畑仕事をするウサギと俺
番外編(用語解説的な何か)を18時に投稿します。
本編とは直接関係がありませんが、ネタバレはあるかも。
廃墟にあった廃材は、あれから毎日のようにウサギが取りに行っている。
俺か? 俺は春に向けて苗木を植え付けているんだ。
廃墟からだけなら俺が出るまでもないだろ。
あいつらも弁当の入った袋を背負って、嬉々として出掛けてるしな。
ああ、弁当が入ってる大きな袋の中身は…… 聞かないでおいた方が良いと思うんだ。袋の口から飛び出してるつやつやした黒いのとかを見たら聞くまでもないからなぁ。さすがに森の生態系の頂点に君臨する、でっかいウサギさんだよ。
あとは、だいだい色の大根ぽい何か。
こいつのお陰で俺は、あいつらから神の如くに崇められてたりするんだな。
何があったんだって?
実はな、何日か前に遡るんだが……
あの大根ぽいのはリ・スィが遺伝子をいじったニンジンだよ。
まさか、魔の森にニンジンが無かったとはなぁ。
より正確に言えばセリの仲間じたいが存在してなかったらしいんだな。
そんな事とは知らずに、騎士が持って来た荷物の中に残っていたニンジンを食べさせてみたら……
『これこそ… まさに神の食物! さすが皇さまですぅ』
……とかなんとか言われちゃってなぁ。
やっぱリ・スィにカルスを作ってもらったのは正解だな。
ああ、ここで言うのは肥料とかじゃなくて、組織培養で作り上げたニンジンの苗の事だ。ニンジンのクローン栽培って言えば分かりやすいかな。
だがカルスってのは突然変異を起こしやすいんだけどなぁ。
『それこそ当然の帰結ですよ、サクマユウマ。私は文字通り完全無欠で間違いを起こさない存在なのですからね』
リ・スィが言うように、あいつの管理能力は完璧だった。念のためチェックさせたら完全に大丈夫だったって言うから、技術が生んだ奇蹟だよね。
もっともこれだけじゃ食べられねぇかんなぁ、こいつを畑に…
うんにゃ。さすがに雪が降るような気候じゃ育たねぇべや。
どーうすっぺかなぁ……うん、やっぱ温室が要だっぺなぁ。
『温室なら組み立てが終わっていますよ、サクマユウマ』
えええ? 温室ってさ、作るの面倒だよ。全面ガラス張りとかしなくても良いけどそれに近い事をしなくちゃならないだろ?
そんなに大量のガラスなんか…… って思うだろ。あるんだな、これが。
川岸の砂を調べてみたら半分以上は石英だったんだよ。
このゼルカ星が地球と同じような惑星だとすれば、ガラスの原料なんかありふれた鉱物だろう。地球でガラスを作る時に使うのは珪砂ってやつだが、公園の砂場や浜辺の砂がそうだからな。こいつを熔かせばガラスになる。他にも色々と混ぜるものはあるけど、砂を溶けやすくしたり耐久性を上げるためのものだ。
でも、いつの間に集めたんだ?
『荷車の野菜を見たあなたの反応から推測したまでです。建材は小屋の部材の予備を使えば良いだけです。何か問題でも?』
……いや、ない。いつもながら完璧な判断だよ。
じゃあ、あとは温室を組み立てて…… どうしたウサギ。
なんか今日はたくさん来たじゃないか。
『皇さま、建物作ろ終わったよ?』
「えっ!?」
この食いしんぼウサギ共はぁ!
もう温室を組み立てたちまったのかよ……
「は… はははは…… なんてこった!」
温室は完璧に組み立て終わってたよ。屋根はガラスの板ががっちり取り付けられてるし、それを支えるのは格子状に組まれた例の硬い木材だ。
壁も似たようなもんだ。ご丁寧な事にガラス窓用の雨戸まで作ったのか。
この大きさだと、何がメインなのか分からくなってきたぞ…… この建物。
たしか帝国からやってきた連中を騙すための小屋だった筈だよね。
あいつらが入ってきても良いように、土間まで作ってさ。台所の流し台とか、かまどを作るのだってだって、けっこう頑張ったんだよ。
荷車入れとく物置の隅にアーマイザが巣穴を作るし、ウサギは温室作って畑まで作ってるし。
温室だけで小屋の大きさが倍になっちまった。
裏の物置だってマイクロバス並みの大きさの荷馬車が3台入ってるのにな。
それだって温室並みのサイズときてるんだ。
ヤポネスでこのサイズだったら大豪邸って言われちゃうサイズよ?
で、出来上がった温室の中ではウサギが鍬を使って、中の地面を耕してやがる。荷車で持って来たのは…… ありゃ腐葉土か?
いやはや、手際が良いね。あっという間に畑が出来上がっちまったよ……
『ボクたちだって、畑を作るよ。暑い時は、川で冷やしたきうりを食べるの。
おやつに持って来たけど、皇さまも食べる?』
……これが… きうり?
あいつらが持って来た食糧袋から出てきた『きうり』って…
まんまキュウリだったんだけど、サイズはデカい。
どう見ても俺のひじから先ぐらいの長さがあるじゃねぇかよ。
いくら何でも育ち過ぎじゃねぇの?
ガリッ…
うん、キュウリだ。
水分多めで、ちょっと青臭くて。それでいて、ちょっぴり甘い。
しゃぐしゃぐとした食感は、それだけで心地よいものがあるなぁ。
うむ。これは… 良いものだ。
あいつらから少し分けてもらって、油で炒めてみるかな。
いやいや、ここは塩漬けにするのも捨てがたい……
ううむ、どうすっぺかねー
今年の夏も作りました。お化けキュウリさん。
ウソです。あまりにも外が暑かったので、収穫がががが……
でも、美味しかったんだからいいんだい!