森の生き物に驚く俺
これは魔法です。魔法って言ったら魔法なんです。
いくら俺の身体が古城のおっさんに強化されてて100メートルを12秒で走り切る事が出来るようになっても、こんな森の中じゃ役に立たねぇええ!
そんな事すりゃ、ぶっとい木に激突だかんな。
だから、それを避けながら走るっきゃないんだが……
ぶぶぶぶぶ……
「うわあああああ!」
あいつらにはそんなの関係ねえんだよおぉおお!
こっちは木を避けながら走ってるからスピード出ないし!
じわじわ距離を詰められてるんだよぉおおお。
だってあいつら空飛んできやがるんだ!
『宿主さん、楽しそうですねぇ』
うあかましいぃい! こっちは必死なんだ!
あいつらさっき何してたか知ってんだろ。
あの後ろ半分ふさふさしたでっかいGの群れはさ、イノブタの死骸に群がってたんだよな。間違いなく食べてたよね? ねっ、ねっ、ホロンも見てたよね?
追い付かれたら、俺もどうかなるぞ。
リ・スィが作ってくれた服でも、これは駄目だよぉおお!
『私が仕立てたの服の性能を信用していないようですね、サクマユウマ』
そんなんじゃねぇぇ!
あんなのにまとわりつかれたらさ、ひたすら気持ち悪いじゃねえかよぉ!
たとえ服が食い破られなくたって俺のハートはボロボロになっちゃうよ?
ぶぶぶぶぶ……
にょほほおおおっ!?
ぐしっ!
俺は肩に飛びついてきたGを振り払った。うげ、何か変な感触……
吹っ飛んだGは何かにぶち当たって、どうかなったみたいだが、見てる暇なんかねえっ! 困った。じつに困った事になっちまった……
追っかけてくるあいつらと距離を、とにかく距離を稼ぎてぇ。
『なぁんだ、宿主さん。遊んでたんじゃないんだぁ』
これが遊んでるように見えるかぁ!
どこに目ェ、つけてんだ!
『強いて言うなら、宿主さんと同じトコ。だってほら、私たち感覚共有してるでしょ? それに私がいるのは宿主さんの精神だし』
そうか… って… っく、息が上がってきた。
かれこれ2時間も全力疾走してるんだぜ。そろそろ体力やべぇ。
つかホロンさんや、これのどこが遊んでるって思ったんだよ。
逃げなきゃ、あのGが全身にびっしり… って事になるぞ。
『なら、魔法を使えば? 宿主さんったら、あんなに魔力があるのに』
あん? 魔法を… そういや使えるな。
『宿主さんたら、私の身体にあんな事をしておいて… 何をボケた事言ってるんですかぁ! 触るの嫌なら、魔法しかないでしょ?』
マホウ… 魔法?
そっか、その手があったな。前にあいつのレジストリをいじって、全属性付けたから使えない魔法はないんだが… どんなのがあったっけ……
『むう、宿主さんったら。仕方がないなぁ、使えそうなのを選んでみるよ』
ホロンはそう言うと、視界の左隅に小さくウインドウを表示させると、リストらしいのが高速でスクロールし始めた。右側の映った丸いのはレーダーみたいなもの… かな?
とにかく、ホロンが作業を終えるまでは逃げ切らんとな。
おりゃ、よっ、ほっ…… にょほほほ… げしっ!
ふう、途中で拾った木の枝が役に立ったぜ。直接殴るのは、もうごめんだ。
近づいてきたやつは、こいつでボコって……
ぐしゃ。
やっぱ駄目だあぁああ!
すんげぇ気持ち悪いよぅ…… だってさ、あいつの胴体殴ったらさ……
当たり所が悪かったみたいで(自主規制)になっちゃったんだもん。
『宿主さん、見つけたよ。一気に片付ける方法。まずマント出して。
あとは私がコントロールするから』
マント、だと?
『服のボタンに触れて魔力を流してください、サクマユウマ』
…こうか?
リ・スィが言った通りに、ボタンに魔力を流すと背中から大きなマントが出てきた。何もない所から、ぶゎさあっ! って感じにな。
たぶん、こいつをかぶって身を守れって事なんだと思うけど……
『宿主さん、止まって! リ・スィ、お願い!』
俺はホロンの言うとおりに、急ブレーキをかけると──っと、危ねぇ。もう少しででっかい木に激突するとこだったぜ──右腕でつかんだマントで身体を守るようにかざした。
ざすっ!
ぬあっ?
ニーソから何本もスパイクが生えてきて地面に突き刺さった?
これじゃ動けないじゃないかよぅ?
『コンデンサー充電開始… 完了まで4… 3…… ……完了!』
『放電開始っ!』
ずばばばば……
スパイクを通じて、地面にとんでもない電流は流れた… らしい。
マントからも何か出てたよ?
なんだよ、これ魔法って言うより……