表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/165

空を飛べる事に喜ぶ俺

 結局のところは、あの虫の行列は地下基地のすぐそばまで来たけど、そのまま通り過ぎて行ったんだ。通り過ぎるまで1時間くらいかかったかな。


 虫の大軍が通り過ぎた事を確かめた俺は、そのままパーソナルジェットの試運転をする事にしたんだ。ランドセルのように背負って、V字型に展開したアームからの噴射ガスで空を飛ぼうって考えだが。


 ホロンが考え付いたんだものを、リ・スィが形にしたんだが、こいつは限りなく試作品に近いモノだ。さすがにEVA──ぶっちゃけ宇宙遊泳だ──のための機材を俺の身体に合うように改造しただけだからな。

 せっかくあるんだから、使ってみようと思ったんだ。


 というわけでスイッチON!


 ぱしゅうぅぅ……


 アクセルレバーを軽く握ると噴射が始まった。

 ノズルから噴き出すジェット… というか、これロケットか? まあいいか。

 身体が1メートルくらい浮いたところで、ホールド。これでも出力にはまだまだ余裕はあるから、それなりに使えそうな気もするなぁ。

 試運転なのに推力バランスは取れてるし、見た目によらずパワーもある。


「だが、問題はこの事実… だな」


 こいつ全体的に華奢なんだよ。とにかく地上の──重力がある所で使うには強度が致命的に足りんのだ。普通に浮くだけならこれでオッケーだが、こいつで空を飛ぶには無理がありそうだ。


『ねえねえ宿主さん、もう止めよう。さっきミシッて音したよ?』


 そうなんだよね。アームの強度が致命的に足りないんだ。

 ちょっと無理をすりゃ、ポッキリといきかねないぞ、これ。

 でも、とりあえずタンクに残ったプロペラントを使い切らないとなぁ。


 成分とかは分からないけど、リ・スィが言うには、かなり危険なものらしい。

 俺より皮膚が丈夫に出来てるナパーア星人でも身体に付いたら火傷くらいはするそうだ。


 え? プロペラントって何…だと? ロケットの燃料みたいなもんだよ。

 2種類の液体を混ぜ合わせた時の化学反応で生み出した水蒸気を猛烈な勢いでノズルから噴き出してるだけなんだ。

 その反応剤のタンクが、すんごく小さいんだよ。


 実際のところ、たった1分で反応剤のタンクは空っぽになった。さすがに自販機のペットボトルくらいだから、そんなもんかも知れないな。

 でもこれが、もうひとつの問題なんだ。


 どう言う事かと言うとだな、宇宙だと燃料はほとんど使わんのよ。

 いやこれマジで言ってるんだぜ。方向転換するのに、ぷしっ。ちょっと加速をするなら、ぷしゅぅ…… 使うのはこんなだもんだ。

 あとは無重力空間──慣性の法則ってのが、いい仕事をしてくれるんだよ。


『どう思いますか、サクマユウマ』


 ああ、なかなか良いと思う。だけどもう少しゴツく作らないと、アームが折れるんじゃないかな。あとプロペラントが少なすぎないか?

 そのあたりの改良を……


『ちょっと待って、宿主さん? いま視界の隅で、何かが光ったような…

 間違いないよ、何か光ったよ!』


 何か光った? 鏡…いや、金属的か何かか…… ホロン、分析たのむ!

 今はあいつに任せるのが無難だな。さいわいホロンと俺は感覚を共有しているタイミングで良かったぜ。俺がチラ見した程度の情報でも、ホロンの手にかかれば鮮明な画像に加工してくれる。

 こんな場合には、すんごく役に立ってくれるんだ。


『ねえねえ宿主さん、それホント? 宿主さんも褒める事って出来たんだぁ』


 ぐ… 調子に乗るんでねーぞ。それより分析はどうなったっぺかね?

 まずはそっからだっぺ?


『わかったよぅ…… 結論から言えば、あの金色カブトムシだよぉ』


 え? あの虫の行列、もう戻ってきたのかよ。あいつらの行動予測、ちょっと甘かったかなぁ? てっきりさ、ハリー彗星のように、何かを中心にして練り歩いてるんじゃないかって思ってたんだけどなぁ……

 もう一度、飛びあがって様子を……


「って、もう来てるじゃねえかよ!」


 もう一度ジャンプして様子を見ようか… ってタイミングであいつが──金色カブトムシが現れたんだよ。

 さっき見た時と形がちょっと… ん? 背中の甲羅っぽいのから何か出てるようなんだが…… あれは、翅か? 羽音とか聞こえなかったけど。


『たぶんスラスターの音のせい… だねぇ』


 それか! 地球だとカブトムシの羽音ってのはブヴヴヴ… って感じの重低音だから、てっきりこっちでもそうだと思ってたんだが…… ぬおおおおっ!?

 なかなか早い動きをするじゃねぇか。

 予備動作無しでいきなり10メートルを詰めるかよ。


 それにあいつ… ジグザグに走りながら、エレベーターシャフトの前に陣取りやがった。あの動きは偶然とは思えねぇ。

 それに、こんだけ濃厚な殺気を振りまきやがってさぁ。

 殺る気満々じゃねぇか。


 こりゃあ、腹をくくるっきゃないかねぇ……


『やっ、宿主さん? 逃げ道をふさがれちゃったよぉ』


 いんや、問題ない。道が無ければ作るまでだ。

 だが、それよりも宇宙船の安全が最優先… だな。

 リ・スィ、聞こえてたらエレベーターを緊急閉鎖しろ。

 あいつの侵入を絶対に許すな!


『サクマユウマ。すぐに戦闘メカを派遣しますから退避を……』


 いいから聞けよ!

 戦闘メカが出て来るのと入れ替わりに、あいつがエレベーターに入り込んだらどうするつもりだよ。だからここで足止めするのがベターってこと。

 俺がやられたらエレベーターを爆破しろ。いいな?


 こうなったら、リ・スィへの命令はこれっきゃないよね。


『でも……』


 いいから早くやれ! 俺がこいつの注意を引き付けている間にな。


 俺か? 俺はなぁ…… まだ出来る事があるんだよ!

お盆のころに庭で捕まえたカブトムシが卵を産んでくれたけど、土が少なそう。

ホームセンターで腐葉土を… ああああ、殺菌剤とか混ざってて使えない?

どうしよう? 土の中に埋めちゃうわけにもいかないし……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ