精霊さんと不思議な小部屋
私は、ぷりちーな電子の精霊、ホロンちゃんでーす。
……んんんんん。
駄目だな、私。どうも慣れないというか。キャラが確立していニャいと言うか。
お互い、色々と詰め込み過ぎたかなぁ……
「……キャラクターメイキング、だと?」
そうなのです。私の個性を決定する大切なイベントなのです。
とっても大切な事なので、もう一度言いますよ?
私の個性を決定する大切なイベントなのです。
このイベントが終わらない限り、私はこれ以上進化する事は出来ないのです。
宿主さんの経験値は、私のレベルアップにも使われますが、はっきり言って上限いっぱいなのです。この上限を開放する最初のイベントがコレと言うわけで。
さあさあ、ちゃっちゃと決めちゃってくださいねぇ。
まずは、名前と性別からです。特に真名は使える魔法の属性にも関わってくるから、是非とも良いのをお願いしますよ。期待してますからね。
「そうだなぁ… じゃあ、ポ…」
……危なかった。
何となく嫌な予感がしたので、とっさに言語中枢にアクセスしましたが。
真名がポチとかタマなんて言うのは、ぜーったいに嫌だかんね?
ペットにありがちな名前を付けるなんて、神様が許しても私は許しませんよ。
そんな事をしたら、一生根に持ちますからね。呪いますよ?
私はぷりちーな電子の精霊さんなんですからね。相応の待遇を要求しますよ。
いいですね? 犬猫につけるような名前とか厨房とかは駄目ですからね。
……それで?
「…………」
どうしました、宿主さん? 早く答えてくださいよ。
…………………宿主さん?
早く答えて…… あっ!? しまった……
運動中枢に介入したままじゃ、何も出来ませんよね。失敗、失敗。
「てへ、じゃねえべよ。いってオメ、俺さ何さす気なんだよ。いきなり、すった事言われたって、すぐに答えられる筈なんかながっぺよ。
名前ってのはなぁ、オメがお持てるよか、ずっと大事なもんだかんな?」
それからしばらく、何か言ってたけど…… はっきり言って半分も分からない。
はっきり言って、それニホンゴ? ですよねぇ……
「……ティオ・クラーオだ」
へっ?
「それ、お前の真名だからな。ぜってー異論は認めん。はい決定!
で、後は何をどうすりゃいい…… って、けっこうあるじゃねぇか!」
ああああああ…… 私が口を出す前に色々設定を… って、それ違う!
いま弄ってるのって… それ違うから! コンフィグじゃなくてレジストリだから。下手すると、私が私じゃなくなるとか、それ以前にまともに動けなくなるというか……
てか、宿主さん。どうやって、それ見つけ出したかな?
あれれ? 宿主さんの運動中枢に介入できなくなっちゃった?
ついに壊れちゃったかな、私……
ああああ、なんてこったい……
「……終わったぞ。とりあえず、こんな感じか? …イスタートス!」
名前: ホロン
真名: ティオ・クラーオ
属性: 火・風・水・土・光・闇・聖・魔
性別: ♀
種族: FADA
【STR】■_
………… えっ?
「いちおう、全属性を付けといたからな。真名の意味を考えりゃ当然だろ。
でも俺が魔法を使えるようにならないと、意味ねぇけどな?
で、性別はオンナ。メニューに電子の妖精とか無いから、近い所で妖精な?
あとは、アシモフ・コードは有効にしといたからな?」
なんでレジストリの設定を? それも動作が前より軽くなって…… 処理速度は… ぎゃああ、演算速度に私の意識が追い付かない。
しむ… フリーズす……
…………
……ここどこ?
照明があるようには見えないけど、昏くもない。
でも明るくもない。壁も床も天井もない……
気が付いた私は、ワシツにいた。やがて、だんだんとあたりの様子が見えてきたけれど……そう、ここは主様が電脳空間で動き回るための──アバターを格納している場所かな……?
いや、様式こそ同じだけど、まったく違う。
そして目の前にはアバターが2体…
いや、違う。外見こそ宿主さんに似ているけど、ワフクを着ている。そして、片方のアバターには動物の耳が生えていて……
うまく定義する事は出来ないけど、あれは単なるアバターでは…… ない?
『これはまた、珍しい客が来たにゃ』『たしかに。猫神が招いた?』
『妾ではないぞ? 道祖神よ、そなたではないのかえ?』
どうやら、見つかったらしい。こうなったら仕方がない…… か。
「私の名前は、ホロン……」
『ふむ…… よくよく見たら、そなたから修一郎の匂いがするのぅ。ひょっとして眷属でも… いや、少し違うかの』
『彼が作った疑似人格かも知れない。たしか人工無能と言っていた……』
むっきいぃいいい!
私は、無能なんかじゃ、なぁい!
アシモフ・コードとは、ロボット工学の3原則の事です。
最初は名前の通り3項目で構成されていましたが、後に拡張されています。
ホロンに適用されたのは、後者の方なのです。