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人工知性体と未知の生命体

 医療セクションに収容した2つの個体。

 この個体が高等知性体だとすれば、この極端に乾燥した環境で進化した種という事になるのでしょう。


 身体の構造を調べてみると、元々はチューブ状の生物から進化したようです。

 このあたりは我々と似たようなもののようですが、どの時点からか私たちとは別の進化を遂げたようです。


 棒状の身体からは5つの突起が伸びています。

 そのうち先端から生えている2本の突起は移動に特化したもの、両端から生えているものは作業肢──おそらく触腕にあたるもの──なのでしょう。

 残る小さな突起の先端部分からは、無数の繊毛が生えています。


 ナパーア星にも、同じような生物種の存在が確認されています。その中には生きた化石と呼ばれるような種もあるのです。それらに共通しいるのは、作業肢や触腕の付け根に繊毛が生えていること。


 部分的に繊毛が生えているのは、重要な器官を守るために進化・発達したものと言うのが生物学の定説です。

 脳の位置が分かれば、あとはコミニュケーション装置の出番です。

 これは精神感応… テレパシーを再現した装置なのですから……


『……まさか脳内情報を読み取る事が出来るとは……』


 脳という器官はいくつかの機能ブロックから構成されています。その大きさから発達レベルも推定できるのです。もしもナパーア星の生物学を当てはめる事が出来るのであれば、高度な進化を遂げた種である事を証明しています。


 そして、その構造も──概念的にという意味で──人類とよく似ています。


 個体から採取した遺伝子情報の解読と同時に、脳内情報の分析も進めているのですが、かなり難航しています。人類とは全く違った種ですから当然と言えば当然なのですが……


『私がもしも人間だったならば、決して手を付けない分野でしょうね……』


 この乾燥しきった世界に適応して進化した種だという事は分かっています。

 頭では理解できたとしても、感情が付いていかないでしょう。なぜならば人類の基準からすれば、この生物種の姿は醜悪の一言に尽きるのです。

 人類の想像力から生み出される事すら出来ない──モンスターなのですから。


 それでも私は──少なくとも、この惑星から脱出するまでの間は──彼らと付き合っていかなくてはならないのです。

 ですから、何とか折り合いをつけて歩み寄る努力をするしかありません。

 私が克服出来たのですから、彼らにも努力してもらわなくては……


「だーかーら! 違うって言っているでしょう。これだから土の精霊は……」


 ……はっきり言って、私は彼らの適応能力を過小評価していたようです。

 私もそれなりに小細工をしていますが… 脳内情報の書き換えは事実上不可能なので、やったのはペットの躾… のようなものでしたが。

 結果から言うと、この個体は私を日常の一部に取り込んでしまったのです。


 そして……


「本くらい読めるでしょ。ちょっとは学習なさい!」


 どうやら、コスーニを居心地の良い巣と認識したようですね。スカ・リトという個体は居住区の環境変更を要求してきたのです。

 そのための資料やサンプルを携えて。


 そしてキシュ・カという幼生体を常に同伴させています。

 番いの相手… にしてはその肉体は未発達過ぎます。もしかするとスカ・リトが産んだ卵から生まれた子供かもしれません。それならば、いつも世話をしているのも理解できるというものです。


 そのための巣床と言いますか、そういうものを作ってみたのですが……

 もちろんスカ・リトから読み取った脳内情報がベースです。


「私のような高貴な人物が使うのですから、もっと上等なものを用意なさい。

 最低でもこの程度のものは用意すべきなの!

 ほら、新しい本も持って来たわよ。それから私が普段来ている服!」


 なんだかんだ言いながら、スカ・リトは数日おきにやって来ては、色々な情報をもたらしてくれます。本来なら魔力量が少なすぎて乗船資格すら与えられない筈の彼女に乗船の許可を出したのは、そのような背景があるからです。


 それから、服という外装品はゼルカ星のスカ・リトの種族が身に着ける標準的な装備品です。これだけ過酷な環境で生きのびるためには、このような防護服が必要なのでしょうね……


 彼女との交流は、半年ほど続いたでしょうか。


 おかげで色々な事が分かってきました。

 この惑星の名前がゼルカという事。覇権を握る種族が彼らである事。

 そして彼女がゼムル呼ばれている集団に属しており、指導者層の上位に位置しているという事も……


 それにしてもゼムル語は合理性を欠く不完全な言語ですね。

 たとえば同じ発音をしながら違った意味を持つ同音異義語、そして同義語。

 これらはナパーア語に無いとは言いませんが、すべて古語に当たるので使う人はほとんどいない筈です。


「しばらくは来れないから。次に来る時まで、これでも読んでてね」


 最初にスカ・リトとコンタクトを取ってから半年ほどが過ぎたある日。

 辞典と呼ばれる本や、衣類のサンプル──彼女の衣類の一部は工場区画で試作したもの──の代わりとして受け取る事になったものです。

 それから数日が過ぎて。


 地表に展開した偵察ロボットは、かつて無かったような強力な魔力反応を検出しました。それと同時に重力変動が始まり、時空間の歪曲事が観測されて……


『人類の常識では考えられない膨大な魔力を持つ何者かが出現したのです』


 それはナパーア星人100名分にも匹敵する魔力を持つ個体です。

 最初は計測器の故障を疑ったものですが、それらを何度も点検して問題が無いことを確認したにもかかわらず、観測結果は変わりません。

 巨大な魔力を持つ何者かがゼルカ星に出現したのです。


 しばらくすると… その魔力塊は移動を始めました。

 その正体が何であれ、コスーニが破壊される事だけは避けなくてはなりません。

 そのための防御態勢を──地上に配置を始めた戦闘用ロボットに起動命令を出す事にしました。


『ねえねえリ・スィ。それって、あの白いやつ?』

『いいえホロン。あれは私が配置した戦闘用ロボットではありませんよ。

 いかなる理由があって、あんな美的感覚のカケラも無いような怪物をデザインしなくてはならないのです?』


 それも、比較的短時間で無力化されてしまいましたけれど、ね。

 あの巨大な魔力の持ち主こそ、あなたの言う宿主。

 彼こそは、この探査艇コスーニの中心人物に相応しい。


 ホロン、あなたもそうは思いませんか?

リ・スィの視点から見たお話です。

ナパーア星人の思考をトレースしてみたんですが… むむむむ… でしたかね。

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