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なんとか着替えを終えた俺

 ……俺です。


 リ・スィに高密度の魔力を浴びせられて魔力酔いにされたあげく、服をはぎ取れれてしまいました。今は着替えも済んで、メイクを済ませられたところです。

 衣装を作ってくれと頼んだのは俺ですけど、必要が無いことが分かりました。

 それなのに、無理矢理に着替えをさせられました。


『サクマユウマ、何か不都合でも?』


 いや。特にないと思う。実に良く出来ていると思うよ。

 でもなぁ… 不都合ってか、問題はあるんじゃないかな。これを着なくても作戦は実行できるんじゃないかって事なんだが……


 だってさ、捕虜の尋問ったってさ、リ・スィが脳から直接情報を読み出す事が出来るんだろ? だから俺がこれを着なくても……

 い、いや。着ないとは言ってないだろ。もっと他の… この件が終わってからでも構わなかったんじゃないかって……


『いやいやいやいや、宿主さん、それは違うよぉ』


 くっ、ホロン… お前もか。


『最初の計画通りにするのが、最も合理的な方法なんだよぉ。

 だから宿主さん、ガンバ!』


 いや、そうだけどさ。たしかにホロンの言うとおりだけどさ。

 あの小屋に騎士をおびき寄せて… 小屋のかまどだけは真面目に作ったから、パンを焼く時の煙でも出せばいいと思ったんだ。

 そうすりゃ、あいつら不審に思うだろ。


 だってさ、ここは人が住んでいる筈のない魔の森… なんだぜ。


 それも自分から名乗った訳じゃない。ゼルカ星人… 帝国の連中が勝手にそう呼んでいるだけだ。そしてここは、あいつらにとって危険な場所… だよな。

 魔の森って言うくらいだから、多分そのはずだ。

 そんな所に、人がいるはず無いじゃないか。


 そこに、自然には無いはずの匂いが流れてきたら?

 かまどから出る煙ってさ、普通に木とかが燃えるのとは匂いが違うんだ。

 こればっかりは感覚的なもんだから説明できないけどさ、とにかく違う。

 料理なんかやってりゃ、そういうものの匂いも混じるからな。


 森の中でさ、そんな感じの匂いが流れてきたら、どう思う?

 誰だって不審に思うじゃないか。普通は調べに来るよね。

 俺だったら無視はしないよ。何があるか調べない筈がない。

 どんな世界でも、そうする筈だよ。危機管理の基本だもんね。


『そこで見つけるのが宿主さんが潜む小屋、なんだね?』


 そういう事だ。皇女サマに変装した俺が、やってきた騎士とOHANASHIするってわけ。皇女サマとは体格が全然違うけどさ、そこはそれだ。

 20センチ違えばバレるだろうって?

 普通なら間違いなく偽物めっ! って言われるだろうよ。


 だけどさぁ、皇女サマはさ、あの砦で異世界召喚という大魔法を使ったんだ。かなりの量の魔力を使ったのは間違いないと思うんだよね。だとしたら、だよ。

 強力な魔法ってのは、失敗した時の反動もかなりのもんだ。

 使った魔力の何割かが術者に跳ね返ってくる事があるらしいんだよね。


 うん、八神先生から教えてもらったから間違いない。あの先生がまだ小さい時に、風呂を沸かそうとしてシクってな… 火だるまになった事があるそうだ。

 まあ、それは良いとしてだな……


 少なくとも異世界召喚に失敗したとしたら、とんでもない副作用のひとつやふたつ出てもおかしくないって事だ。こいつは時空間に干渉する魔法だぜ。

 失敗したんなら、少しくらい背が縮んでも問題ない…… はずだ。


『それと砦の立地との関連性が理解できませんが?』


 そいつだよ。あの砦の立地は単に秘密研究所ってだけじゃなくて、何か危険な事が起きても問題が無いように、こんな僻地に作ったんじゃねぇかな。

 たとえば爆発事故で一帯が焼け野原とか、召喚したのが巨大怪獣たったとか。


『あなたの仮説には正当性が認められます。

 たしかにナパーアでも類似する記録が残されていますので』


 やっぱりな。魔法って奴は発動に失敗すると何が起きるか分かんないからな。

 何の知識もない──魔法使いじゃない奴には想像もつかないだろ。

 そのあたりを利用してみようと思うんだ。


『あの騎士が魔法について深い知識は持ち合わせていないと?』


 知ってるのは魔法を漬かったら何が起こるか、程度の事じゃないか。

 それにゼムル帝国の中でも魔法使いってのは意外と数が少ないと思うんだ。

 だっれさ、ジェノサイドでも魔法を使ってたのは数人だったぞ。

 それも、けっこうショボかった…… っと、騎士についてだったな。


 騎士ってのはさ、基本的に身体で御奉公する職業なのさ。

 武器を片手に肉弾戦をする──白兵戦──それがあいつらの戦い方なのさ。

 そのためにきっつい訓練をやってるんだ。


『つまり、魔法について学ぶほど余裕はない… と?』


 そうそう、その通り。

 白兵戦では魔法の知識を仕入ても戦場では何の役にも立たないからなぁ。

 生き残るための確率を少しでも上げるために、訓練を重ねてるのさ。

 だから重い鎧を着てるのに、普通に動き回れるんだよ。


 それにな、知ってるか? 鎧って、けっこう重たいんだよね。

 あの騎士の鎧って、どう見ても金属鎧だけど全身を覆ってなかった。

 覆わないんじゃなくて、覆えないんだ。

 そのうちにリ・スィの所にサンプルが届くと思うから、分析してみろよ。

 たぶん俺の体重よりも重いはずだ。


 まあいいや、その辺は。とにかく作戦を始めるとするか。

 こういうのはタイミングが重要なんだ。

 うん? だってさ、時計を確認してみろよ。そろそろ昼飯の時間だぜ?

 あいつらだって、腹はすくだろ?


 小屋まで歩いて10分くらいだが、かまどに火を入れるだけでも、けっこう時間がかかるんだ。魔法を使っても、最低でも30分ってとこか。

 じゃあ、パン生地を抱えて… って、何か容れ物ないか?


『エニモーヌ達に運ばせますよ、サクマユウマ。せっかく仕立てた衣装が汚れてしまっては台無しです』


 エニモーヌ? なにそれ…… ああ、あのイソギンチャクもどきの事ね?

 へえ、そういう名前だったんだ。


 じゃあ、パン生地を運ぶのは頼んだぞ。

 ちょっと重いから気をつけてな。

お姫サマ装束の佐久間君って……

じゅる……

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