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森の外に出掛ける俺

 ぽくぽく、ぱかぱか…… ぎしぎし…… ひひーん。


 なんか急に涼しくなってきたある日のこと。

 小屋の組み立てはリ・スィとウサギ達に任せて、俺は荷車に乗って砦までのピクニックを楽しむ事にしたんだ。

 いやぁ、こうして落ち着いて景色を眺めると、森の外ってのも悪くはないね。


 人の手が入った物が全く見えない世界って、なんかこうホッとするというか開放感があるって言うか。ワクワクしちゃうのは、見慣れない風景に浮かれてるからかもしれない。

 何も無いって事は、逆に不安もあるけどね。


「ヤポネスの場合は仕方がない事だと思うけどねぇ」


 ホロンの言う通りなんだよなぁ。ヤポネスは島国だ。平地が少ない上に人口が多いから、こういう場所ってあんまり無いんだよね。昔は山を切り拓いて住宅地を広げ過ぎて住人がクマに襲われたとか、イノブタや猿に畑を荒らされたって話があったくらいだからな。


 そのくらいに、どこかに必ず何か『人工的なもの』があるものなんだ。


 それは田んぼや畑だったり、線路や道路の事もある。

 あとは飛行機とかだよね。たまに宇宙ステーション行きとかも飛んでるし。

 自然がいっぱいの景勝地と言っても、遠くの方に建物が見えたりしてね。

 だから人工物が何も無いってのは開放感が半分、不安が半分って訳だ。


『大丈夫ですよ、皇さま。ボクたちが付いていますから』


 そういや、こいつら時々耳をひょこひょこさせてる。あれでヤバそうな奴がたてる音を拾ってるのか。それこそウサギっぽいな。そのうちにニンジンでも植えてみようかな。たしかニンジンは騎士が運んできたの食糧にもあったはずだ。

 リ・スィに頼んでカルスを作ってもらえば…


『それなら問題はありませんよ、サクマユウマ。最初のロットは収穫済みです』


 ……さよか。なら、どこかに温室でも作ろうか。

 そうすれば冬でも新鮮な野菜が食べられるってもんだ。

 ま、そいつは帰ってから検討するかね……


 ちなみにこの荷車の御者をしているのは、例のでっかいウサギだ。

 ウサギと言っても、それは見た目だけで中身は人間と大きく違う訳じゃない。

 インゼクトが昆虫人類なら、こいつらは獣人ってところかな。

 どっちかって言うと、動物寄りではあるんだけどね。


 そして、この辺りに人がいないのはリ・スィに確認させたから問題ない。事前に偵察メカを出してルートとかは確認させてるし、大半のルートは森の中だ。

 公式にはいない筈の俺たちの姿を人に見られる訳にはいかないんからな。

 姿を見られる危険があるのは、森と砦の間の2キロくらいかな。


 この区間は草がまばらに生えている荒れ地には、隠れる所はほとんど無い。

 砦に入ればどうにでもなるけれど、そこまでの10分間がな。


 なんでそうまでして、砦の焼け跡まで行くんだって?

 焼け残ったモノを漁りにな。小屋の柱は組み立て終わったし壁も付けたから、ちょっと余裕が出来てきたしな。そしてアーマイザが荷車を仕舞っておいた物置の隅で何か始めたからなんだよね。


 あいつらヤバそうな雰囲気だったから、出掛ける事にしたんだけどね……

 だって今までのと違ってさ、いかにも俺たちゃガテン系! って感じのゴツいのが集まってるし。

 それも、ぞろぞろと列をなしてるんだよおぉおおおお……


 これって、なんか怖くね?


 ……というわけで砦に行って、使えそうなものを拾って来ようと思ったんだ。

 付き合ってくれたのは2匹のウサギなんだ。それもただのウサギじゃない。

 そいつらは上直立2足歩行生物というファンタジーなイキモノなんだ。

 そして手の大きさは、あいつらの方がデカいし。


 耳の先っぽまで入れれば、俺と大して… いや、背の高い奴もいるには……

 でも、背の高さで全てが決まるわけじゃないからな、うん……


 ……ぐっすし。


『皇さま、どうしたの? おなかが痛いの?』


 ああ、すまん。ちょっと自己嫌悪に陥っただけだ。

 それよか、早いとこ砦の跡地に行きたいね。正規部隊が来て、建物は全部焼き払ったかもしれないけど、全部焼けてしまった訳じゃないと思うんだ。

 あの砦には武器庫や宝物庫の他にも、いくつか地下倉庫がある。


 逃げ出す時には全部に火をつけて回った訳じゃないから、オタカラが残ってるかも知れないなあ。それよか、武器とか鎧を探すのが先かな。


「最低でも、金属資源(スクラップ)になってても回収したいな」

『せっかく和風の部分もあるんだから、全部引き戸で良いと思うけどねぇ』


 たしかにホロンの言うとおり、和風の部分はあるよ? だけど、帝国から来た奴らを騙すための物でもあるんだぞ。だから外装は漆喰とかで仕上げる必要があるんだ。そして引き戸はダメだ。どうしてもドアが要る。

 そうすると蝶番(ちょうつがい)とか、どうしても金属製の部品がいる。


 とにかく今の俺たちは、金属材料を手に入れなくちゃならないんだ。だとしたら砦の廃墟を漁るしかないだろ。その他の建材にしてもだ。あの小屋は皇女サマの秘密研究所って設定なんだから、そこそこ豪華に見えるようにしとかないと。


 そういう意味でも見た目は重要なんだよね。

 でも中身は地球の省エネ住宅っぽいものにしてある。壁を2重にして隙間に断熱材を仕込むのはデフォだよね。さすがにウレタンフォームは無理だけど、岩とかガラスを熔かして作るロックウールとかグラスウールなら簡単に作れるぞ。


 このウール系の断熱材の正体は鉱物質の綿だ。こいつを作る原理は簡単だ。

 細かい穴の開いた筒を回転させて、その中に熔けた材料を流し込めばいいだけなんだから。でも、この筒を作るためには、どうしても鉄が必要だ。

 で、ウサギをお供に廃墟になった砦までやってきたってわけ。


 ここ数日の気温はヤポネスなら、冬至を過ぎたくらいにまで下がってる。

 当然、インゼクトは冬眠を始めるから、お供はウサギ一択になるんだよね。

 例外は冬でもアーマイザ(あり)とかカカラーカ(ごきぶり)だけど、それは巣が地下にあってそれなりに温度が保たれてるからだ。

 この辺は地球とあんまり変わらないような気がするね。


 それにウサギはもふもふだもんなぁ。でも、下手に抱きつこうものなら拙い事になるのは間違いない。ノミとかシラミがいたら最悪じゃないか。

 噛まれた所は無比軟膏を塗っても痒いのが治まらない時があるし、腫れるし、跡も残るからなぁ……


『皇さま、それは酷いですぅ。ウサギはきれい好きなんですよぅ』


 たしかにこいつらって、いつも毛並みが整ってるし、つやつやしてるけど。


 なんだとぉ? 毎日のブラッシングは欠かさないって?

 だから… なのか。暇だから俺にもブラッシング… してから言うな。

 そりゃあ、気持ちいい……


 …………ぐぅ。

ウサギさん再登場!

彼らは森の食物連鎖の頂点をインゼクトと競い合う生物なのです。

その筈なのですが……

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