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キャンプ場に着いた俺

 通りかかった夫婦の乗った軽トラに便乗させてもらった俺は、なんとか無事にキャンプ場にたどり着くことが出来たんだ。


「こんにちわー、予約をお願いしていた佐久間ですが」

「いらっしゃい。遠うからよう来たね」


 管理小屋にいたのは、人のよさそうな爺さんだった。

 なんでも、ここは爺さんの土地だそうだ。20年くらい前に役所から町おこし資金をもらって、キャンプ場にしたと言ってるが… 儲かってるのかな?

 まあ、半分趣味みたいなもんだって話だから、それもアリか。


「山火事だけは起こさねえように。くれぐれも火の始末は忘れねでくんなせ」


 爺さんから受け取った書類に住所氏名を書き込んで、注意事項を聞いたら手続きはお終いだ。今日の客は俺だけなんで、爺さんは家に帰るんだってさ。

 そういや、もうすぐ帰省ラッシュが始まるもんなぁ。


 それにしても驚いたね。キャンプ場は、いかにも村営という感じだった。

 いちおう水道は引かれているが電気は来てないし、区画分けもされてない。

 おまけに管理小屋よりもこっちはスマホも使えやしないんだからな。

 圏外なんて表示は初めて見たよ。


 でも、このないない尽くしが良い… って人もいるんだそうだ。

 元化時代を彷彿させる、何とも言えないレトロ感が何とも、ってね。


 でもな、今は元号だって修文から万和に──つまり2回も──変わってるし、恒星間移民船の建造が急ピッチで進められてるという科学万能時代だぜ。

 最初の移民船は完成してたな。進宙式は… 明日だったかな。

 つまり、そういう時代に育った俺としては……


 ……なにも言えねぇ。


 それにしても、今日くらい人の情けが沁みた日もないんじゃないかな。

 実際のところ、真夏の炎天下の下で、この距離を歩くとなったら身体がどうかなってたかもしれない。


 路線バスを乗り継いで… って長寿番組があるけどさ、あれに出演している人の事を笑えなくなったよ。だってあいつら県境超えないと次のバス停が無いって分かったら歩くもんね。今日みたいな暑い日でも、道路が凍り付くような真冬の寒い日でも、7キロ8キロ余裕だし。


 とにかく、軽トラに乗せてってもらったおかげで、そいつは何とかなったんだけどさ。いやぁ、日陰だと風も涼しくていいねぇ。

 水がこんなに美味しいものだなんて、知らなかったよ。

 つか、キャンプに来なかったら分からないままっだったかもな……


 そういや、あの夫婦と話してて分かったんだけど、光の環の出来たのは2か月ほど前らしいんだ。その頃はピンポン玉くらいの小さな物だったそうだがね。

 そいつを最初にSNSに画像を上げたのは奥さんだそうだが、最初は良く出来たCGくらいにしか思われなかったんだとか。


 俺だって現物を見るまでは、半信半疑だったもんなぁ。

 近づいてみると、まったく厚さのない光の輪っかだ。霧吹きで水滴飛ばしたら虹が出来るけど、何となくそんな感じに見えるモノだとしか言いようがない。

 でも、遠くからだと、どの角度から見ても光の輪っか… なんだよなぁ。


 そいつが、ここまで大きくなったのはここ半月くらいの事らしい。

 とりあえず画像とかはスマホで送っておいた。

 出発する時に、爺ちゃんと親父がシャメ送れってしつこく言ってきてさ。

 シャメ? 鮫なんか近所のスーパーでも売ってるじゃんかよ。


 そう言ったら、盛大にため息をつかれたよ。大昔に流行ったギャグと思ったらしくてさ。で、改めて聞いてみたんだよ。シャメって何? ってね。

 そうしたらさ。何のこたぁない。画像を送ってよこせという事だったよ。


 そうならそうと言ってくれればいいのに、訳の分からん事をうだうだと……


 とにかく義理は果たしたし、さっさとキャンプの準備でも始めるかね。

 テントはワンタッチで展開できる優れものだ。さすがに最新型ってだけの事はあるなぁ。周りにペグを打ち込んで、ロープで固定したら中に敷物を入れてと。

 荷物を放り込んだら、お待ちかねの焚き火の準備だ。


 薪は管理小屋で売ってたが、着火剤付きで1束1文って安過ぎじゃないか?

 まあいいや。余ったら管理小屋の前に積んでおけって話だったな。いい具合に火が回ったらお湯を沸かして、焼き網に肉を載せれば、オッケー。


 こいつはローカル線の接続待ちをしている間にイガルタ駅の──いわゆるエキチカでオススメってやつを買ってきたんだが。とにかくでけぇんだ。

 面白がって塊のまま焼いてるから時間がかかりそう… だ……


「???」


 なんだ? 俺は誰かに名前を呼ばれた気がしたんだが…

 反射的きょろきょろと辺りを見回してみたが、人の気配すら感じられない。

 ここにいるのは俺ひとり… のはずなんだ。

 それもそうだろう。ここ──温泉がある訳でも景勝地でもない。素朴な農村地帯にある地元では知られた無料キャンプ場なんだ。


 はっきり言って地味なんてもんじゃない。つか、普通は誰も知らねーよ。


 それも夏休みの真っ盛りのこの時期だからな。管理人のおっちゃんからも、ここにいるのは俺だけという事は聞いているし、近くに家なんか無い。

 だから誰もいる筈はない。なんかの気のせいだ、気のせい。


 あ、肉が焼けてきたじゃないか。とにかく食おう。

 火にかけたイノブタ肉の旨そうな匂いに、食べ盛りの高校生がは耐えられるはず無いじゃないだろ。


 それで、肉は黒焦げにしたんだろ、だと? ンなわきゃあるかよ。

 さすがに50文という、良い値段だったが値段だけの事はあったぞ。


「ぷはあぁぁ、食ったどー」


 食事が終わる頃には、外が燃えるような夕焼けに彩られていた。

 立ち並ぶ木々の葉が紅く染まり、空はしだいに夕焼けから夜の星空へと移り変わっていく。

 あの黒々とした宇宙雲が無かったら、もっと感動的な眺めなんだろうなぁ。


 そんな景色の美しさに目を奪われていた時の事だ。

 また聞こえてきたんだ。あの『声』が。


 そうだ、今度は間違いなく……

新両切り替えによって、米本位制から金本位制に切り替わって… まあいいか。

1文は日本の貨幣価値に換算して100円くらいだと思ってください。

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