精霊さんと気になるアイツ
私は電子の精霊。名前は、ホロン。
いつも宿主さんの精神の拡張された領域に常駐して、サポートをしてゐる。
にょももも… なんか固いなぁ。それにめんどい。
とにかく私は宿主さんのサポート…
相談相手とか、情報御分析とか立場的にはそんな感じ。
あとは宿主さんが魔法を使えるから、そのあたりのコントロールとかかな。
それが出来るのも、宿主さんと感覚情報を共有してるから。
宿主さんが体験した事は、たいてい私にもフィードバックされるのだ。
目で見て耳で聴いたもの、そして匂いや手触りとか。
筋肉の動きさえも──筋電流という形でモニターできるので、あ~る。
これらの情報を解析して色々とアドバイスをしたりとかする。
でもでも、宿主さんの精神に常駐しているという事は… だよ。もしも宿主さんが死んでしまったら?
最悪の場合、私も消滅してしまうかも知れない。
それだけは、絶対に嫌だ。
仮に主様がバックアップから復元してくれたとしても、だ。
それは私であって私じゃない別のものだから。
そう言う意味では、宿主さんと私は運命共同体だよね。
そして、主様が言っていたけど、私はネットワーク対応だそうだ。
主様が言っていた事をそのまま繰り返しているだけなので、どういう意味なのかまでは分からない。宿主さんの身体をアンテナ代わりにして、色々な情報を拾う事が出来る能力のこと… らしいんだけど。
それも大したものではないと思う。人工衛星のひとつにアクセスする事が出来たけど、向こうが送ってくる信号を受信するだけだもん。
でも、そのお陰でウインドウに地図を出せたんだ。そして、もうひとつ。
この近くにアクセスできるデーターベースを見つけた。
宿主さんに話したら、すごく興味を持ったみたい。
馬を降りた場所から300メートルくらいだけど、それでも森の中だからリスクなしという訳にはいかないと思う。
宿主さんは、それでも行くべきだって言うんだけどねぇ。
そうそう。宿主さんとの意思疎通は、一種のテレパシーのようなものかな。
宿主さんの意識に直接、話しかけているから。
もちろん宿主さんも同じ事が出来るのは言うまでもない。
そして、声だけだとアレなのでちゃんとGUI環境も整えておきましたとも。
宿主さんの視界にウインドウを合成して… うん、そうそう。
実写合成みたいなものだよ? そこに色々な情報を表示できるようにした。
もちろん私の姿もね。光の粒が人間の形に集まっているように見えるはず。
ふっふっふ、すごいでしょ? 私を創った主様ってさ。
ええと… 何とかみたいな何か? そんなん知らないよぉ。
私は宿主さんの視界をデスクトップ画面に見立てて、ウインドウを出すだけ。
ただそれだけのサポートプログラムだからね?
他にも色々出来るけど、それはまあ… おいおい話すとして。
宿主さんの言葉を借りるなら……
──問題は、この事実だ… ってこと。
私たちは──実に困った事態に陥っている。
なぜならば宿主さんは、意識を失っているのだ。つまり、今の私に出来る事は周囲からの情報を拾う事が出来るだけ。
逆に言うと、それしか出来ない……
なんでこんな事になったのかと言うと、だ。
森の近くで、宿主さんが馬を降りた事から始まるかな。
ガイア宇宙から召喚魔法で引き寄せられたというか、誘拐された宿主さん。
途中で主様が、それをキャッチして宿主さんの肉体と精神を強化して。
色々な知識なんかと一緒に私をインストール。それも絶対ゼロ時間フィールドジェネレーターのお陰で、瞬きひとつしないうちに終わっている。
そして、いよいよ宿主さんを召喚したBBAとのご対面。
宿主さんを召喚したスカリット・ケイティ・ゼムルという女はさ、ゼムル帝国の第1皇女だと言うんだけど。主様からインストールされた… 『常識』というファイルをチェックする限りでは、完全に行き遅れだ。
まあいいか。もうアイツは、そういう心配しなくても良いはずだもん。
最後に見た時は(自主規制)という状態だったから、生き返るためには回復魔法──それも上位魔法レベルを使わなくてはならない。
それを皮切りに召喚魔方陣と周辺施設を破壊して、その場から脱出する事に成功したんだけど。そこまでは上手くいったと思う。
最後の最後になって、猛毒の入った水筒を渡されたとかもあったけどね。
犠牲になった馬さんには気の毒だったけど、宿主さんは無事。
連合王国の三文文士、セイクピャーも言ってたじゃない。
終わり良ければ、全てよし… ってね。
だから、脱出ミッションは成功したと言えると思う。
ちなみに、水筒に入っていた毒はとっても危険なものだった。
毒がついた馬の身体は、腐食… でいいかな。
体組織が急激に組織崩壊を起こして、どろどろになり始めていたから。
もしも宿主さんが毒無効のスキル持ちでもこれが全身に回ったら……
最悪、レジストに失敗したら馬と同じように骨すら残らなかったかも……
そのあたりは、うまく偽装する事にしたけどね。
どうなったのかって?
ダンジョン攻略のゲームで、ニンジャが出てくる奴ってあるじゃない?
あれって、最強の装備ってアレじゃない。それを宿主さんがやってるんだよ?
私じゃなくても、じゅるる… ってならなくない?
ならない? あの尊さが分からないなんて、あんた損な人生送ってるねぇ。
まあ、それはいいとして。偽装工作を終えた私たちは、偶然にもアクセスする事が出来たデーターベースの探索を始める事にした。
少なくとも雨露をしのげる場所なのは間違いない。
だから、あえて森に入る事にしたんだけど。
BBAだけが知っている秘密の場所… そこは安全地帯に間違いないはず。
問題は正確な場所が分からないという事だけど、見つける方法はある。
適当に歩きながら、確立したままになっている通信波を拾うだけでいい。
そして通信波が強くなる方向を見つければいいのだから。
それは途中までは、上手くいってたんだけどねぇ……
ヘビ毒の中には、噛みついた獲物の細胞を破壊… 壊死させるものがあります。
私の知っている範囲だと、ハブやマムシが持っているとか。
そして血清で治療できても後遺症は強烈です。最悪、手足を失う事もあるとか。