帝国の正規部隊を見た俺
なんだかんだで秘密基地で暮らし始めた俺です。
平々凡々とさ、何事もなく暮らせるって良いよね。
地上では大騒ぎになってたみたいだけどさ、こっちは関係ないもん。
だからそんなの無視して、ただいまのんびり内部を探検中。
なんだよぅ、地上で何があったのか教えろって?
まあいいじゃないか。俺が皇女サマのベッドでぐっすり眠ってる間の出来事だもん。騒ぎは現在進行中で続いているけどさ、もうじき終わるんじゃね?
それよかさ、俺の服… 何とかならなかったのかよ。
『宿主さんに似合う服は、これしかないと思うんだけどねぇ♪』
おいこらホロン! おめ、楽しんでんだろ。
隠しても分かっかんな。なーして、スカートなんだよ。
そりゃ、言ったよ? バイトの時に特製の制服って、メイド服着たけどさぁ。
それも俺だけがな。他のヤロー共は、ちゃんとしたウエイターの服装なんだぜ。
なんでも終太郎さん──店のマスターな。あの人が言うにはさ、俺のファンクラブとかがあるらしくって、そいつらからの寄付だって言ったんだよ。
そして、そのメイド服は恐ろしいほど身体にフィットしてたんだ。
そのお陰で動きやすかったけどな……
で、とどめの一言っていうかさ。
──特別手当を出すからさ。とりあえず日給2文でどうだい。
ったくよぉ、これは間違いなく悪魔のササヤキってヤツだよ。だってさ、給料倍増どころかさぁ… 俺の時給3文と50だよ? それが5文と50って……
それこの4月にバイト始めたばかりの新人に払う給金じゃないよね?
それに、この服着てから、すんげー忙しくなったんで抗議する暇もねぇ。
加えておかみさん──マスターの奥さんがまた厳しいのなんのって。
歩き方とか、すんげー厳しく言われてさ。あの時は鬼かと思った。
それを母さんに話したら、家でもあれやこれやの特訓が始まってだなぁ…
それもさ、特訓の最中はすんげー嬉しそうな顔してんのよ。
こういうのは実際に着てみないと、身につかないとか言ってさ。
しまいにゃ自分のワンピを仕立て直して、俺に着ろって言う始末だ。
練習なんだから体操服でも構わないだろ… って言ったんだが、駄目だって言われて無理矢理身体のサイズ測られた事もあったな……
ひょっとすると、そいつがファンクラブに流れたのか…… うん、あり得る。
『でも、特訓したかいはあったよぉ。お義母様には感謝しかないねぇ』
やめろおぉおおお!
中学に上がった頃のこと思い出しちゃったじゃないか。
……泣くぞ? 拗ねるぞ? つかホロン、おめ根にもつかんな?
『はいはい、それ後にしてね。それより地上の騒ぎが収まったけど?』
……さよか。
じゃあ、部屋に戻るか。そうだよ、あのベッドのある部屋。
そこには風呂だけじゃなくてな、食堂とか書斎とかが、があったんだよ。
『宿主さん、指先の動きが変。ちゃんとやって!』
別にいいだろ? せっかく仕立てた服に失礼だぁ?
このマキシ丈って奴は、裾が足首まであるロングスカートだ。メイド服もそうだったけど、変な歩き方すると足に絡まって簡単にコケる。
今でこそ慣れて… 身体が憶えたからなんとか歩けるけどな……
でもなんとか歩けるだけだ。気を抜くとコケそうになるんだよ。バイトしてた時の制服と違って動きにくくてなぁ!
指先の所作にまで、注意してらんねえよ。
それで?
『街道を進んでいたのは、傭兵とかじゃなくて、正規軍だと思うんだよね』
たぶんセトラニーから出発した部隊なんだろう。
すんげえ立派な鎧を着た奴を先頭に20人くらいの、ザ・騎士って感じの騎馬兵が砦に向かって進んでいたんだよ。馬車というか、ホロ付きの荷車に乗ってるのは100人くらいってとこか。
全員が群青色の服着ててさ、黒っぽい鎧を着てたからな。
それが俺が泥のように眠ってた時の話なんだ。もしもそいつらがセトラニーから来たって言うなら夜通し歩いてきたんだろうなあ。
食事と休憩をしたら出発したそうだけど、あの方向には砦しかないよね。
またどこかに戦争仕掛けるつもりなんだろうなぁ……
ホロンもそんな感じでいたから、気にしてなかったらしいんだ。
案の定、馬の死骸とか毒に侵された俺の痕跡とかは見つけたみたいだけどな。
だからと言って、森の中に入ってくる気配もなさそうだ。
そう思っていたら、連中はあの砦に入っていったんだよね。
と、ここまでが風呂に入ってる間の出来事だ。
そーだよ、触手に壺の中で洗われてた… おおおい、思い出させんなよぅ……
気になったホロンは、人工衛星と頻繁にリンクしていたらしい。こいつ対地観測衛星だけど、画像は下手な軍事衛星より鮮明だからな。
中庭で放し飼いになってたニワトリっぽいのとかヒヨコまで映ってたし。
つか、そいつが分かるくらい高性能なカメラを積んでるって事だ。
地球の軍事惑星だと、ここまでは無理… って事になってるらしい。
樽巻の奴なら知ってたかも。あいつ筋金入りの軍事ヲタだったからなぁ。
『で、宿主さんのご飯を作ってる時に、戦争が始まったんだよねぇ』
戦争って… あいつら、あの砦で暴れはじめたのかよ。
古城のおっさんは、群雄割拠の世界だから… って、ちがぁう!
あの画像を見る限りだけどさ、なんかおかしくね?
どう見ても同士討ちをやってるじゃん。
砦で見た旗とか建物の出入り口に刻まれてた紋章とさ、セトラニーから来た奴らの旗指物なんかなんだけどな。
どっちの紋章も同じデザインに見えるんだよね。
というよりも、見間違える要素ってほとんどないよ。
蛇が環になって尻尾に噛みついてる──たしかウロボロスって奴か?
色だけでも違うってんなら、ある程度察しはつくけどさ。
どっちも同じデザインの旗… 全く同じものだった。
いったい何が起きたんだろう……
皇女サマに仕えている武装親衛隊は近衛騎士団から抽出された腕利き集団です。
でも最前線で戦う事は、ほとんどない部隊なのです……