大工さんの真似事をする俺
捕虜をインゼクトに引き渡してから、数日が経った。
あいつらが来たという痕跡はすべて拭い去ったし、荷車は3台とも回収済み。
馬は… ウサギたちが来てどっかに連れて行った。あいつら肉でも魚でも食べるけど、基本的には草食動物だからなぁ。
びしびしびしびし。しゅぱぱぱ……
ウサギ達ならではの感覚というか、何か繋がるものを感じたのかも知れない。
なら、あいつらに預けたって別に悪い事じゃない。俺じゃ40頭近い馬の世話なんかできないからな。だったら、あいつらに押し付けた方が楽ってもんだ。
ごりごりごりごり…… ぎーこぎーこ。
そういう訳で、今の俺は大工さんをしている。
うん、小屋のリフォーム… いや、この場合は改築かな。土台から何から全部バラしてから組み立て直しする事になるからね。
足りない材料は森の木を何本か伐って、乾かしてから製材し直したんだぜ。
インゼクト達は俺がやる事がよっぽど珍しいと見えて、いろいろと見物がてら手伝ってくれるから助かるよ。とはいえ、所詮はシロウトだ。
本職には劣るのは仕方がないと思うんだ。でも古城のおっさんがインストールしてくれた知識の中に、建築とか木材加工ってのがあったんだよなぁ……
だったらさ、大工さんに挑戦したって良いじゃないか。
このまえリ・スィに見栄をきった手前もあるから、ガッチリ作り上げるぜ。
その前に工具とかを揃えんと… ノコギリとか鉋とかだが……
…よく考えたら要らないじゃんか。今なら全部魔法で行けるんじゃね?
魔法の細かい制御とかの練習にもなるし。
というわけで、ウオーターカッターを魔法で再現する事にしたんだよ。
『高圧水流… 水流の太さ良し、角度オッケー』「ぅていっ!」
しゅばばばば……
よしっ、ほぞ切りオッケー! うんうん、けっこうイケるじゃないか。
切り口も滑らかだし、ホロンにチェックさせたら寸法もオッケー!
ぬふふふふ、やるなぁ、俺。
基本的には、柱の組み立てってのは部品を凹か凸に切り出して挿し込むだけだもんね。細かい寸法はインストールされてるから切り出しは簡単だ。
切り出した材料をどうやって組み立てるか、って問題が残ってたんだが。
考えてみれば、そいつも難しい事は無いんだよね。
カリコリ、カリコリ……
そこおおっ! そこのカカラーカ! お前だ、お前!
せっかく加工した柱を齧るんじゃねえぇええ!
おわああ! 加工前の丸太にはセミみたいのがびっしりたかってるしぃ!
なんだこりゃぁあああああ!
<どうしたのだ。かなり慌てているようだが?>
良かったぁ、ケイファル来てくれたよ。見てよこの状況。
すんげー困ってるんだけどさぁ…… って、どしたの?
俺、拝まれるような事してないんですけどぉぉ?
<なんと慈悲深き行ないをする者よ。やはり我の目に狂いはなかった。
同胞のために、これほどの食糧を……やはり汝は次代の蟲の皇に相応しい>
ちがぁう! 俺はここに家を建てたいんだよ! こいつら手伝ってくれてるんじゃなかったの? 俺が製材した木材、片っ端から齧ってるんですけどぉ?
<なんだ、違うのか。汝が伐った木はカカラーカの好物だぞ?
しばらくすれば同胞は冬の眠りにつく。それまでに多くの食物が必要なのだ>
って事は何か? 俺が伐り倒した木は建材としては役に立たないって事かい?
せっかく頑張って製材したんだよ? 乾燥だって……
<お陰で食べやすくなったと、皆は喜んでいるようだが?>
俺は悲しいんだよおぉおお!
せっかく地上で暮らす別荘を作ろうと思ってたのにさ! この辺りは雪が降るほど寒くなるんだよ? そろそろ朝晩は気温が下がってきてるだろ。
だからこっちも急いでたんだよ! それに馬車とか野ざらしに出来ないし。
<なんだ、汝も冬越しのために巣を作るのであったか。
それは悪い事をしたな。同胞に命じて、代わりの木材を集めさせよう……>
てな事があってから1時間後……
俺の目の前には、丸太の山が出来上がっていた。これだけあれば、4LDKの家が建ちそうだ。物置だって馬車3台入れても余裕があるね。
<汝が伐り倒した分くらいは集まったようであるな>
ああ、予想以上だよ。ありがとう、ケイファル。
これだけ木材があれば、かなり頑丈な家が建てられそうだ。
<それは良かった。ああ、最初の木材は貰ってゆくが構わぬな?
子供たちの食糧にしたいのだ>
そりゃ構わないけどさ。どうせ建材にならないって分かったら、あとは薪にでもするしかないんだ。それもしばらく先の話になるからな。
だから持って行ってもらった方が、何かと都合がいい。
<感謝するぞ。では我らは去る事にしよう。巣を作るところは誰であっても──
たとえ親にも見られたくないし、見てはならぬ物だからな>
あ、おい……
……誰もいなくなっちまった。
だが、ここまで運んでくれれば製材は簡単だ。なにしろ、一番手間がかかるのは伐った木をここまで運んでくる事だもん。丸太ってのは意外と重いもんだ。
身体強化すれば持ち上げる事くらいは出来るけど、運ぶのはなぁ。
次に大変なのは木材の乾燥と製材なんだが……
こいつは魔法で何とか出来るからな。
柱の組み立てをするには… 魔法だと面倒だから簡単なクレーンでも作るかね。
ある程度出来ちまえば、クレーンは解体して物置の材料にでも回せばいい。
じゃあ、少し頑張ろう……
『ねえねえ宿主さん? 深刻な問題があるんだけどぉ?』
……全くもって、その通りだな、ホロン。これぞ異世界… だよなぁ。
この材木は硬すぎて高圧水流では切れないんだよ。騎士の持ってた剣とか鎧はすーっと切れたのにさ。
それをアーマイザの奴らは、ガジガジと齧り倒したんだぜ?
『困ったなぇ、宿主さん♪ こうなったら、諦めて基地で暮らせばぁ?』
いいや、俺は諦めねぇ!
アーマイザが齧り倒したって事は、切れない事は無いって事だ。
現に、あの白い奴だってスパっと……
あ… そうだ、この方法があったか。
日本の木材加工技術は世界一だと思うのです。
こればっかりは諸説なんかないし、異論も認めませんとも。