気になるアイツと幼馴染
喫茶店・無何有郷。
創業50年以上という、この町で一番古いお店で、そこの2代目マスターは終太郎さんって名前の人。
そして、私達の通う高校の出身者で帝大を出たという超天才なのよね。
ちなみにウチは校則が厳しいのでも有名だけど、この店だけは制服さえ着ていれば、出入りが自由だ。ホントは校則では禁止されているんだけどね。
もちろんバイトもオッケーなんだけど、帝大よりも狭き門… ってね。
ここまでフリーダムなお店なのも帝大卒の神通力って奴なのかなぁ。
佐久間君がここで給仕のバイトをしてると聞いて、時々は顔を出すんだけど…
だって入りびたるほどにはお小遣いは貰ってないもん。
でも3年生のお姉さま方にとっては、問題ないってとこかな。
特に舞雪先輩。どう見ても常連さんだもん。
彼女は生徒会長だから、そのくらいの余禄があっても不思議じゃない… か。
それに1年生の私にとっては雲の上の存在だし。でもね、私の結馬君に色目を使わない限りどーでもいいの。
でもねぇ、もしもそんな事をしたら、私……
うふ、うふふふふ……
っと、やばいやばい。
こんな所で居眠りしてるんじゃないわよ、このボケネコめ。
ちゃんと私にかぶさってないと、ノロウワヨ? …よろしい。
私は佐久間君の幼馴染、東山芹那。
彼の事なら何でも知ってる可愛い女子高生……
そうだよね? おいボケネコ、ほらぁ、うまくかぶさりなさいって!
そうそう、その調子で頑張ってね。
……さて、と。ここからが本題。
結馬君が、2泊3日の予定でイガルタに出発したのは昨日の話。
寝台列車を使って、のんびり旅行をするんだと言っていたけれど……
幼馴染の私としては、彼のスケジュールを把握しておくことは大切な事だと思うの。今頃はイガルタ駅に着いて、ご飯でも食べているころかしら。
たしか磯岡くんに頼んで調べてもらったのは…… ええと、どこに置いたっけ。
……あったあった。
ええと、今は9時だから… なぁんだ、ローカル線に乗り換えているころね。
この調子だと、キャンプ場に着くのは早くても昼過ぎかしら。
あいつが作ったタイムテーブルって、大体のところで合っているからたぶん間違いないと思うのよね。さすが鉄ヲタを自称するだけの事はあるわ。
でも、鉄ヲタ… だからねぇ。
鉄ヲタって、碌な事をしないと言うのが一般的な印象だと思うのよ。
きれいな画像を撮りたいために畑を踏み荒らしたり、他人の家に生えてる庭木を勝手に伐り倒したり。
あいつら、犯罪者の群れだとばかり思っていたんだけどね。
「いっ、いやそれは違うんだ!」
磯岡くんにそれを話したら、あたふたしながら両手をパタパタ。
うん、これはこれで面白いかも。あとでちょうきょ… 違った。ちゃんと振り付けをしたら学祭でスターになれる素質は充分よぉ。
っと、いけないいけない。
ひとまずそれは横に置いといて。
鉄ヲタが犯罪者の群れじゃなかったら、何なの?
さあ吐け、キリキリ吐いて楽になりなさい!
「鉄ヲタにも良いヲタと悪いヲタがいるんだよぅ。
東山さんの言う、他人の敷地に勝手に入り込んで写真写りの悪い木を伐り倒したり、車庫に忍び込むような奴は悪いヲタなんだ。それこそ犯罪者だよ。現に警察に捕まってるから、知ってるでしょ?」
……でしょう? 昨日のニュースなら私も見てたわよ。
そして、あんたもそういう鉄ヲタのひとり。違うの?
「それこそ東山さんの誤解だよっ!
僕は決して、悪いヲタじゃないんだよっ。夜な夜な時刻表を眺めて満足しているだけの、良いヲタなんだ!」
ふうぅぅぅ…… なんか想像しただけでなんかこう… やっぱ、きしょい…
まあ、仕方がないか。そのくらいならまだ、許せる範囲かも。
夜な夜な本を読んでニマニマしてるってだけなら、クラスにも何人かいるし。
そういえば洋子がナマモノを仕入れてきたって言ったたわね。
あとで貸してもらおっと。
とりあえずはこいつから情報を引き出す事にしてからだけどね。
「……まあ、いちおうは納得してあげる。じゃあさ、良い鉄ヲタの磯岡くんに聞きたいんだけど、昨日ドゥーラ駅を出た寝台列車でイガルタの……」
いやぁ、水を得た魚って、こんな感じなのかしらねぇ。
あっという間に、タイムテーブルが出来上がっちゃったんだもん。
これでいて地理と代数のテストは中間、期末のどっちも追試だなんて。
あんた頭の中身はどうなってるのよ?
けけけけ。あとでマスターにチクっておこう。
彼はそういうのって大嫌いだもん。
生まれてきた事を後悔するまで詰め込まれてしまえ。
くふふふふ……
それにしてもねぇ、イガルタ駅に着くのが朝の5時半って……
結馬君たら、よく起きられたなぁ。あたしゃ絶対に無理。
眠れる樹懶という名誉ある称号は誰にも渡す気は無いの。
なつきちゃんが将来の義妹になっても、この称号だけは渡さないからね?
佐久間君の幼馴染をしている芹那ちゃん。
なんかこう… 彼女を主役に据えて、何か作れそうな気がしてきたのは、私の気のせいでしょうか。