだよ。

 声としか思えないんだが、実際には耳で聴くというよりも頭の中に直接聞こえてくるというか… そんな感じだったかな。

 途切れ途切れだったけど、かなり切実な口調だったんだ。


 だけど霊光の探知範囲内には、言葉を操るような生物はいない。

 人間どころか妖怪さえもいない。果ては九官鳥やオウムの類に至るまで、だ。

 だからと言って、気のせいで片付けるのは違うような気がする。

 なんかこう、漠然とした予感って感じなんだ… け… どぉおぉおお?


『……ユーマ ……こっちにきて……』


 っく、またか。

 今度こそ間違いなく聞こえる。こいつは気のせいなんかじゃあ、無い!


 そして、だな。声の感じからは、決して悪い感じはしない。

 でもな、ここにいるのは俺ひとりだ。声が届く範囲になんか誰もいない筈だ。

 だから初めは妖怪か何かの悪戯かと思ってたんだが、どうやらそうでもない。

 この辺りには姿も見せず、ただ呼びかけるだけという妖怪はいない筈なんだ。


 そして、親父直伝の探知技──霊光には絶対の自信があるんだ。

 

 だとすると、あの声の主は誰なんだろう?

 やっぱ妖怪かな…… このあたりでもオバリョが出てもおかしくないし。

 あいつが出たらとにかく我慢比べ… だったか。


 言い伝えなんかだと、オバリョってのはおんぶお化けみたいなもんだが、我慢比べに負ければ酷い目にあうらしいんだとか。勝てばなんか貰えるらしい。

 風土記か何かだと、小判が背中に張り付いてたって話もあったかな。

 でも、なんだかなぁ…… それとは違うような気もする。


 確かに名前を呼ばれたような気もするんだ。

 でも、ここは俺の他には誰もいないはず。念のためにポケットからスマホを出してみたが、ナビゲーションキャラは電話もメールも入って無いという。

 あ、そうか。圏外だから入るはずもないか。


 キャンプ場の管理小屋あたりまで行けば、電波を拾えるんだが。

 たった500メートル先なんだが、管理人さんは家に帰ってるから行っても誰もいないし、あたりもだいぶ暗くなってきた。

 まいったね、こんな事なら懐中電灯も買っときゃよかった。


 まあいいか。無いものはないんだ。

 とにかくスマホの誤作動とかそんなのじゃない事は分かった。

 野生動物除けの結界石もちゃんと光ってるから、そっちの線もないな。

 じゃあ、あれは… だとするとあの声は…


 まさかガチで怪奇現象とかじゃない… よね?

いったい誰が佐久間君を呼んでいる事やら……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ