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夜行列車に乗った俺

 ドゥーラ航空祭ってのは、けっこう歴史のあるイベントなんだ。

 メイン会場は海軍航空隊の基地なんだが、百里ヶ原基地のアクロバットチームが来るとか、滅多に見られないクラシックな軍用機を見る絶好のチャンスだ。

 今年は富岳(ふがく)を復元したとかで、ずいぶん話題になってる… らしい。


 そういやさ、こいつの復元には去年の大河ドラマも一役買ったって話だ。

 ネットの力は偉大というか、それで繋がってるマニアってのはなぁ……

 あいつらってさ、はっきり言って…… なんか怖くないか?


 前に夏の祭典を見物に行って思ったんだけどさ、あいつらどこかちょっと変。

 それを話したら、常連のお客さん達は真剣な顔をして言うんだよ。

 あいつらとはなるだけ距離を開けた方が… いや見たら逃げろって。

 それが佐久間君の身のためだから… ってね。


 俺もあのイベントの見物に行って、本気でそう思ったよ。

 あそこまでディープに嵌ったヲタってのは、マジでヤバい。

 それに、なんかくさそうだし……


 それで、だ。


 ネットを見てたら、あの連中も俺と同じような事を考えてるようだ。

 イガルタに現れたアレの見物、ってやつ。かと言ってあの連中と一緒になるのは拙いと思うんだよね。

 ……だとしたら、どうしたらいい。


 答えは実に簡単だ。

 あいつらが夏の祭典や航空祭に行っている間に、行ってしまえばいい。

 常連のお客さんとも相談したんだが、それがベストの判断って事になった。

 こうして俺は、キャンプ道具を背負って寝台列車に乗る事にしたんだよ。


 イガルタはドゥーラから特急使えば半日で行ける距離だけどさ、やっぱ寝台列車とか夜行列車には不思議なロマンがあるんだよね。


 とまあ、そういうわけで俺の乗った列車がイガルタに着いたのは、朝日が昇る頃だだったかな。いやぁ、壮観だね。江戸の中央停車場も凄いけどさ、イガルタ駅はもっと凄いような気がするぜ。

 特に貨物ターミナルの規模が… ね。とにかく、半端なく広いんだ。


 イガルタはヤポネス屈指の米の主力生産地で、いくつもの漁港も抱えてる。

 そのうえ大陸との貿易拠点のひとつでもあるわけだ。

 簡単に言うとだな。この駅はとんでもない量の貨物を扱っているってわけ。

 現物を見れば分かる、あの迫力って奴だな。


 これ見たら西岡や磯原が鉄道に夢中になる気持ちも分かるような気がするよ。

 だからと言って、俺は鉄にハマる気はないけどな。

 おっと、そんな事より朝ごはんだ。

 この時間だとサイケリアが開いてるって話… お、あったあった。


 まさか24時間営業のサイケリアがあるって話は本当だったんだな。

 さすがにイガルタは眠らない駅だと言われてるだけの事はあるぜ。

 駅の中をあっちこっち見物しているだけで、半日はいられそうな気がするし。

 プラットホームは2階建て。超特急の駅なんかは地下5階にあるんだからな。


 これを見れば1日の利用者数が平均50万人ってのも、納得だよ。


 軽く朝ごはん食べて、あっちこっち見物を終えるころになると、ようやく動き出したバスやローカル線が動き始めるんだな。それを乗り継いで──乗り継ぎ時間を含めなきゃ30分なんだがなぁ。


 結局のところ3時間以上かけて、ようやくココにたどり着いたと言うわけだ。

 ここは地平線の彼方まで全部田んぼだ。建物なんて、数えるほどしかない。

 ……駅前のコンビニさん、ありがとうございます。

 手巻きおにぎりは、たいへん美味しゅうございました。


 ……というわけで、時刻は午後1時。


 地元が運営しているコミニュティバスを降りて、歩くこと30分。

 ようやく目的地にたどり着いたんだが。

 目の前にあるこいつを見たら、それまでの疲れが吹き飛んだよ。

 それを何て表現したらいいかな……


「これはすごい… な」


 動画や映像じゃなく、この目で現物を拝んだが、やっぱり不思議だ。

 光の環の直径は15メートルくらいはありそうだが、厚みというものが全く無いんだよ。そのくせ、どの方向からも見えるなんてなぁ。

 何というか、正面しかない物体… いや、そもそも物体じゃないよね。


 心ゆくまで光の輪を堪能した俺は、バス停に歩いて行ったんだ。

 キャンプ場はコミニュティバスの終点から歩いて数分の距離にあるそうだ。

 さあて、あとひと踏ん張り、がんばんべー


 ……そう思っていた時もありました。

 途中で軽トラに乗った農家のおっちゃん達から声をかけられるまではな。


「おや、ようこんげな所まで来たね。あんたも輪っか見物に来たんか?」

「今夜はどうするん? ここ宿屋なんかねえれ。なんなら、家に泊ってくけ?」

「いえ、キャンプ場に予約を入れてありますから……」


 夜行列車の切符を買う前にチェックしたのがコレだ。場所が場所だけに日帰りは難しい──つか高校生の俺が車の免許持ってる筈ないだろ。

 それに民宿すらないから、キャンプ場という選択しか残されていない訳だ。


 そいつを家族に話したら、二つ返事で『行ってこい』ときたもんだ。キャンプ場の方も、山火事だけは充分に気を付けてくれと言われただけで、すんなり予約も受け付けてくれたんだ。


 そのあたりを話したんだが… なんかなぁ。

 助手席に乗ってたおばさんが、妙な表情をしていたんだよ。


「……キャンプ場? 歩いていくん?」

「バスに乗れば10分くら「30分ぐれ前に行ったのが最後だて」…えっ?」


 そう言えば、国道を──コミニュティバスって言うのかな──ご当地キャラがごてごてと描かれた小型バスが走っていくのを見たけど…… あれが終バス?

 まだ4時にもなってないんですけどぉ?


「仕方がねえ、車に乗せていってくれよう。荷台でわーりどもな……」

「……すみません、助かります」


 ううううう、あんがと、おっちゃん。

 人の情けが身に染みるぜ。

1個食べればお腹いっぱいになるのがコンビニおにぎり。

決して侮りがたし… なのです。

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