鉄より硬い木に苦労する俺
結局のところ、あの硬い木材は全部加工できたんだ。
なぁに、高圧水流が駄目ならレーザー加工があるだろ… てな事を思いついただけなんだ。かと言ってレーザー発振装置なんか作ってられないからさ。
魔法で何とかならないかと思ったんだ。
で、最初に伐った材木のあたりにいるアーマイザを見てて、ぴこーん!
あいつらってさ、サイズこそアレだけどさ、見た目はアリそっくりなんだよね。ライフスタイルなんか、まんま地球のそれなんだぜ?
だからって訳でもないけどさ…… 小さい時に理科の授業でやらなかったか?
虫メガネで太陽の光を集めて、黒い紙をチリチリ… ってさ。
レンズは光を1点に集める事が出来る。そして、レンズをいくつか組み合わせりゃ光の進む方向はコントロールできるんだ。同じ事が魔法で出来ないかな……
太陽の光ってのは決して馬鹿に出来ないエネルギーを含んでる。製鉄所や発電所では太陽炉と言うんだけどさ、あれは巨大なソーラークッカーなんだよね。
で、仮にだよ。ソーラークッカーのように太陽の光を…… どうだろう?
だからと言ってホビー用だけじゃないぜ。ヤポネス・スチールじゃあ、反射炉の熱源にこいつを利用してるし、幕府でも再生可能エネルギーって事で太陽光発電所には補助金出してた筈だ。
国鉄なんかそういう電力で結構儲かってる筈だぜ?
「という訳で、そいつを魔法で再現しようと思うんだ」
それが出発点だったんだが…… これがけっこう苦労もんでねぇ。
最初は氷を使ってみた。巨大なレンズを使って材木を焼き切ろうと思ったんだ。
試しにやってみたら、これが魔力バカ食いしたんだよなぁ。
氷をレンズの形にするのはそう難しい話じゃないからな。直径2メートルのレンズを何枚か作るだけだ。だけどな、こいつは予想以上に重かったんだよ。
そのうえ氷が溶けないように盛大に魔力垂れ流しながらさ。
何枚もあるでっかいレンズを何枚も宙に浮かべて、刻々と動く太陽を追尾して。
ひんぱんに位置と焦点を微調整して…… 少しづつ焼き切るんだが……
『宿主さん、これ制御プログラム複雑すぎ!』
……丸太を10センチ焼き切るのに15分もかかるとは思わなかったぜ。
それも点で焼き切るから、切り口がベコベコだ。
『サクマユウマ。捕虜からの情報では、表面に何かを塗って補正していますよ』
表面をパテで修正するのもアリかも知れん。しかし、大量にパテ盛り修正するには限界があるし、なにより美しくない。
パテのせいで、せっかくの美しい木目が台無しになるじゃん。
それにしても、この魔法は魔力はバカ食いするし鏡の精密コントロールだけでホロンがオーバーフローする寸前までいくとはなぁ。
切り方自体を考え直さなくちゃダメ…… か。
『サクマユウマ。ナバーアでは、こんな方法を使っていますが?』
おっと、衛星軌道に集光レンズを浮かべて地上にレーザーを? ふむ、それで発電してんのか。参考までに聞きたいんだが、衛星で発電してマイクロ波で電力送るんじゃダメなの?
『これだけ大気が乾燥していれば、それも可能だと思いますけどね』
そうだった。あいつら湿度が低いと駄目なんだよね。
でも… ふむ、そうか。
「光の方向を変えるのに反射鏡とか要らんよな。じゃぁ、これでどうだ?」
同じレンズを作るのにもさ、氷を使わなくたっていくらでも方法はある。
空気中を通る光ってのは、いくつかの条件で進む方向が変わるもんだ。大気密度や湿度、大気中に漂うちりなんかでな。
それで生まれるのが虹とかだ。
ならば、と思って空気の密度をいじってレンズを何枚か作ってみたんだよ。
そしてだな…… 太陽の光がなぁ……
『ぐぬぬ… この方法があったとは。宿主さんもやりますねぇ』
ふっふ、もっと褒めてくれてもいいんだよ?
空気の密度うんぬんってのは、攻撃魔法にもあるんだ。
典型的なのがエアカッターとかエアハンマーって奴だよ。あれは高密度の空気の塊を薄い円盤にするか、大きな塊にして敵にぶつけるんだ。
そいつの応用だな。
さらに改良を続けているうちに、空気の塊で作ったプリズムぽいのが出来た。
ふひひひひ、太陽光線を収束したレーザーなら大抵のものはまっぷたつだぜ。
これならだうだ?
じじじじ…… ぱかっ。
ふっふ、赤法師たちのレーザーソード並みの切れ味じゃないか。
最初に作った製材所にあるような大型コンベアぽいのを作ったのが良かったな。
お陰で柱を切り出すのがすんごく楽になったぜ。太陽光レーザーの射線は固定しておいて、コンベアに乗せた木材をスライドさせるだけでいいんだぜ。
材料の切り出しが終わったら、組み立てには時間はかからない。4LDKって言ってもさ、あの木を使えば柱の数は最初の設計よりも少なくて済むんだ。
なにせ、こいつは鉄よりも硬い
最初は1日で終わるかなぁ… なーんて心配してたけどね。
もちろんクレーンの部品とか工具もな。荷物を吊り下げるロープは馬車に積んであったのを使えばいい。それにめっちゃ硬いこの木があれば金属製の釘は要らないんだ。
木釘の切り口が四角形だけど、大昔──奈良時代とかの釘も、そんなもんだ。
あとは魔法で大まかに穴を開けて、強引に打ち込みゃいいだろ。
ふははは、完璧だ。完璧すぎるぜ。
ようし、骨組みだけでも完成させるぞぉ……
「……ふぅぅ、そろそろ帰らないと拙いかな」
空を見上げれば、うっすらと星が見えてきたもんね。
満天に輝く星なんか、昔の映像とかプラネタリウムでしか見た事ないけど、こうして見てるとロマンがあるよね。
夜空を満喫するのも良いが、そろそろ帰ろうかね。
とにかく風呂だ、風呂!
『それならば樹木のサンプルを持ってきてくれませんか。
是非とも遺伝子を解読したいものです』
……この遺伝子マニアめ。
そんなら、持ってってやるよ。余った丸太を1本、丸々となぁ!
好きなだけ遺伝子解読をするがよいわ!
ソーラークッカーを最初に考えた人ってすごいと思います。だって電気もガスも使わないで料理が出来るんですよ。
猛暑のなかで浴びる太陽の光は厄介ですが、家計の大きな味方でもあるのです。