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気になるアイツと皇帝陛下

番外編(用語解説的な何か)を18時に投稿します。

本編とは直接関係がありませんが、ネタバレはあるかも。

 ゼムル帝国の首都セトラニー。

 都市は、10キロ四方はあるだろう。幅の広い道路で区画分けされた市街地には集合住宅がびっしりと立ち並んでいる。その中心にある──小山ひとつを要塞化した──ザモク城こそが帝国の中枢なのだ。


 そのザモク城の主の名はイデオート・タルマーク・ゼムル。


 彼の下にひとりの使者が謁見を求めているという報せが届いたのは、宵闇迫る大空に、ぽつりぽつりと光るものが生まれ始める時間だった。


「ズロゥ宮からの使者とな? すぐに通すがよい」


 そこは隣国の──都市国家ポル・クゥエとの国境沿いに配置した砦のひとつでだった。過去形で語られているのは用済みになったからにすぎん。

 都市国家は半年前ほどに業火に焼き尽くされ、滅び去ったからな。


 用済みになった砦は、ある目的のために再利用する事になった。我が娘にして第1皇女スカリットの主導による勇者召喚の儀式を行なうためだ。

 儀式が始まったという第1報がザモク城にもたらされたのは、そろそろ昼飯時のさしかかろうか… という時間だった。


 今回の使者は、それに続く2度目のもの。

 玉座に座る皇帝が、期待を持つのも当然と言えば、当然の事だろう。

 そこに、ひとりの青年がゆっくりと近づいてきた。


「父上… いえ、皇帝陛下。姉上からは何と?」

「うむ、そなたも来たか。ではトロイよ、余と共に使者の報告を聞くがよい」


 息子には魔法使いとしての才覚はないが、軍略に関しては姉をも越えよう。

 ゆえに軍政官として併合した周辺諸国の一部を任せておるが、此度の勇者召喚の儀式を耳にして、急ぎ登城したのであろうな。

 いつもながら良い判断をするものよ。


 場合によっては召喚した勇者を任せるのも一興かもしれぬ。


 待つほどもなく、使者が現れたが…… むむっ、これはどうした事だ。

 両肩を近衛兵に支えられ、歩くというよりも引きずられておる。まるで敗残兵とも見まがう姿は、誉れ高き武装親衛隊の隊員とは思えぬ。

 何か嫌な予感がするが……


「その姿はなんとしたこと… ズロゥ宮で何が起きたというのだ?」

「勇者召喚の儀式が、失敗いたしました」


 なん… だと? 余の耳がおかしくなったのか……


「再度、問う。勇者召喚は成功したのであろうな?」


 魔の森で手に入れた魔導書の解読には、何の間違いも無かったはず。

 それが証拠に、スカリットはポル・クゥエを一瞬で焼き払ったではないか。

 回復魔法にしてもまた然り。捕虜から情報を引き出すのに重宝しておる。


 さらにスカリットは余の娘。帝国の魔法使いの頂点にして、唯一の魔道士だ。

 魔方陣の作成に必要な素材は全て揃えたのだ。それに魔方陣に捧げる贄の数も軽く1000人は超えよう。

 それを見た娘は、勇者召喚の儀式は確実に成功すると申しておったのだぞ。


「いいえ、陛下。まことに残念な事ですが…」


 ううむ、これは…… 拙い事になったものよのう。

 砦ひとつ失った程度で今後の戦争計画に支障が出ることはないが、帝国の威信には、いささかの瑕疵であろうとも、決してあってはならぬ。

 なぜならば、だ。


 愚かな愚民共は、完璧かつ優秀なる者の手で管理されなばならぬからだ。

 それを可能とするのは、我が帝国のみ。かつて星の海にさえ覇を唱えた古代帝国の後継者は我がゼムル帝国でなくてはならぬ。

 周辺諸国の者共は、こんな簡単な事も分からずに余の命令に背くとは。


 そのような劣等民族は帝国にとって害になる事はあっても、ひとかけらの役にもならぬ。そのようなものは、この地上から浄化されなくてはならぬ。

 だがそんな些事に神の手を煩わせるまでもない。

 愚かな背教者を我らの手で浄化し、その血を祭壇に捧げるのだ……


 そのために、わが命令に背く近隣諸国はことごとく討ち滅ぼし、その結果として帝国は強大な国家へと成長したのだ。

 そして、さらなる1歩のために行なったのが勇者召喚であったのだ。


 あの魔導書に記されたような完全なる兵士… それが実在するのであれば、是非とも我が軍門に加えたいものだ。勇者の力があれば、我が帝国は古代帝国を再建出来るだけではない。第2の1000年王国の建設も早める事も出来よう。


 しかしズロゥ宮よりの報せは、余が期待していたものとはまるで違っておった。

 まさか勇者召喚に失敗するとは、な。それだけなら、別に構うまい。

 問題は、余の前におるのは武装親衛隊の1兵卒だという、この事実じゃ。

 本来ならば、スカリットが余の前にて、上奏すべきところであろう。


 ゆえに問うのだ。

 娘は… 何故スカリットは余の前に姿を現さぬのだ。


「どうしたのじゃ。はっきり言わぬか」

「皇女殿下におかれましては、祭祀場にて勇者様をお招きするため……」


 それは知っておる。余が命じた事であるからな。

 余が求めているのは、その結果であるぞ。


「勇者召喚の儀式を執り行っている最中に、祭祀場が爆発しました…

 皇女殿下は…… 爆発に巻き込まれ、身罷(みまか)られました」


 なん… という事だ。

 砦のひとつやふたつ失ったところで、惜しいとは思わぬ。

 しかし、勇者召喚に失敗したばかりか、スカリットを失う事になるとは。

 ここは帝国の威信を守るためにも、早急に手を打たねばならぬ。


「うむ、そうであっか…… ご苦労。そなたは、存分に身体を休めるがよい」

「ははあっ……」


 あの傷では、あ奴も長い事はあるまい。

 で、あれば…… だ。


「トロイよ、急ぎズロゥ宮に向け出立せよ。……あとは、分かるな?」

「もちろんです、父上。帝国の威信は守られなくてはなりませぬ」


 うむ。分かっているなら、それでよい。

 ならば、急ぐがよい。

これが、帝国の正体なのです。

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