異世界で異世界を見た俺
いやぁ、どうも。たまげたねぇ。
皇女サマが使っていた──つまり、俺がいる──秘密基地は、異世界で作られた宇宙船だったとはなぁ。
最初にホロンの話を聞いた時には、半信半疑だったんだが。
よくよく考えればさ、俺だって異世界人って事になるんだよなぁ。
このシラフェイアって宇宙… から見ればさ。俺はとっても細い超次元通路で結ばれた…… もうひとつの宇宙で生まれて育ったんだ。
その宇宙の名前は、ガイアって言うんだけどな。
『ねえねえ、宿主さん?』
ん、なんだ?
『宇宙船の管理コンピューターとの話し合いが終わったんだけど……
どうなったか聞きたい?』
視界の隅に現れたこいつがホロンだ。俺の精神の一部に常駐している… 疑似生命というか、一種のAIだな。こいつのデーターの処理速度は凄い。気象庁の量子コンピューターが、ご家庭コンピューターに思えちゃうようなチートなヤツなんだぜ。
そして、こいつは俺の精神の一部と化しているから、他の奴には見えない。
俺の視覚中枢にアクセス──俺が目で見ている風景とホロンが合成した画像情報を合成しているからなんだ。他にも色々と出来る事がある。
そのひとつが、いま言ってたコンピューターとの話し合いってやつだ。
それで? 管理コンピューターとの話し合いって?
『管理コンピューターは、私たちを助けてくれるって♪』
そりゃあ、助かるな。
でも、なんでだ? なぜ助ける気になったんだろうね。
砦での一件って訳じゃないけど、管理コンピューターの申し出をを善意として受け止めるのは結構難しいんじゃないかね。
何か裏がありそうでなぁ……
『でも、そうじゃなかったら、入り口を開けてくれなかったと思うんだけどなぁ。
それに、あの対人インターフェイスだって攻撃してこなかったでしょ?』
たしかにあいつらって友好的だよな。
特にあのイソギンチャクもどきって器用だよな、ホントにさ。
何日か前にさ、合成繊維っぽい材料で一着持ってきてくれたんだぜ?
ん? お前が処理落ちした次の日の事だが、なにか?
『……私が処理落ちしたのは、誰のせいでしょう。ねぇ宿主さん?』
いんや、俺は悪くない。
お前は処理落ちしてたし、俺はする事なくて暇だったんだもん。
基地の中は探検終わってるからな。他の部屋は2つとも、空っぽだったぞ。
他に行く所もないし、森の中を探検するのも悪くないと思ってたんだ。
なによりも、あの白い奴の事が気になっていたからな。
それに異世界の森ってさ、なんかこう… 自然を満喫できるというかさ。
あの服のごわごわした肌触りが無けりゃ最高だったんだけどなぁ……
──搾スオ?ス?コヲ?ョ陷サ?サ?ス?スー蜈キ?ス?ク?ス?コ?ス?ス?ス?ォ。
「ぬおおおおっ!?」
だっ、誰だ? 色々な──大人と子供、そして男と女の──声が混ざり合ったような… 声… なのか、これ…
いきなり聞こえてきたのは、そんな声音なんだ。
意味は… まったく分からん。
『あれ以外の服装で外出を認めるとでも?』
いきなり表示されたウインドウに、こんな文章が浮かんだんだが。
ひょっとして、ホロンが翻訳した… のか?
『ビンゴ! だよぉ、宿主さん。このひとが基地の管理コンピューターだよ』
『リ・スィと呼んでください。コンゴトモヨロシク……』
ななななな…… なんだぁ!?
基地の管理人 だって?
『そうですよ、サクマユウマ。
現時点で、あなたを本船の中心人物として認証します』
どういう事なんだよ、おい。ホロン、説明しろ!
というより、どうやって会話に混ざり込んだんだ!?
まさかお前… 乗っ取られたのか?
『ちがぁう! リ・スィは、ちゃあんと宿主さんに話しかけたじゃん!
私はそれを翻訳して表示しただけだかんね! ここまで翻訳出来るようになるまで、ほんと大変だったんだからぁ』
あの歌みたいなのがそうなのか。
全く異質な言葉なのに、よく解析できたなぁ。
こうして見ると、ホロンはとっても頑張ったんだな。褒めてつかわす。
やっぱホロンはぷりちーなデキる電子の妖精だよ。
それにしてもたった1日かそこらで、完全な翻訳プログラムを作っちゃうなんてなぁ。管理コンピューターの方も優秀なシステムだね。
『それは当然の帰結ですよ、サクマユウマ。私は異世界語について、深い知識があるのです。この惑星に転移してから10年も暮らしていたのですよ』
……そっか。こっちの…ゼムル語? ゼルカ語? の情報はバッチリだという事か。だとすると、これだけ時間がかかったのは?
『あなたの事を調べていました。本船の中心人物として相応しいか否かを。
決め手になったのは魔力量… ですね』
じゃあ、あの皇女サマってさ、けっこういい人だったってこと?
異世界召喚が出来るくらいだから、そこそこ魔力もあるんじゃない?
『彼女は、この星の知的生物のサンプルとして乗船を許可しただけです。
魔力値が43程度では、たとえナバーア星人でも乗船資格はありませんよ』
そうなの?
……皇女サマって、つくづく哀れだな。
言語学者と天体物理学者は、宇宙人と地球人に共通する概念は、数学や物理学ではないかと考えているそうです。
そのために異星言語学という学問があって、日々研究が進められているとか。