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食欲が全てに優先する俺

 パンの焼ける匂いにつられて、小屋に近付いてきた2人の騎士を捕まえるのは思ったより簡単な事だった。あいつらは俺が皇女サマじゃないと、薄々は感ずいている筈なのになぁ。

 こんな危険な場所に、か弱い女性が… とか言ってたからなぁ。


 あいつらも暴力を商売にする連中なんだから騎士道精神というか、そういうのを忘れる訳にはいかんのよね。そいつを忘れたらただの無法者… 山賊とかの犯罪者だもん。

 けっけっけ…… 騎士ってのは、マジで辛いねぇ。


『宿主さんたら、もうドレスを脱いじゃうんだ』


 当然だろ、ホロン。いくら皇女サマに似せるためって言うけどさ、あれはやり過ぎだろ。化粧品をあれだけ厚塗り──つか盛るって厚さじゃないかよ。

 はっきり言って、顔が皮膚呼吸出来なくなって死ぬかと思ったんだぜ。


 俺は脱いだ服をイソギンチャクもどきに渡すと、風呂桶に飛び込んだ。

 ふいぃぃ… やっぱコレだねぇ……


 あん? 捕虜の尋問? そんあのリ・スィに任せた方が早いし確実だよ。

 必要な情報なんかは、あいつらの脳から読み出している最中じゃないの?


『尋問なら終わっていますよ、サクマユウマ』


 お、早いね。じゃ、風呂出たら話を聞くよ。

 あとは… そうだ。ここに騎士がいたって痕跡は全部消しとかなきゃ拙いね。

 だからさ、荷車を全部回収しといてくんない?

 そそ。騎士たちが持って来たやつ。あと馬もな。あの小屋んとこで良いからさ。


 ……と、いうわけで、だ。


「……はふぅん……」


 風呂に入ってさっぱりした俺は、戦利品の整理を始める事にした。

 馬車とかを小屋に運んだのは、別に意味があるわけじゃないよ。こっちの方が近いし、積み荷に何か細工がしてあって宇宙船に被害が及んだらヤバいだろ。


 それから、小屋を作ったのは単純に火を焚ける場所が欲しかっただけだ。

 宇宙船は火気厳禁… これも、何か事故が起こったら…って対策の意味もある。

 そりゃそうだろ? 今のところ、あれは俺の重要拠点… 本拠地だからな。


 たしかにあそこは安全だし居心地も良い。でもな、あれは宇宙人の乗り物だ。

 それも地球よりも遥かに優れた文明の… いわゆる宇宙人の乗り物だぜ。心の奥底では怖い… って感じてるのも事実だよ。

 …とまあ、ここまでは建前だ。


 早いとこ荷車の中身を色々と検分したいんだよ。

 もちろん、それと同時に色々とやる事はあるよ?

 小屋の増築とか小屋の増築とか小屋の増築とか……

 大事な事なんで3回言っといたぞ。


 だってさ、リ・スィに任せたら、酷いんだもん。

 この小屋ってさ、ぶっちゃけ柱を地面に打ち込んで屋根を乗せただけのシロモノだからなぁ。柱は全部ボルトで強引に固定してるんだよ。

 壁に至っては、柱に接着剤で貼り付けてるだけ… だからなぁ。


 たしかに急いで作れって話だから仕方がないよ? ある意味では合理的だ。

 でもなぁ、木材ってのはヤポネス人のステータスなんだよ。月面基地とか長距離宇宙船の内装の1部にだって木材使ってる場所もあるんだぜ?

 確かにあの時は仕方がない。それは理解してる…… それでも不満は残るよ。


「という訳で、それなりに作り直す事にする」

『何が不満なのですか、サクマユウマ』


 すまん、リ・スィ。プライドを傷つけるつもりはないんだが……

 今回のように舞台装置として使う分にはこれでいい。短時間で作ったにしては完成度は高いと思うよ。だけど、普段使いの建物として見ればこいつは最悪だ。

 問題は、次が来た時…… だな。


 ばさばさ、ずりずり……


 そんなの当然だろ?

 あいつらの目的は森の再生の調査だろ。それも皇帝陛下とやらの勅命だ。

 何が何でも成果を持ち帰らなくちゃならない立場の人間が、いつまで待っても帰ってこない。


 そうなったら誰だって疑問に思うだろ?


『たしかに、調査期間は3か月程度を考えていたようですね。それがなにか?』


 次に調査に来る奴は、かなり警戒してるはずだ。だから、次回も似たような作戦でいくにしても、小屋の造りは… これじゃダメだ。

 だから、それなりの物を用意しておく必要があるんだよ。

 場合によっては、マジであの砦の焼け跡に行かなくちゃならんかもなぁ。


 とんとんとん… かちゃかちゃ……


 壁の漆喰とかは上手くすれば再利用できるだろう。そして金属資源だね。

 あとは屋根瓦とか、装飾品とかだな。あくまでも砦の関係者が使ってる建物でございますって事にするなら、このあたりは必須だね。

 捕虜から読み出した情報を使って仕上げるしかないだろ。


 それも3か月以内にね。


 そうじゃないと、ちょっと困った事になる。

 あと半月もすれば。この辺りも普通に雪は降るらしいぜ? その、偵察メカからも情報とってるだろ?

 今のままだったらさ、あの小屋は雪の重みでペシャンコだぜ?


 ぐつぐつぐつぐつ…… じゅううぅぅ……


 ふむ、だいたいこんなものか。


『……ねえ宿主さん?』


 なんだホロン。今の俺は、ものすごく重要な作業をしているんだが。

 荷車の中には、大量の豆とか塩漬け肉があったんだぜ?

 この気候でも2か月は持たねぇ。

 だったら、早めに消費してやらなくちゃ、せっかくの食材が可哀そうだろーが。


 ふっふっふ、フェジョアーダの出来上がりだぜぇ。

 こいつは豆と肉を煮込んだだけのシンプルな料理だが、それだけに奥が深いとも言われてる。それでも、所詮は家庭料理だ。

 俺が知ってる事は、メインが豆って事くらいかな。


 でもな、魔法を組み合わせればいくらでも時間を短縮できるってもんだ。

 重力魔法を利用すれば、圧力なべの代わりくらい何とかなるさ。

 その成果がコレってわけだ。我ながらよくやったと思うぜぇ?


『だから聞いてよ、宿主さん!!』


 何だよ、ホロン… せっかくの感動に水を……


『水が要るのはオーブンだよぉ。肉… 肉が焦げ… もう燃え始めてるぅ!』


 うわああああ! おーまーがあぁあっしゅ!


 俺のメインディッシュがぁあああ!

フェジョアーダは美味しい。美味しいったら美味しい。それに作るのも簡単。

日系の人(6世だって!)に聞いたら豆なら何でもいいし肉なら何でもいいらしいのです。だから私が作るのは、なんちゃってフェジョアーダです。

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