魔の森の再生を頑張る俺
ここ数日というもの、俺はこの森の中をあちこち歩き回っている。
それと言うのも、秘密基地の強化計画の一環で、森を広げるためだ。
この広い森がひとつの防衛拠点になるから… ってな。
森の生き物の中にはさ、けっこう獰猛な奴がいるんだよ。
それに森の中のどこに潜んでるか分からないし、動きも早いかんな。
こっちで制御しなくても何とかなっちゃう、お手軽さも魅力だね。
だけどさぁ、それも森の中ならば… って事なんだけどな。
だから、森を広げてるのさ。あの培養室にあった、ビックンビックンしてるやつを使ってさ。インゼクト達も協力してくれるから仕事が進むのなんのって。
そういや、森の中の獰猛なイキモノって言ったら何を想像する?
普通はクマとか、でっかいオオカミとかだって思うだろ。
でもなぁ、森の覇者… 生態系の頂点にいるのはウサギなんだよな。
たかがウサギと思うだろ? 見た目はそこそこカワイイけど、油断はできないんだよね。あいつら群れで来るとさ、けっこう強いよ。
「それは良いけどさ、ここ… なんつったら良いかねぇ。平野?」
左右に広がるのは、もちろん森なんだがねぇ。木の生えてない場所はさ、広い所で20キロくらい、森の外側から一番奥の方までの距離はその倍はあるから、広場って言うのもおかしいよね。
おかしいと言えばさ、この場所の形もそうだよ。ホロンから見せてもらった地図を見ると、切り分けるのを失敗したピザのような形をしてるんだ。
で、先っぽの尖った所にあるのが遺跡な。草むらに覆われてるけど、焼け焦げた切り株とかがいっぱいあるから、帝国の連中が森を切り拓いたんだけどさ。
それを元の姿に戻せばさ、動物だって住み着いてくれるだろ。
俺からすれば、そいつが重労働なんだけどね。
俺がする事は苗木を植えたり種子をばら蒔くだけなんだが、とにかく広いからなぁ。偵察メカやイソギンチャクもどきにも手伝ってもらってるけど、なかなか大変な作業だよ。
でも、リ・スィが遺伝子をいじくったこいつらは、とにかく成長だけは早い。
植林してから1か月もすれば、でっかい木がたくさん生えてるって寸法だ。
もっとも、ここに蒔くための種子とか、苗木の準備も大変だったなぁ。
そのあたりは、全部俺が集めるしかなかったんだよ。リ・スィから木の枝の先のほうだけ集めてこいとか、木の実を集めてくれとか言われてさ。
植えてる苗木とかは、この時のに集めたものだ。
帰り道でも、木の枝とかは追加で集めなくちゃならないけどな。
で、種子の方は集めてきた木の実から取り出す事したんだ。ホロンが果肉の部分に生活に必要な10種類の栄養素が含まれてるって言うからさ、食べた後に残る種子を捨てないで置いたんだ。
ちなみに食べられるかどうかはリ・スィにも確認済み。毒は全く含まれていないし、種類によっては魔力回復の働きもあるそうだ。
じゃあ決まりだね。いっただっきまーす! って事になったんだが……
「……うううううっぷ、なんだよコレ」
最初に食べたのはマーガリンだ。見た目はミカンそっくりだったけど、その中身は例えでも何でもなく…… ガチでマーガリンだよ、コレ。
ホロンと感覚を共有して確かめたから間違いない。
『宿主さん、がんば! 気を取り直して、次いってみよー』
ホロンの奴も、結構ノリノリだな。まあ良いけどさ。
それから、何種類かの実を食べてみたんだが、結論から言うとだな。
森の果物の多くは、糖と脂肪で出来ている… って事だ。たしかに栄養素は含まれているんだが、バランスよく含まれてる訳じゃないんだな。
それ以外は、ごく普通… 普通だよな? 普通だと言って?
うん、普通に果物とかをしてたよ。味とか匂いに限ればな!
でも中にはマーガリンの塊とか、ボンボンみたいなのとか。
愉快な気分になったものもあったけど、あれはヤバかった。
そういう苦労を乗り越えて集めた種子なんだが、リ・スィが遺伝子をいじくるんだとさ。なんでも成長スピードが半端なく早くなるって話なんだが……
「昨日植えた種子が、もう芽を出してるもんなぁ……」
リ・スィが改良した遺伝子は時限的なもので、ある程度成長した時点で消滅するって言ってたけど。今はそれを信じるっきゃないわな。
芽が出てきたところを中心に、種子なんかをこう、ぶわあぁああっ! とな。
ここを見た奴らは、さぞかしびっくりするだろうなぁ。
荒れ地から急に木が生えてくるんだぜ。普通の雑木とかならどこかから種子が飛んできたかな? で済ます事も出来るだろうな。ものによっては10年あれば、数メートルくらいの高さになるのもあるんだ。
現に爺ちゃんの家の裏庭は、そんな感じになっていたからな。
いちおう生やす種類とかは制御はしているし、時期になると山栗とかクルミが大量に取れるから、拾ってを近所のスーパーに持ってくといい小遣いになるって言ってたんだよなぁ……
でもここでは、別の意味で制御してみたんだ。この辺りに蒔いた種子はな、実を食べると、ウヒヒヒ… ってなっちゃう木のものだけだ。
あれはすんごく美味しくてさ、これこそザ・果物って味なんだけどなぁ。
毒じゃないけど、ヤバい成分が混ざってなければ、最高なんだよなぁ……
『宿主さん、次のロットが出来たって。早く戻ってこないと大変だよぉ』
ぐはぁ……
リ・スィさんや、おめ、遺伝子いじるの早過ぎだっぺよ。こっから基地に戻るんだって2時間はかかんだぞ。
日暮れまでに作ったロット植わらなかったら大変な事になんねーか?
そんで一昨日は変なとごから木ぃ、生えてきたっぺよ。
おめさ、ちったあ労わりの心っつーのをよ……
『日没までに3時間ありますよ、サクマユウマ。
あなたの作業能力なら問題ないはずですが?』
……ちくせう。
結局、やるしかないのね……
……何とかしたけどさ。
あ~、腰がいてぇ。
森の再生は急務なのです。
頑張れ佐久間君、帝国が焼き払った森の再生は君の努力にかかってる。