戦いに勝っちゃった俺
それから色々と話をした結果なんだけどさ……
あいつと仲良く…… まあいいか、とにかく敵じゃなくなったって事だ。
回復魔法をかけてボコった所を治してやってから、色々と話しをしたんだ。
で、結果から言うとだな、インゼクトは俺の家来… って事になった。
ある意味、すんげぇラッキー! な事なんだよ、これ。
あいつは、この森に棲んでる生き物の中では、かなり強い部類に入るらしい。
自分の事を蟲皇とか呼んでたくらいだからな。で、あいつらの言う神殿の造り手ってのがどういう奴らだったか知らないけど、この森にも古代文明があったって事で良いかな。
<然り。我らは森の守護者である>
そして帝国が来た時は、いくつかのグループが応戦したらしいが善戦のかいもなく森の1部を焼かれてしまったばかりか、生存者は無し。
だから、このあたりはあいつらの警戒エリアになっていたんだな。
そこに俺が現れ、続いて正規軍が現れた、と。
<前に来た奴らも同じような行動をした。汝が現れたように、最初は1体が。
次いで大勢の者たちが森を襲い、火を放ったのだ>
森を焼いたのは間違いなく帝国の奴らなんだが、あいつらに細かい区別はつかないよな。人間同士だって、時としてみんな同じ顔に見える事ってあるもん。
だから、こいつらの場合はそれ以上だと思うぜ? だってさあ、こいつ──金色カブトムシ──は人間どころか、昆虫から進化したインゼクトという種族で、神殿の造り手から、森を守るように命じられていたと言うんだ。
でだな、なんで俺を襲ったのかと言うとだな、この前俺がGの群れを殺った時の放電の跡を見たからだそうだ。
あのGはこいつが到着するまでの、先遣隊だったらしい。
で、こいつらも全滅した… と。そして死因は焼死…… ホントは違うけど辺りがあれだけ焼け焦げてりゃ区別はつかんか。
それで頭に血が上っちまったらしい。それを見たあいつは、帝国のやつらがまた来たと思ったらしいんだな。手下を引き連れてこっちに来たという訳だ。
手下と言えば、あのコガネムシやカマキリなんかはインゼクトにとって家畜とか猟犬のようなものらしい。とっても物騒な奴らだよな!
そして、現場の近くにいた俺を見つけたあいつは、問答無用で襲いかかってきた訳けどさ……どうやらあの白い奴とも関係があるらしい。
まさか中に入っていたのは……?
<それは知らん。だが彼らは神殿の造り手が遺した5人の戦士たちだ。
我らは影法師と呼んでいるが、細かい事は我らにも知らされていない>
5人の影法師… ねぇ。白いのは倒したからあと4人ってとこか。
でも、こいつらも知らないって事は何者なんだろうね。
<彼らはそれぞれの色をまとっている。それは白、赤、青、黄、緑… だ>
ふぅん、じゃあその5人とも…
「やば… 白いの蹴り潰したの俺じゃん。恨んでいないかな……」
<それは問題あるまい。最後の影法師なら、あそこに>
ぶぉんっ!
「なああぁあっ?」
目の前を光の帯が通り過ぎた。
一瞬でも反応するのが遅れていたら、身体が左右に生き別れてたよ?
目の前を通り過ぎたのってレーザーソードの剣筋だよね? うぶぶぶ… よくもまあ避けられたもんだ。
でも武器を使う奴ってのは、意外と弱いもんだ。
爺さんや親父も言ってたけどさ、武器を使う奴って持っている武器に頼る傾向があるんだ。逆に言えば武器の届かない範囲にいれば何もできないってこと。
相手の間合いの外、あるいは懐に入り込まれたら何も出来ないのさ。
さっきの感覚だとこいつもその手合いっぽいな……
「とうっ!」
仮にあいつが白い奴の同類だとしたら、守勢に回るのは下策と言うもんだ。
それに予想が外れたって、多少の怪我ならホロンが何とかしてくれる。
まだ魔力は残ってる筈から腕の1本くらい斬り飛ばされても、回復魔法を使えば数秒で復元できる筈だ。
だから、俺は攻撃に専念すりゃいい!
「今度はこっちから行くぞっ!」
クイックムーブで赤い奴との距離を一気に詰めた俺は、右腕を蹴り上げた。狙いはレーザーソードの柄頭だが、別に当たらなくてもいい。
要はあいつの注意を一瞬で良いから右手に集中させる事なんだからな。
かんっ!
ふっ、驚いたか。100メートルを12秒で走り切る俺のスピードについてこれんだろ。だが、本番はここからだ。
精神を集中させると… 俺の周りから、ふいに、音が消えた。
周囲の風景も凍り付いたように、動かない。
「サーファラー ラーアリフ……」
凍り付いた時間の中で、俺は無意識のうちに呪文を紡ぎ出して……
重心を落としながらあいつの右腕を掴むと流れのままにくるりと身体を回しながら、あいつの胴体に背中を押し付ける。こいつは基本的な投げ技のひとつに過ぎない。だから寝ぼけてたって、身体が動くってもんだ。
その間も呪文は続く……
「ハウアーボル クパートン…」
そのままの勢いで身体を回しながら腕を押し出す。
バランスを崩した赤い奴は、俺の身体を軸にしてふわりと浮き上がる。
そのまま赤い奴を放り投げた。
ゆっくりと放物線を描きながら、赤い奴は5メートルほど先の地面に叩きつけられるのと、呪文を唱え終えるのは、ほとんど同時だった。
「クェルメイヨ!」
最後の──力ある言葉とともに、魔法が……
……発動した。
ぼっちの佐久間君にも、家来が出来ましたとさ。よかったねぇ。
佐:でもこれ、虫じゃねぇかよぉ!
私:わたしゃ眠いから寝る。あとはよろしくぅ~
佐:お、おいぃ……