ズボンが穿けない俺
大量のGを退治してから、3日が過ぎた。
ベッドでごろごろだが、この部屋にも独立したコンピューターの端末があるのが分かってからは、そいつをいじったりしている。
ちなみにリ・スィからニーソの修理が終わるまでは外出禁止って言われてる。
ニーソに放電極を仕込んだのは良いんだが、あの時の放電で焼き切れちまったからなぁ。さすがにあの魔法で15万ボルト出すとは思わなかったんだよね。
そうだよな、ホロン?
『ごめんなさぁい……』
そういやリ・スィの仕立てた服の方もずいぶん改良が進んで来たと思う。
何度か試着してはホロンと魔法の練習をしていると、そう感じるよ。
基本的なデザインは変わっていないんだが、いくつか追加が入ったな。
ショルダーアーマーとかマントの1部を出しっぱなしにするとかだな。
とはいえ、こういう装備品の中で一番危険な装備品と言えばマントだ。
そりゃファッションとして見ればカッコイイんだけどね。でも実用面ではどうなのかと思ってるんだ。これって盾代わりに使えるってだけでしょ。
あと背中を守るという意味では使えそうだけど、それだけだもんなぁ。
『他にも色々と仕込みましたよ、サクマユウマ。ナパーア星の技術なら簡単な事ですからね』
ニーソに放電極を仕込んだのだけじゃないのかよ?
あれだって随分… そっちはブーツに移動? まあいいけど。どっちかって言うと防御を優先したいんだよな。そっちはどうなってるのさ。
まさかショルダーアーマーについてるこれも?
へえ、力場発生装置… ねぇ。力場って一種のバリヤーみたいなもん?
力場の種類で性質が変わるからバリヤーに限った事じゃないって……
それ万能じゃん。ちなみにどんな事が出来るん?
次元断層作るとか、重力をある程度遮断って… なんでもありだな、オイ?
『宿主さん、よかったねぇ! その服、ほんっとに似合ってるよぉ』
おいホロン? リ・スィも聞けよ。
な・ん・で、この服スカートなんだ? 俺、オトコなんだけど。
前からズボンが良いって言ってたでしょ。たしかに言ったよね?
デザインの修正、前向きに検討してくれるって言ったよね?
『あらゆる面において最善の効率を求めた結果ですよ、サクマユウマ。
よって、あなたの提案は却下されました。スカートの優位性についてもう一度説明した方が良いですか? 3日もあれば全て説明できそうですが?』
……いや、いい。
外を歩くのにはコレでいいや。リ・スィが最善って言うならしゃあない。
でもさぁ、普段着くらいは構わないと思うんだけどなぁ。やっぱワンピって落ち着かないんだよね、そりゃあさ、バイトではメイド服着たよ。
でもさ、下にハーフパンツ穿た上でのスカートだからな?
『ねえねえ宿主さん?』『サクマユウマ。私も言いたい事があります』
ん? なんだ?
『『それは邪道です!』』
やかましいわ。とにかくな、スカートってのは歩きにくいんだよ。
ちょっと気を抜くと足に纏いつくから、転びそうになるし。
それよか足元がスース―するってのがなぁ……
『そればかりは慣れてください、サクマユウマ。あなたがそんな事では、いざ実戦という時に困ります。私も殉職者リストをこれ以上伸ばしたくないので』
はぁ…… そうなのかよ。
これ以上は、いくら言っても作ってくれないだろうなぁ。
『ねえねえ宿主さん?』
……なんだよ、ホロン。
『地球での常識は、捨てようね♪』
なんだとコラ。お前だろ、リ・スィに変な事吹き込んだの。
それ以外には考えられないんだよなぁ。ナパーア星人ってのは人間の形をしてない事くらい、俺だって知ってんだ。
あいつらの祖先ってさ、哺乳類どころか爬虫類でもないだろ。
たぶんあいつら、深海生物から直接進化したんだと思うんだ。そして、そのまま生存競争を勝ち抜いて地上進出を果たしたんだろう。
だとすると性別があるかどうかも怪しいぜ。
それに、だな。そう考える根拠もあるぜ?
あのお世話ロボット──イソギンチャクもどきだよ。
ああいうものの姿ってな、造物主に似せて作るもんだ。こればっかりは地球でも同じだよな。いい例がホテルや介護施設で使おうって開発してたやつだ。
人間の生活に直接関係している以上、そうならざるを得ないんだ。
その方が何かと便利だからな。
じゃあ、ナパーア星人がそれをしない理由って何だ?
あいつら合理性を追求する種族なんだぜ。
だからな、あのお世話ロボットはだなぁ……
ナパーア星人の姿に似せて作られてると考えるのが自然なんだよ。
『ええとぉ……』
もっと言ってやろうか?
ナパーア星人と俺たち地球人やゼルカ星人の体形は、全く違う。リ・スィにしてみれば、異星人の服を仕立てるって経験は無いだろうな。
そして数少ない服装サンプルは皇女サマのものだけだ。
いくら皇女サマでも男性用の服は簡単に持ち出せないだろうからな。
そして、地球人とゼルカ星人の体形はほとんど同じだ。
だとしたら、リ・スィが俺のために仕立てる服は、どんなデザインになる?
そのあたりを修正できるのは、ホロン… お前だけだよなぁ?
で? 何か言い残しておきたい事はあるか? 一応は聞いてやるぞ。
『……宿主さんが一番似合うのはメイド服』
そうかそうか。じゃあ、アンインストールを始めるとしようか……
『ホロンと戯れるのもそのくらいにしてください、サクマユウマ』
なななな… なんだぁ? この神経を逆なでするような音と振動は!
この秘密基地、ついに壊れたんか?
『緊急事態が発生しました。偵察メカからの映像を表示します』
緊急事態… だと?
佐久間君の衣装がスカートしか無いのは、こういう理由があったからでした。
こういう時は殿方って気の毒かも。女性はスカートもパンツも自由自在だよん。