良くない事を思いついた俺
ホロンに色々と論破されちまったが、それは置いとこう。
今はそんな事に構ってる暇はねぇ。森の近くにやってきたのは、ゼムル帝国の騎士ってやつだ。ホロンと遊ぶのもいいけど、そいつらの対処が先だ。
なんでゼムル帝国って分かったか… だって?
たしかに 他の国の勢力でもウロボロスの紋章を使っているって可能性もあるけどさ、この状況ではちょっと考えにくい。
それは、あの砦を見りゃ想像つくよね。
あの砦は、規模から考えれば前進基地なんだよね。
そこに詰めている兵士の数もせいぜい100人くらいのものだった。
たぶん皇女サマの護衛と、あとは召喚魔方陣とかの警備もあるか。
で、そいつらの支援部隊がいるとしてもたかが知れてる。
しかしだな。あそこはどう考えても軍隊を駐留させておけるような場所じゃないんだよね。本気で戦争するなら、その10倍くらいの人数が必要だろ。
だけど砦の周りもテントを張れるような場所は無いときている。
なぜかって言うとさ、砦は魔の森──あいつら危険地帯って思ってる──のすぐそばだし、そう言う場所の近辺が整地とかする筈ないもんね。
そうなると、この森を切り拓いた目的は… そう言う事なのかなあ…
軍隊をここに待機させるための場所なのかなあ、って思ってたんだ。
ここってさ、イガルタよりも広いんだ。ヤポネス本土で上位にランキングされてるイガルタ平野よりも広いんだぞ? 想像できるかい?
あの土地に恒星間移民船の建造が始まる前は80万人も住んでたんだぜ?
だからさ、数千人規模の軍隊くらい余裕に暮らせるんじゃねえかな。
そう思ってたんだけどさぁ……
『自分たちの手で砦を壊しちゃったからねぇ』
もしもこの先で軍事行動を起こすつもりなら、あそこを司令部にすると思うんだけどね。でも実際には、そうはしなかったんだ。異世界召喚された俺が逃げ出した後で、次の日くらいには帝国の正規部隊が来て全部壊しちまったんだ。
文字通りの意味で、何もかもがこの世から消え去ったって感じだな。
でもさぁ、逆に言えばだよ。
あの砦がなくても問題ないって事じゃん。つまり、この近くには国境線とか無いって事になるよね。だから軍事的には利用価値がないってこと。
魔の森の近くだから、住み着く人だっていないだろう。
つまり、これ以上無いくらいの僻地って事だ。凶悪な魔法とか、(けんえつ)みたいなヤバい実験をするのにうってつけ… って場所なんだよね。
そして、召喚魔法は公式記録では事実上の失敗… って事になったんだろう。
だから正規部隊が来て、その痕跡をすべて消し去ろうとした……
でも俺はその一部始終を見ていたんだ。人工衛星からの画像という形でね。
胸糞悪い話だけど、このデータはリ・スィに記録させた。後で何かの役に立つかもしれないからな。
いくら人の命が安いって言っても、ジェノサイドは無いだろうよ。
そのくらいに、砦は徹底的に破壊されたからなぁ。
この前リヴェレイ──でっかいオニヤンマ──に空から偵察してもらったんだけどさ、建物なんか全然焼けててさ、何も残って無かったもん。
それどころか石垣とかの一部が太陽の光を反射していたって事は、すんげぇ高熱に曝されたって事になるよね。
だとすりゃ遺体も残らないか。運が良ければ釘とかは焼け残ってるか。
なら拾いに行ったら意外と量が集まるかも知れないな。
武器とかの回収も出来ればなお良し!
そのままでは使い物にならんと思うけど無いよりマシだ。
きっとリ・スィならこいつらをリサイクルしてくれると思うんだ。
それで鋼鉄が取れれば御の字。最低でも軟鉄くらいは手に入るだろ。
焼き入れしても固くならない軟鉄では包丁すら作れないけど、普通に鉄と言えばこいつの事だ。こいつでも建材には使えるはずだ。
<むっ、異人どもに動きがあったようだぞ>
おおっと、ケイファルからのテレパシーか。残念ながら今回はあいつの出番はないんだよね。隠密作戦を考えてるのに、あいつらの前に金色のでっかいカブトムシが出てきたら最悪じゃん。
せっかく面白そうな作戦を考えてるのにさ。
<それは後で聞くから、とにかく見てほしい>
って、強引に映像をねじ込んでくるなよぅ。これだからテレパスってのは……
まあ見るけどね…… そうしないと何も始まらないし。
ふむ…… ホロン、この様子だとさ、こいつらテントとか持ってそうだよね。
荷車だって、山ほど荷物を積んでるじゃん。
『たぶん、持ってるよねぇ。荷車の中身は食べ物かなぁ』
そうなんだよな。それも荷車を牽いている馬と、周りの騎士が乗ってるのは同じ種類の… 軍馬だ。馬車を牽いたり農作業で活躍するのとは別の種類だよ。
なら間違いないかな。荷車の中身は食糧とかそんなのだろ。
あとは予備の武器ってとこかなぁ。
だとすると、あいつらが独立部隊だって事だよね。
そうじゃなかったら、補給部隊とかは別に用意すると思うし、軍馬に荷車を牽かせたって事は戦力として共用するための工夫だろう。
荷車を牽くためだけの馬とかってさ、使うのは往復の時だけだもんね。
そして、ここんとこが重要な。
あれだけの荷物を抱えてるって事はだよ、しばらくこのあたりに居座るつもりじゃないか?
だとすると、さ…… 何か思い当たる事がないか?
<異人の狙いは、焼き払った森の検分… だろうか>
そうだね、俺もそんな感じがするね。
馬車はけっこう奥の方まで入ってきて止まったんだが、しばらくするといくつかのグループに分かれたんだ。
で、森と平地の間… 境い目の部分だな。あのあたりを歩き始めた。
ひとつのグループは5人くらい… か。
もしもあいつらの目的が、ケイファルの予想通りだとしたら、森の中にまでは入ってこないと思うんだ。とりあえず様子を見よう。
このまま平穏無事な日が続けば、気も緩んでくるに違いないさ。
作戦を始めるのは、それからでいい。
それに荷車3台分の物資は魅力的だ。
ひょっとしたら、こいつでお粥生活からオサラバ出来るかも知れないんだぜ。
いよおぉっし! がぜんやる気が出てきたぞ。
帝国の騎士たちよ、早くどうにかなってしまえ。
俺の食生活を改善するためになぁ……
鉄と言うのは2種類に分類する事が出来るそうです。
ひとつは焼き入れしても固くならないもので、昔は軟鉄とも言ったそうです。
そして、焼き入れをすると固くなるものです。これが鋼鉄とか特殊鋼ってやつ。
どうやら鉄の中に含まれる炭素の含有量とかで性質が変わるらしいです。